院生・修了生の声 vol.3

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渡邉 菜々 さん

2024年度 博士前期課程修了

 

1. この研究科に進学した動機を教えてください。

私は大学卒業後、3年ほど児童福祉施設の現場で働いていました。そこで出会った子どもたちとの関わりのなかで、「あなたは私の何が分かるのか」「あなたは私と共にいてくれるのか」という問いかけを毎日のようにもらいました。
私にとってその問いは、「私」とは誰で、「他者」とは誰なのか、また「人間」とは何か、そして「生きる」とは何かという、「存在」に関する根底的なものであるように感じられました。
しかし、このような人間存在・人間関係をめぐる問題に対して、当時の私は何の根拠も方向性も持ち合わせておらず、十分に応答することができませんでした。その悔しさから、自分にできることは何か考えた結果、人間科学分野への進学を決意しました。

 

2. 研究の内容を教えてください。

存在とは何か、人と人とが共に生きるとはどのようなことかというテーマを背景に、カール・ヤスパースの「交わり」論と、ハンナ・アーレントの「活動」論から、超越的領域と対象的領域の関係性について文献研究を行いました。
特に、私と他者との関係性について着目し、「包越者」を前提とした自他の「交わり」と、「公共空間」における「活動」と「言論」を通した「正体」の明かし合いという自他関係との間にある異同について考察しました。超越的領域と対象的領域の両者の関係を、矛盾対立としてではなく、往還的且つ相互補完的な関係として捉え、読み解きました。

 

3. 現代システム科学研究科に進学してよかったと思える点について教えてください。 

問いに対し、とことん探究できたことです。
私は人間科学分野の所属でしたが、先生方が快く受け入れてくださったおかげで、社会福祉分野の授業も聴講することができました。また、有志の読書会にも誘ってもらうなど、分野横断的に幅広く意見交換をすることができました。他にも、学類生と一緒に海外のスタディツアーにも参加させてもらい、国内外での学びも広げることができました。
そして何より、研究を通して、現場でもらった問いに対して一定の整理と言語化を行えたことは、自分にとって大きな糧となりました。

 

4. ご自身の研究が社会にとってどのような意味をもつのか、またご自身の研究から広がる可能性について教えてください。

修士論文を通して、私は他者の全てを分かることはできない、むしろ、分からないままに留保する態度が、支配や抑圧関係ではない自他関係の可能性へと開かれていくのではないか、という気づきを得ました。このことは、他者のことを、異他なる存在のまま承認し、関わり合うということへと繋がるのではないかと考えています。
生きていくなかで、もし、分かり得ない他者と出会ったとき、分からないから関係を諦めるのでも、自分自身の分かりやすいように相手のことを取り込むのでもなく、分かり得ないままに互いに対話し合える関係性へと、後押ししてくれる研究なのではないかと思います。
このような存在や人間にまつわる研究は、今すぐに争いを解決できるような、即効性のあるものではないかもしれませんが、人と人とが共に生きることを、根底的に支えることができるのではないかと考えています。

 

5. この研究科に進学しようとする学生に対して何かメッセージがあれば教えてください。

いま、何らかの問いを持っている人や、社会などへの違和感を覚えている人は、ぜひそれを大事にして、思い切り探究してみてほしいなと思います。
現代システム科学研究科の先生方や仲間は、みな一生懸命共に考えてくれると思います。
それぞれの問いが蔑ろにされることなく大切にされ、許され、思いきり考えられる場所へ、ぜひ一歩踏み出して欲しいなと思います。