スクールソーシャルワーク評価支援研究所
設置目的
社会のニーズ・課題
1.子どもたちの実態:学校におけるソーシャルワーク(SSW)の必要性
年々増加する児童虐待事例では、死亡例の半数は0歳児であり、10代などでの望まない妊娠が半数を占めている。この実態やいじめによる死亡例の増加、居所不明児童など、子どもに関する問題は深刻化している。背景をみると、すでに義務教育年齢になっている子育て家庭が子どもの4か月児時点で3分の1の母親が孤立している状態にあり(原田ほか2004)、子育て不安や子どもの世話をした経験のなさも高い数値を占める。これらの孤立や不安と児童虐待との関連も示されている(山野2005)。そして就学援助率は全国平均15パーセントを占め、貧困と虐待との関連も報告されている(東京都福祉保健局2005)。これらの数値からわかるように、孤立も貧困も外から見えるものではない。
2.課題
- 貧困や孤立などが見えないこと
子どもの問題は、児童相談所が対応するという認識が一般的であるが、児童相談所は義務教育年齢の全校児童数の1パーセントほどしか対応できていない。表面化されていない問題を含む、全体の30パーセントなどという数値は、児童相談所に対応できる数字ではない。 - 就学後に連携して検討できる仕組みがない
乳幼児は、保健所の健診システムによって全数把握がほぼできており、そこからリスクのありそうな事例への予防的取り組みがなされて、また乳幼児期は保健所と福祉の定例検討会議や共同事業の実施などによって課題のある事例への連携システムが確立されている。しかし、就学の時点から、この連携して把握や実践ができる仕組みがなくなり、経過観察や把握が途切れてしまう。 - 学校にSSWが入ったが、実践が不明確である
2008年から文部科学省が導入したSSW活用事業に期待が集まっている(子ども・若者ビジョン、いじめの防止対策推進法、子どもの貧困対策に関する検討会)。しかし,文部科学省が把握している実態は、2012年時点で68自治体、784名の活用に留まっている。事業開始後6年のSSWの領域には、福祉や教育などSSWerが持つ専門性は多様であり、全国共通のSSW実践の枠組みは存在しない。
これまでの成果
今までのSSW研究において、単にSSWerの動きにのみ注目していたのでは、SSW制度開始したばかりの日本の状況では機能しにくく、子どもの見えない貧困や居所不明などのニーズをとらえることができないと考える。SW実践のメゾ、マクロアプローチに注目し、学校組織や教育委員会組織に働きかけることは、子どもの最善の利益の保障のために活動するSSWerに必要なことであり、制度や仕組み作りや制度の改善に手掛けていく必要があると考えた。
まず全国のグッドプラクティスを行っている実践家にインタビュー調査を行い、アウトカムを意識した効果的なモデルを策定し、そのモデルを調査項目にしたものを全国の教育委員会SSW担当者とSSWerに実施した。この全国調査はSSWの実態を示すのみならず、教育委員会の担当者とのマッチングや、SW実践と効果との関連を明確に初めて示すものであった。さらに、この結果を全国で先進している、あるいは牽引している実践家のメンバーと実践者参画型意見交換(効果的なSSWer配置プログラムあり方研究会)を実施し議論を行いながら効果的援助要素である実践項目を精査した。その上で、試行調査は実証的研究として、マニュアルとして耐えうるものなのか、インパクトと関係するかを確認したところ、質的にフィットを確認でき、量的に効果との関連、事前事後の関連も確認でき、フィールドテストとしての試行調査は成功であったといえる。この試行調査を経て、最終的にアウトカムも見直し、実施マニュアルにある効果的援助要素に重みづけを行い、フィデリティ尺度を作成し、実施マニュアルと評価マニュアルを完成させた。
これらの一連の研究は、2012年に学内にて任命された「キーパーソンプロジェクト」として「エビデンス・ベースド・スクールソーシャルワーク研究―効果的モデルの開発、蓄積、評価をもたらす組織化―」(2012年8月~2014年3月)において取組みを行ってきた。
2014年度より、科学技術研究機構平成26年度戦略的創造研究推進事業(社会技術研究開発)にて外部資金を獲得し、「エビデンスに基づくスクールソーシャルワーク事業モデルの社会実装」としてウェブ化・普及の段階に入っている。
(図1)エビデンスに基づくスクールソーシャルワーク事業モデル
研究目的
子どもをめぐる課題、社会的ニーズに対応するための1つの方策として、SSWerが社会に認知され機能していくことが求められている。しかし、そのSSW実践はまだ明確ではなく全国的にも不統一である。この課題に対応すべくSSW事業モデルを構築してきた。それを教育機関も含めて全国各地にウェブを活用して普及し、そのプログラム評価を行い、形成評価、改善を繰り返すことを目的とする。これを実行するのが、評価ファシリテータ―である。さらには、それを客員研究員としての国や有識者(ゲストも含む)において、レビューしていくことで、制度構築につなぐこと、評価研究をソーシャルワークや他領域の評価研究の支援を行うこととする。
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- エビデンスに基づくSSW事業プログラムの実行をウェブ活用し各地域で進めること
- 評価ファシリテーターの養成モデルの作成
- プログラム評価やソーシャルワーク評価の支援活動
研究内容の概要
1.ウェブ活用支援とデータ蓄積
プログラム評価の理論に基づいて、今までに開発しWeb化した「効果的なSSWer事業プログラム」に基づいて実際に協力地域で、マニュアルの実施、ワークショップ方式で確認、プログラム評価、インパクト評価を地域ごとに実践者とともに行う。さらに全体においてもその工夫を共有し普及するためにも実践者参画型のワークショップを開催する。プログラム実施・使いやすいようWebシステムを開発し、実証的データの蓄積と普及評価も行う。
2.評価ファシリテーターの養成モデルの作成
1.を行うための方法として、モデル実行を支える評価ファシリテーターを育成し活用する。評価ファシリテーターの養成モデルを作り、養成を実施する。
(図2)大島 厳「第1回効果的なSSWer配置プログラムのあり方研究会」
3.プログラム評価やソーシャルワーク評価の支援活動
切れ目のない支援システムの構築=効果的制度モデルの構築(図1)
「効果的なSSWer事業プログラム」の実施状況をレビューしながら、効率性評価を行う。プログラムの実現のために教育と福祉の狭間、社会的課題として現れる環境との狭間に着目した、学校を拠点にした、切れ目のない支援システムの構築について検討する。これには、子どもの貧困対策推進法や生活困窮者自立支援法に関する法律や理論の検討を行った上で、効果的制度モデルとして提案を行う。このことは、「効果的なSSWer事業プログラム」の基盤強化となり、エビデンスに基づいたソーシャルワーク実践の促進機能となる。「効果的なSSWer事業プログラム」を政策に反映した形で、切れ目のない支援システムを検討・構築する。このことはソーシャルワーク評価の支援活動にもなる。
研究組織の概要
構成員
所長
山野 則子(現代システム科学研究科 教授)
研究員
区分 | 教授 | 准教授 |
---|---|---|
現代システム科学研究科 | 伊藤 嘉余子 総田 純次 山野 則子 |
嵯峨 嘉子 |
看護学研究科 | 古山 美穂 | |
生活科学研究科 | 所 道彦 | |
国際基幹教育研究院 |
星野 聡孝 |
客員研究員
機関 | 役職 | 氏名 |
---|---|---|
聖徳大学 心理・福祉学部 社会福祉学科 |
准教授 | 横井 葉子 |
北星学園大学 | 専任講師 | 大友 秀治 |
東北福祉大学 | 副学長・教授 | 大嶋 巌 |
大阪成蹊短期大学 | 学科長 | 中野 澄 |
沖縄国際大学 | 教授 | 比嘉 昌哉 |
日本大学 | 教授 | 末冨 芳 |
大阪商業大学 公共学部 公共学科 | 助教 | 林 萍萍 |
パナソニックコネクト株式会社 現場ソリューションカンパニー パブリックサービス本部 九州SE部 ソリューション3課 |
課長 | 桐本 康寿 |
北星学園大学 社会福祉学部 | 副学長・教授 | 中村 和彦 |
愛知教育大学 教育学部 | 准教授 | 厨子 健一 |
大阪公立大学 現代システム科学研究科 | プロジェクトコーディネーター | 木下 昌美 |
独立行政法人国際交流基金 | 上級審議役 | 大谷 圭介 |
設立年月日
平成27年(2015年)4月1日
SDGsへの貢献
大阪公立大学は研究・教育活動を通じてSDGs17(持続可能な開発目標)の達成に貢献をしています。
本研究センターはSDGs17のうち、「1:貧困をなくそう」、「4:質の高い教育をみんなに」に貢献しています。
お問い合わせ
現代システム科学研究科 教授 山野 則子
Tel 072-254-9783(直通) 2585(内線)
Eメール yamano[at]omu.ac.jp
[at]の部分は@に差し替えてください