生成AIツールと教育についての教員向けガイド

生成AIツールと教育についての教員向けガイド(2023/5/11版)

2022年11月末に公開されたChatGPTは、驚異的な普及速度で社会に大きな影響を与えつつあります。そして、教育の場においては、教育と学習を大きく変えるという期待以上に、学生による不適切な利用への懸念や不安が高まっています。そこで本ガイドは、ChatGPTをはじめとする、いわゆる生成AIツール(以下、AIツール)について、本学の教員がどのように対応すべきかを考えるための参考資料として作成されました。

最新情報

  (2023/10/16)
 「生成AIの利用に関する学生アンケート結果について(速報) ―2023 年度初年次ゼミナール受講者アンケート結果より―」を、学内向けポータルサイトに掲載しました。(掲載先

教育におけるAIツールの取り扱いについて(基本的な考え方)

授業内外での学生によるAIツールの使用については、

      • 本来身につけるべき能力(学修成果)の獲得の妨げになってはならない
      • 学修成果についての公正な評価の妨げになってはならない

という点に注意を払う必要があります。その上で、

      • 課題レポート作成などでの使用をどこまで認めるか教員が判断し、学生に伝える

ということが必要です。

また、今後は、AIの利活用が進む社会の中で、学生が真に身に付けるべき能力は何かを再検討しながら、教育の場でのAIツールの有効活用も含め、授業設計を継続的に見直していくことが必要です。

教員ができること

教員が今できることとしては、以下が挙げられます。

マークをクリックして各項目のアコーディオンを開くと、詳細説明が表示されます。

AIツールについて理解を深める 

以下では、主にChatGPTについて、基本的な事柄をまとめておきます。更に理解を深めるには、実際に使ってみることをお勧めします。

ChatGPTとは

 ChatGPTは、OpenAI社によって開発された、対話型AI (Artificial Intelligence:人工知能) です。質問や依頼を文章として対話的に入力すると、ChatGPTは、 

          • 回答 
          • 計算 
          • 翻訳 
          • 文章の要約/推敲 
          • 創作(小説、詩、レポート、記事など) 
          • プログラミング 

などについて、場合によっては驚くほど高いクオリティの回答(コンテンツ)を生成します。 ChatGPT_example1

 

利用上の懸念点
        • 回答が不正確

 ChatGPTは、しばしば、デタラメな回答や間違いを含む回答をすることが知られています。また、専門性が高い質問や、最近の情報に関する質問は、(今のところ)苦手です。
ChatGPT_example2

        • 生成コンテンツは著作物とは言い難い 

 ChatGPTAIツールが生成するコンテンツは、人間による「創作的な寄与」がなければ著作物とは認められない、との考えが一般的です。生成コンテンツをそのまま、あるいは、少し手を加えただけで自分の創作物として発表することは、不適切と考えるべきでしょう。
 なお、Open AI社の規約では、生成コンテンツの権利は、すべてユーザに渡すとされています。

 

        • 生成コンテンツの利用に著作権リスク

 ChatGPTは、他者が著作権を有するテキストデータも用いて事前学習を行っていると言われており、ChatGPTの回答(生成コンテンツ)は、著作権を侵害する内容を含む可能性があります。

 

        • 情報漏洩のリスク

 ChatGPTにユーザが入力した内容は、ChatGPT自身の強化学習に利用される場合があります。個人情報や職場の秘匿情報が他のユーザに漏洩するリスクがあるため、これらの情報をChatGPTに、直接、入力することは、避けるべきです。

※ユーザー設定で「Chat Histroy & Training」をオフにすれば、入力内容が強化学習に利用されなくなりますが、会話履歴が残らなくなってしまいます。


        • 外部サービス等利用のリスク 

 ChatGPTを活用した外部サービスやツールが数多く現れていますが、これらの多くは、信用性・信頼性が不明です。そのため、利用には、常に情報セキュリティ上のリスクが伴います。

AI生成コンテンツの検知

 ChatGPT等のAIツールが生成したコンテンツを検知するツールがいくつも発表されています。例えば、本学の授業支援システム(Moodle)に導入されているfeedback studioプラグインには、お試しとして2023年度限定で、英文のみ対応のAIライティング検知機能が追加されています。ただし、完全な検出は困難ですので、おおまかな現状を把握する用途にとどめるべきでしょう。



AIツールが与えうる教育への影響を知る

ChatGPT自身が抱える問題点、そして、時にはその便利さが、教育・学習の場に悪影響を及ぼしうることに注意する必要があります。その一方で、ChatGPTAIツールは、あらたな教育・学習ツールとして大いなる可能性を秘めていることも確かです。

学修成果の獲得への悪影響
        • ChatGPTの回答は誤りを含んでいることも多いため、無批判に回答を受け入れると、誤った知識を身に付けてしまう恐れがあります。
        • ChatGPTに頼りすぎると、例えば、小論文/レポートを書くことを通して身に付けるべき知識や能力(思考力、文章力など)が身に付かなくなる恐れがあります。

学修成果の公正な評価への悪影響
        • (不正利用)教員が認める範囲を超えて学生がAIツールを不正に利用することで、公正な評価が妨げられる可能性があります。特に、AIツールが生成したコンテンツを、自分の作品(学修成果物)として偽って学生が提出する可能性に注意する必要があります。
        • (活用能力格差)AIツールを活用する能力の高低が評価に影響を与え、本来の学修成果(能力)の評価と一致しなくなる可能性があります。
        • (利用環境格差)AIツールの利用環境格差が、評価に影響を与える可能性があります。例えば、有料版ChatGPTは、無料版と比べてかなり高い能力を有していることに注意する必要があります。

※有料版ChatGPTと同じ技術基盤上に構築されているBing AIは、(今のところ)無料で利用することが可能です(要Edgeブラウザ/Bingアプリ & Microsoftアカウント)。また、2023年5月に日本語利用が可能になったGoogleのBard(要Googleアカウント)も、(今のところ)無料で利用することが可能です。


学習への有効活用例
        • ChatGPTは質問に回答してくれるため、従来のGoogle検索などと比べて、容易に知りたい情報を入手することができます。これにより、効率良く知識を得ることが可能となります。
        • ChatGPTは問題作成や英文添削などができるため、自律的・能動的学習者にとっては、家庭教師的な役割を担ってもらうことができます。
        • ChatGPTと対話や質問を繰り返すことで、議論を深めたりアイデアを思いついたり、あるいは、知識を整理したりできます。そのため、学びを深めたり興味を広げたりするのに役立ちます。

その他

 ChatGPTと教育に関して、更に深く知りたい方は、東京大学工学系研究科 吉田塁先生がまとめているwebページが参考になるでしょう。

ChatGPTAIの教育関連情報まとめ
https://edulab.t.u-tokyo.ac.jp/chatgpt-ai-resources/



学生に課す課題について、目的やAIツール利用可否を学生に説明する

授業外でのAIツールの利用を完全に止めることは困難ですが、一方で、AIツールの利用を単に黙認するだけでは、本来学生が身につけるべき能力(学修成果)が身に付かない恐れがあります。そこで必要となるのが、学生への説明です。

課題についての説明
        • 課題(レポート、作品提出等)の目的・意図を学生に伝えるようにしてください。それは、学習を促すためのものでしょうか?成績評価のためのものでしょうか?あるいは、両方でしょうか?
        • 併せて、課題で身に付けてほしい能力や知識は何かを伝えると良いでしょう。そうすることで、学生に対して指針を与えることになり、学習を促すことに繋がります。

 

AIツール利用可否の説明
        • 課題の目的・意図や、身に付けてほしい能力などを踏まえて、AIツール利用の可否と、その理由について学生に説明してください。
        • 利用を許す場合は、どこまでの利用を許すか/禁じるかを具体的に示すと良いでしょう。例えば、文章を書かせる場合、アイデア出し/調査/文章構成/作文/推敲、どこまで?
        • AIツールを利用したことを学生に明示させる場合は、どう書いておけば良いかを事前に伝えておくと良いでしょう。



学生に課す課題を再検討する

「〇〇について調べ、レポートにまとめよ」といった単純な課題のレポートは、AIツールがまるまる出力できてしまう可能性があります。また、全部ではなくても、一部をAIツールに書かせたり、下書きをAIツールに任せたり、といったことも、今後は増えていくでしょう。そのため、場合によっては、課題の目的などを踏まえつつ、課題内容を再検討する必要があるでしょう。以下、いくつかの対応例を挙げます。

        • 最新の状況を調べる必要がある課題にする。
          ChatGPTは、現時点では、2021年ごろまでのデータしか学習していない)
        • 教室内でのディスカッションの内容を元にした課題にする。
        • 画像や動画などを元にした課題にする。
        • レポートを書くためのプロセスごとに、課題を提出させる。





成績評価方法を再検討する

学生によるAIツールの不正使用を完全に止めることは難しいでしょう。また、AIツール使用の有無を完全に検知することも困難です。そのため、成績評価(到達目標達成度評価)の際、授業外で作成する学修成果物(レポートや作品)に過度に依存している場合は、その評価方法を再検討する必要があるでしょう。

評価の割合を下げる

授業外成果物(レポートや作品)の評価と、それ以外の評価とを組み合わせて成績評価している場合は、ひとまず成果物評価の割合を下げ、AIツール利用の影響を抑えることが考えられます。ただし、本質的な解決策ではないため、他の方法を継続的に検討していく必要があります。

対面での試験などを取り入れる

AIツール利用の影響を完全に避けるためには、対面の状況下で、ペーパーテスト・口述試験・レポート作成・作品制作・パフォーマンス評価などを行うことが考えられます。授業1回分の時間だけでは足りなくなる場合は、通常の授業時間数を減らし、その分を非同期型オンライン授業(オンデマンド授業)などに代えるのも一つの方法です。