計算科学研究所

設置目的

我々の計算科学研究所の設置目的は、「シミュレータとAIとが連携しながら最適解を探索する“次世代型デジタルツイン”システムを構築し、新規分野に展開して諸問題の解決を図り、人間中心の社会Society 5.1を実現する」ことにある。

Society 5.1のベースとなるSociety 5.0は第5期科学技術基本計画において、我が国がめざすべき未来社会の姿として提唱されたもので、狩猟社会(Society 1.0)、農耕社会(Society 2.0)、工業社会(Society 3.0)、情報社会(Society 4.0)に続く、人間中心の社会(Society 5.0)と定義されている。

Society 5.0は、サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより実現されるとしているが、これまでの情報社会(Society 4.0)では、人がサイバー空間に存在するクラウドサービス(データベース)にアクセスして、情報やデータを入手し、分析を行ってきたのに対して、Society 5.0では、フィジカル空間のセンサーからアップロードされた情報がサイバー空間に集積され、このビッグデータを人工知能(AI)が解析し、その解析結果がフィジカル空間にいろいろな形でフィードバックされるとしている。つまり、今までの情報社会(Society 4.0)では、人間が情報を解析することで価値を生み出してきたのに対して、Society 5.0では、膨大なビッグデータを人間の能力を超えたAIが解析し、その結果がロボットなどを通して人間にフィードバックされることで、これまでには実現出来なかった新たな価値が産業や社会にもたらされるのである。

しかし、フィジカル空間上のセンサーからサイバー空間上のクラウドに情報をアップロードしてビッグデータを構築する場合を考えると、一般的にセンサー情報は時間軸が長く、AIが解析に必要とする変化点等の情報を得るには膨大な時間が必要となる場合が多いのに気付く。また、センサーを取り付ける装置等が何らかの理由で台数が限られている場合も、AIが解析に必要とするビッグデータを得るには膨大な時間が必要となってしまう。例えば、造船現場で使用されている線状加熱と呼ばれる鉄板の曲げ工法は、鉄板をガストーチで線状に加熱すると同時にホースで水を掛けて急冷し、所望の3次元形状に加工する加工法であるが、16ミリメートル厚の2メートル×2メートル造船用鉄板に対して任意の線状加熱を1工程(2メートル)行うだけで約5分の時間が必要となる。加えて、AIに解析させるためには、少なくとも1000種類の加工データ(ビッグデータ)が必要となるので、5分×1,000=5,000分=83時間分の加工データが必要となってしまう。また、実験用1,000枚の造船用鉄板や加熱設備も必要なので、造船分野においてはフィジカル空間で得た情報でビッグデータを構築するSociety 5.0の実現は現実的に困難である。

一方、フィジカル空間で線状加熱を行うのではなく、バーチャル空間で線状加熱のシミュレーションを行えば時間短縮が図れるし、実験用鉄板1,000枚や加熱設備も必要なくなる。

このように、シミュレーションでビッグデータを構築し、AIとの連携によって課題解決を図るSociety 5.1の考え方は誰もが着想するが、今まで活発に研究はされてこなかった。その理由はシミュレータの速度が非常に遅く、実用時間に収まらないためである。例えば、静的陰解法FEMで前述の2メートル線状加熱1工程をシミュレーションすると約10万秒(約27.78時間)かかるので、1,000種類のビッグデータを作るのに必要な時間は、27.78時間×1,000=約1,157日(約3.17年)となり、とても使えない。

この課題を解決したシミュレータが理想化陽解法FEMで、従来の静的陰解法FEMと比較して、24万自由度の条件で180倍の速度で熱弾塑性解析が可能な超高速FEMである。この理想化陽解法FEMを使用すれば、2メートル線状加熱1工程をシミュレーションするのに約100秒しかかからないので、1,000種類のビッグデータを作るのに必要な時間は、100秒×1,000=10万秒(約27.78時間)となり、十分実用に耐えることができ、シミュレーションでビッグデータを構築して、AIとの連携によって課題解決を図るSociety 5.1を実現することができる。

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研究内容の概要

計算科学研究所は、(1)FEM研究グループ、(2)AI研究グループ から構成され、各研究部門では次の研究を行う。

(1)FEM研究グループ

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  1. 応用研究:超高速FEMである理想化陽解法FEMは、製造分野における熱弾塑性解析の他にもプレート型(海溝型)地震解析や流動解析等にも利用可能と考えられるので、本研究所を活用して、オープンイノベーション的に応用分野の研究を行う。
  2. 高速化研究:理想化陽解法FEMは超高速であるが、更なる解析速度向上をめざして、並列GPU計算機の開発、およびソフトウエアの開発を行う。
  3. 自動メッシュ研究:超高速FEMは開発されたが、メッシュを切るアルゴリズムは従来と同じなので、メッシュを切るのに必要な時間は変わらず、解析時間短縮のボトルネックとなっている。本研究所を活用し、異分野の研究者とオープンイノベーション的に自動メッシュの研究や、メッシュレスの研究を行い、ボトルネック解消を図る。

(2)AI研究グループ

  1. クラスタリング研究:フィジカルデータに対応する実行可能なAIの実現のために、情報を適切にクラスタリングし、次元の削減・状態遷移の予測をする研究を行う。
  2. 学習・最適化研究:様々なAIの中から適切な手法を選択し、適切なパラメータを学習し、設定するためのアルゴリズムを研究開発する。
  3. 知識発見研究:学習プロセスで自動的に探索と活用のバランスを最適化しつつ、人間が経験することができる量よりも何十倍もの多くのシミュレーションデータを使って学習を行うことにより知識発見をめざす。

具体的には、シミュレーションで得られるデータに適応できるAIの構築をめざす。画像処理用のビッグデータには、1万、10万、さらにはそれ以上のデータ数を必要とすることが多い。シミュレーションによって多量にデータが得られるとしても、それほどのデータを収集するにはとても長い時間がかかる。よって、シミュレーションに特化し、学習速度と学習精度のバランスの良いAIの模索をする必要がある。効率的な探索のために、データをクラスタリングし、選別してAIに学習させる。クラスタリングによって、希望の学習用データが得られる探索範囲を絞ることができるため、良質なデータを優先的にシミュレーションで生成することができる。つまり、問題空間をその特徴量と学習効率といった点からクラスタリングすることで、無駄な探索をすることなく、学習精度を落とさずに情報圧縮することができると考えられる。また、データのクラスタリングという観点からは、問題の難易度の推定やニューロン数などのニューラルネットワークの最適化も検討することができるため、クラスタリングは本部門にとってコアとなる研究である。

さらに、最適化アルゴリズムを適応的に使い分けることによって、AIのパラメータ設定を自動化する。データ数の制約上、極端に大きなニューラルネットワークなどを利用することは適切ではないと考えており、各種アルゴリズム、ニューラルネットワークなどを並列的に学習させ、これに進化計算的なアプローチを用いることで、最良を選択できるようになる。パラメータの最適化については、ベイズ推定などの方法もあるが、リグレット値を評価したときにより高性能なサンプリングをベースとした手法を開発する。基本的なシミュレーション実験ですでにその性能を確認している。

また、これらの研究はAIによって新しい知識を発見することにもつながると考えられる。学習プロセスで自動的に探索と活用のバランスを最適化しつつ、人間が経験することができる量よりも何十倍もの多くのシミュレーションデータを使って学習を行うので、十分にその可能性はあると考えている。人間は経験できる量が少ないので、自由に探索することは最適化の観点からも非効率的である。結果として、認知バイアスのような局所解を求めるような学習を進めることになるが、シミュレーション+AIにはその拘束条件がなくなるので、より広い視点から、人間が作業する際にも参考にできるような知識を獲得できると考えている。

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構成員

所長

柴原 正和(工学研究科 准教授)

研究員

区分 教授 准教授 特任助教
工学研究科 野津 亮
本多 克宏

生島 一樹
生方 誠希

前田 新太郎

情報学研究科

上杉 徳照


特任研究員

区分 氏名
工学研究科

河原 充
木谷 悠二

客員研究員

機関 役職 氏名

研究推進課
ものづくりイノベーション研究所

客員研究員
西田 泰士

設立年月日

2020年11月1日

SDGsへの貢献

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大阪公立大学は研究・教育活動を通じてSDGs17(持続可能な開発目標)の達成に貢献をしています。

本研究所はSDGs17のうち、「8.働きがいも経済成長も」「9.産業と技術革新の基盤をつくろう」「11.住み続けられるまちづくりを」「12.つくる責任 つかう責任」「14.海の豊かさを守ろう」に貢献しています。

お問い合わせ

工学研究科 准教授 柴原 正和

Tel 072-254-9345 Tel 2361(内線)

Eメール shibahara.marine[at]omu.ac.jp
[at]の部分を@と差し替えてください。

研究コーディネーター 熊岡 哲也

Tel 072-254-9345 Tel 2361(内線)

Eメール t_kumaoka.marine[at]omu.ac.jp
[at]の部分を@と差し替えてください。