学部・研究科長挨拶

挨拶

遺伝子レベルから地球レベルまで、
生命を基本とした「農」が関わる対象は多様で興味深い

農学部・研究科長 堀野 治彦

農学研究科長・学部長 堀野 治彦

 

大阪公立大学の前身の1つである大阪府立大学には元々農学部が存在し、平成17年の法人化に際し生命環境科学部へと再編された経緯があります。その後も若干の改組を経て、今回の新大学(大阪公立大学)設置を機に、再び「農学部」の看板を掲げることになりました。これは単純に回帰を目指したわけではなく、生命環境科学時代に培ってきた学術的知見や技法を生物の存続に関わる新たな農学に活かすよう舵取りすることを考えたためです。

ご存じのように農業は英語ではagricultureと表され、元々はラテン語の野原(ager)を耕す(cultura)という意味といわれています。いうまでもなく「農」という生業の根源的な役割は、人の持続的な暮らしを支える食料をはじめとした生産物を提供することでしょう。この意義は本質的であり、いつの時代でも重要なことに変わりはありません。一方、農は必ずしも作物を育てる狭義の農業として意識されるだけではなく、土地資源としての農地、生活集団としての農村、さらには環境形成、多様な地域資源の保全・利用、生態系サービスなどとも深く関わっていることも認識されつつあります。すなわち、食料生産のみならず、物質生産、エネルギー生産あるいは環境形成などへの学術としての農学の展開が図られるようになってきました。また、農学は純粋な学術的側面だけではなく、その成果を社会に還元(社会実装)する「実学」としての側面も担っています。例えば近年では、バイオサイエンスが農学的にも重要視され安全な遺伝子操作による作物の品種改良に応用されたり、ICTを利用した精密農業技術などによる新しい農業生産システムが進展したりしています。繰り返しになりますが、これからの農学は食料供給の本質を踏まえつつ、生物の機能や生命現象の解明、自然環境の診断・理解、環境との調和に配慮した人間活動の提言などにも他分野と融合しつつアップデートしていくことが求められます。

本農学部・研究科ではこうした要求に応えられる人材の育成に向けて、食、健康、環境、生物資源を連関して教育・研究を展開したいと思っています。設置趣旨書にも書かれているように、具体的には「生物資源の確保と有効利用」、「持続可能な食生産と消費」、「豊かな生活環境形成」、「生物文化多様性の保全・創出」、「健康問題への貢献」などに資する技量を養い、その学びが役立つ産業分野や行政機関などで活躍できる専門職業人を育成することを主たる教育目的としています。何物にも囚われず、自分自身の目や耳、肌で世界を感じること、すなわち五感を通じて身の回りの世界、自然環境を理解することを起点とし何にでも興味をもって考究することが大切であり、飽きの来ない楽しさを継続するコツではないでしょうか。農学に興味を持たれた皆さん、私たちと一緒に腕を磨きませんか。