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2025年12月17日

  • 活動報告

《海洋システム工学実験 発表会:流体3班》

実験テーマ:スラスター推力による双胴船の同調横揺れ抑制

8月4日(月)に学部3年生が「海洋システム工学実験」の実験成果を発表しました。流体3班では「スラスター推力による双胴船の同調横揺れ抑制」について発表を行いました。

 

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■ 流体3班メンバー

学部3年生:今里 直哉さん、渡邉 大翔さん、藤井 陸翔さん、大塚 港太さん

修士2年生:田邊 優希さん、中野 皓裕さん、長沢 和泉さん

■ 指導教員

檜垣 岳史先生、二瓶 泰範先生、谷口 友基先生

■ 実験背景

作業船が洋上で作業を行う時は、水平な状態を維持する必要があります。そのためには、揺れや振動を小さくできる構造が求められます。

しかし、2つの船体で構成される双胴船の場合、同じ排水量の単胴船より、船が傾いた際に元の位置に戻そうとする力が大きくかかってしまいます。この力が船の固有周期と重なったり近くなったりすると、大きな動揺になり、静止中の船で作業をすることが困難になります。

そこで、船の横揺れを軽減するための装置である、ビルジキール(船側と船底をつなぐ丸いビルジ部に取り付けられる前後に細長い平板 船の科学 p164より)やフィンスタビライザー(水面下のビルジ部に取り付けられる翼状の装置)といった付加物との併用も可能であり、多くの船舶で設置されているサイドスラスターを用いて、動揺低減の方法を探ります。

スラスター推力を用いて、双胴船の固有周期と同調した際の横揺れを抑制できる、有効な制御方法を探り出すことを目的に実験を行います。

■ 理論

PID制御を用いて動揺を抑制させようとすると、スラスター出力の遅れを考慮できず、位相遅れが発生して動揺が大きくなる可能性があります。

 

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同調時は船体の動揺周期と固有周期が一致しているはずです。そこから、あらかじめ推力によるモーメント(物体を回転させようとする力)と、励振によるモーメントが逆位相となるように出力を事前に設定することで、位相遅れに対応できるのではないかと仮説を立てました。

■ 実験概要

実験にあたり、下記の装置を準備しました。

 

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予備実験を行ったところ、入射する波の周期が0.77 sの条件で、振幅が大きい揺れを観測することができました。そこから、「固有周期の横揺れに対してroll方向で制御を行い、揺れを減少させる」という制御方針に決定しました。

 

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■ 制御方法

今回の実験では、同調横揺れを低減する方向のモーメントを発生させるスラスター推力によって、船体を動揺させるモーメントを打ち消していきます。IMUという、3次元運動を計測できる装置を使用し、実験を行います。

また、スラスターの回転数はPWM(Pulse Width Modulation)信号値によって決定します。

 

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■ 実験について

実験方法

1. 自由減衰試験

船体に力を加えることで、固有周期と減衰率、減衰比を算出

2. 減衰制御試験

手動で制御プログラム(スラスターを回転させて、動揺を制御するもの)を開始

3. 自動制御開始試験

プログラムで制御開始点を自動化

 

この3つの実験を経て、制御プログラムの動作確認と改良を行いました。

 

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結果を比較してみると、手動で制御を開始した試験では動揺の減少は一時的であるのに対し、自動で制御を開始した試験では横揺れ低減を数秒間維持することができました。

■ シミュレーション

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自動制御開始試験では、制御開始点とroll変動の時間差を小さくする必要性が出てきました。

そこで、以下のように動揺の極値を判定するプログラムを改良し、実験時よりも早い時点でスラスター出力を開始することで、時間差を抑えることに成功しました。

 

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■ まとめ
  • スラスター出力による動揺低減効果の確認
  • 制御開始の自動化

今後の展望として、制御開始点の安定化や制御終了の自動化を目指すことで、より高い動揺の抑制を見込むことができます。

 

 

大阪公立大学 海洋システム工学科では、船舶を安全に運用するためのシステム開発や、海洋で人間が活動を行うための工学的アプローチについて、実践的に学ぶことができる環境が整っています。

「日本の海運事業を支えたい」「船舶の構造やシステムを工学的観点から学びたい」──そんな想いや好奇心を、確かな知識と技術へと育む場所が海洋システム工学科です。