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2025年12月17日
- 活動報告
《海洋システム工学実験 発表会:環境2班》
実験テーマ:浸透取水法の適用地域拡大および環境改善効果の評価
8月4日(月)に学部3年生が「海洋システム工学実験」の実験成果を発表しました。環境2班では「浸透取水法の適用地域拡大および環境改善効果の評価」について発表を行いました。

■ 環境2班メンバー
学士3年生:斎藤 光希さん、大内 晴矢さん、田﨑 海成さん、藤原 彩楽さん
修士2年生:黒川 俊章さん、吉谷 楽至さん
■ 実験背景
人口増加に伴い、水の需要が増加する中で、海水淡水化施設(海水から生活用水を作るための施設)の必要性は非常に高まっています。
しかし、地球上に存在する水のうち、利用しやすい水は全体の0.01%と限られています。
そのような状況の中、海水淡水化施設では「逆浸透法」や「浸透取水方式」などの手法を活用して淡水化が行われています。
・逆浸透法
「海から取水→不純物の除去→加圧」という手順を踏み、淡水を作り出します。しかし、この方法では浸透膜への生物付着による、膜の詰まりに対処することが難しくなります。
この問題を予防できる手法が、浸透取水方式です。
・浸透取水方式
海底の砂の下に埋め込んだ管から海水を取り込みます。この際に地層をフィルターとすることで、不純物を大幅に減らして取水することができます。
しかし、都市付近の海底ではヘドロが多く発生しており、十分な採水ができないという課題があります。
これらの背景を踏まえ、真空集液器を用いて、都市近傍の底泥(ヘドロ)に対して浸透取水法を適用することを目指して実験を行いました。浸透取水法の適用可能地域の拡大を狙うとともに、海水をヘドロに透水させることによる、継続的なヘドロの改善効果を検証します。
■ 実験について
実験方法
1. 実験試料の採取
コアサンプラーを用いて、大阪府泉佐野市のりんくう公園内海内の底泥を採取した。
2. 実験装置の作成
以下の図に示した実験装置を作成。真空集液器を設置し、投入用海水も作成した。


3. 水質の計測
溶存態無機窒素(DIN)を吸光光度計を用いて測定する。
DIN:硝酸態窒素およびアンモニア態窒素
4. 底質の測定
実験経過ごとに表層で酸化還元電位(ORP)を測定する。
■ 結果と考察
- ORP計による計測結果より、表層において、還元性が強くなった
- pH計による計測結果より、時間経過に対して、表層のpHは塩基性が強まった
→表層においては還元雰囲気が強くなり、硝酸に含まれる酸素が底泥の嫌気性分解に利用され、アンモニアが発生したと考えられる。 - NOx(硝酸態窒素)およびNH4-N(アンモニア態窒素)の分析結果は、時間が刑するにつれ硝酸態窒素(NOx)の割合は増加傾向、アンモニア態窒素の割合は減少傾向となった。
→ヘドロの嫌気状態が改善され、分解速度が早い有機物分解のフェーズに移行する可能性がある。
■ まとめ
実験終盤の挙動が今後も続いていくと仮定すると、浸透取水法によって底質の嫌気状態の改善やヘドロの減少を見込むことができる。
大阪公立大学 海洋システム工学科では、海洋環境と人類が調和しながら持続的に活動できる未来を目指し、工学的なアプローチによって多様な課題の解決に取り組んでいます。
「海洋環境を改善するにはどのような工学的手法が有効か」「海洋資源を安全かつ効率的に活用するにはどうすればよいか」──そんな疑問や探究心を出発点に、学生一人ひとりの想いと好奇心を、確かな専門力へと育んでいく場所が海洋システム工学科です。