院生・修了生の声/織田 直也 さん

織田 直也 さん
2017年度 博士前期課程修了
1. この研究科に進学した動機を教えてください。
将来的に心理職として働くために大学院に進学しましたが、この研究科を選んだのは私の研究テーマである""物語""に開かれた先生がいると感じていたからです。
そもそも同大学に後期日程で入学し、配属される学類も決まっておらず、自分が何がしたいかも、何ができるのかも分からない中で心理の世界に入ることに決めたのも、学域生の頃にこの研究科の先生が担当されていた『臨床心理学への招待』という授業を受講したことがきっかけでした。当時相当読み込んでいた村上春樹さんの作品が臨床心理学と絡めて取り上げられて、この先生のいる世界に入れば何か分かるんじゃないかと感じたことを覚えています。
考え方を変えたい、症状を治したいというレベルに留まらず、その人の実存的な問題にまでアプローチすることを考える臨床心理学の研究科だと思います。
2. 研究の内容を教えてください。
学域性の頃から""物語""によって人はどういった影響を受けるのかを研究していました。インタビューをして、その人が好きな小説についてお聞きしながら、その物語をどう体験したのか、読む前の自分からどこか変容しているところはないか、というところを考察しました。
研究科在籍時は、継続的に子どもたちに絵本の読み聞かせを行う中で、私との関係を通して子どもたちの中でどう物語が体験されていくかについて、保育園と学童保育に1年半ほど通いながら研究していました。絵本の読み聞かせを主軸とした関わりの中で、一緒に遊びながら絵本のお話しについての絵を自由に描いてもらいました。絵本のストーリーや場面を元にして、みんなそれぞれの抱えている背景や事情、時々私のことも組み込みながら、オリジナリティが溢れたイメージや新しい自分の物語を生み出していく過程を一緒に体験させてもらえました。生きるための物語の作り方を子どもたちに教えてもらった研究だったと考えています。
3. 現代システム科学研究科に進学してよかったと思える点について教えてください。
臨床実践の経験を沢山積むことができたこと、教員からマンツーマンで指導を受けてサポートしてもらえたことが良かったと思います。
長期間にわたる学外実習と、心理臨床センターにおける施設運営やカウンセリング実習と大変なことは多かったですが、社会に出た今振り返ってもこれだけ充実した経験を積める場所は他になかったなと思います。
研究をする場所でもありますが、将来心理職として働くための訓練機関でもあります。心理士として社会に出て働くための足腰を鍛えるわけです。医療現場で働いていると医療者でありながら、心理の専門家であることを求められます。医療分野における心理のニーズは年々高くなっているものの、周囲の心理への理解が勝手に深まるわけではありません。コ・メディカルとして一括りにはされますが、医療分野において身体ではなく心理を考えるという職種はアウェイな立場を味合うことも多いです。そこで他の職種と協働しつつも、飲まれることなく心理士として踏ん張れるかというところには、研究科在籍中に鍛えた足腰がものを言うのではないかと考えています。
4. ご自身の研究が社会にとってどのような意味をもつのか、またご自身の研究から広がる可能性について教えてください。
人はそれぞれユニークな物語を生きています。
ところが、人生において、これまで築いてきた物語では、どうにも立ちいかなくなってきたな、という時が訪れることもあります。
例えば、これまで仕事に生きがいに心血注いで働いてきた人が、身体を悪くして同じ仕事を続けられなくなった時、この先どう生きていけばいいのかと困ってしまうでしょう。そうした時に活躍しうるのが心理職ではないかと思います。
私の勤める精神科の病院には様々な症状をもった患者様が来院されます。もちろん医療の現場ですから、医師が症状を見て診断し、その疾患に合わせた科学的に有効な医療を提供するわけです。ただし、その人の症状にはアプローチできていても、この先の人生についての問はそのままになってしまうこともあります。何でこの病にかかってしまったんだろう?と悩む人もいるかもしれませんし、最近は悩むこと自体が難しい人も多くなっています。もちろん私が答えを持っているわけではありませんから、一緒に困ることになるわけですが、ここで保育園で私が子どもたちに見せてもらった新たな物語を作っていくということが重要になるのではないか、と考えています。
5. この研究科に進学しようとする学生に対して何かメッセージがあれば教えてください。
心理臨床に携わるということは、本当に大変なことです。先のわからない荒野をひたすら歩いているような気になることもあります。人の心を理解しようともがく中で、来談者の魂の叫びにただただ圧倒されることもありますし、自分自身の見たくない部分にも向き合わないといけないこともあります。一生懸命がんばっても分からないこと、無力感を覚えることも多いです。
研究科在籍時は、スーパーヴィジョンを受け持ってもらっていた先生に大変さをこぼしては叱咤激励され、何とか乗り越えてきました。先生に頭を抱えられることもありましたが、とても嬉しそうな顔をされることがあったのも覚えています。当時は人が大変な思いをしているのにと恨めしく思うこともありましたが、今この文章を書くにあたって、先生も同じように苦しんでこられているからこそのことだったのかなと感じています。
この大変さを引き受ける仲間が他にもいると感じられることで、荒野を歩く足に力が入ることもあります。この研究科で先生や仲間から言われたこと、一緒に取り組んできたことの記憶が今も私を支えてくれています。そうした生きた体験ができる研究科であると思います。