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2025年11月12日
- 活動報告
🛳️ 挑戦の航路 Vol.1 ― 世界の海に挑む、日本初の学生チーム「GEMBU」
1. 世界最高峰の海洋技術大会へ

ノルウェー西岸の港町・トロンハイム。
ここで毎年開催される「Njord Challenge(ニョルド・チャレンジ)」は、世界中の大学生が小型自律運航船(ASV=Autonomous Surface Vehicle)の技術を競う、海洋工学分野の世界大会です。
主催は海洋技術で世界ランク1位を誇るノルウェー科学技術大学(NTNU)。
大会では、船の「操縦性」「航路計画」「衝突回避」「着岸」など、実際の自律航行能力を総合的に評価します 。
2025年夏、この舞台に日本から初めて出場した学生チームがありました。
それがーー「Innovators of Blue Ocean(IBO)」の自律船チーム「GEMBU(ゲンブ)」です。
2. チームGEMBUの誕生

GEMBUは、東京大学・大阪公立大学・東京海洋大学を中心に、全国12大学から52名の学生が集う「Innovators of Blue Ocean」内の一プロジェクトとして結成されました。代表は東京大学大学院の田口新風さん。大阪公立大学からは吉岡舜さん、田邊優希さんらがソフトウェア・制御を担当。
当初、メンバーはわずか2人。そこからSNSや学会を通じて仲間を募り、9ヶ月間・約3,000人日の開発を経て挑戦にこぎつけました。リソースは限られていましたが、日本財団オーシャンイノベーションコンソーシアム、スマートナビゲーションシステム研究会、アルテアエンジニアリング株式会社、古野電気株式会社、ジャパン マリンユナイテッド株式会社、寺崎電気産業株式会社など、企業・団体の支援を受けながら開発を進めました。
「世界に通用する学生チームを作りたい」──
その思いのもと、メンバーは授業の合間を縫い、深夜までリモートで議論を重ねました。
3. スーツケースに収まる自律船

GEMBUが開発した船は、「スーツケースで運べる自律船」。
軽量FRPと3Dプリンタを組み合わせたトリマラン構造で、分割して運搬可能なモジュラー設計。
「輸送費の節約と確実な輸送を考え、スーツケースで運び、現地で組み立てられるように設計しました」と田邊さんは語ります。さらに、制御アルゴリズムはPythonで完全自作。 船上PCと陸上PCをUDP通信で接続し、リアルタイムでセンサー情報を共有。 GUI上でスラスター出力やカメラ映像を可視化し、操船状況を把握できるようにしました。
このフルスクラッチ開発こそが、日本チームの誇り。 「既存のライブラリに頼らず、自分たちの手で全部作った。だから問題が起きても“中身がわかる”安心感がありました」と吉岡さんは振り返ります。
4. 大会本番――白飛びするカメラと、届かなかった制御

2025年8月、ついに迎えたノルウェー・トロンハイムでの本番。
GEMBUチームは「カメラでブイの色やパターンを認識し、障害物を避けながら航行する」種目に挑みました。事前テストでは、航路計画・制御アルゴリズムが順調に動作し、障害物検出からゴール到達まで成功。チーム全員が手応えを感じていました。
しかし本番当日、予想外のトラブルが発生。船首カメラが強い日差しで白飛びし、ブイを認識できなくなったのです。さらに、通信が断続的になり、制御信号の一部が届かない状況も重なりました。
「テストでは完璧に制御できていたのに、本番では視覚情報が使えなくなってしまった。その悔しさは、今でも鮮明に覚えています。」
(田邊さん)
結果としてタスクは途中で停止。それでも、大会全体で26チーム中9位(33.68点)を獲得。コンペの事前に開催されたプレゼンイベントでは3位入賞と健闘しました。
「最後まで諦めずに走り切ったこと自体が、大きな収穫でした」と吉岡さんは話します。現地では、他国チームの高性能センサーや安定した通信環境に圧倒される一方で、「限られたリソースでもここまで戦えた」という自信を手にする大会でもありました。
5. 世界と出会い、文化を知る
大会期間中、技術競争だけでなく交流イベントも多数開催されました。

「サウナパーティーでジャガイモ料理が山盛り出てきて驚いた」
「ドミノピザが出てきた時は“どこの国でも同じだな”と笑いました」
トルコ、スコットランド、アメリカ、スペインなど、海外チームとの語らいを通じて、
「世界中の学生が本気で海を学び、未来を作っている」と実感したといいます。
6. 初出場が示した“日本の強み”

結果以上に注目を集めたのは、日本チームの“ものづくり力”。
「配線が綺麗で、電装の完成度が高い」と海外チームからも称賛の声が上がりました。
「他国は高価なセンサーを使っていたけれど、僕たちは手作りの強さを見せられたと思います」と吉岡さん。 限られた予算の中で、確かな技術と丁寧な設計で戦う──それがGEMBUのスタイルでした。
7. 「海洋システム工学」を知ってもらうために

「海や船に関わることは、大学の中ではまだマイナーな分野。
でも、こうした活動を通して“海の仕事って面白い”と思ってもらいたいんです。」
田邊さんともう一名の2名は、次回2026年大会にも継続して参画予定です。
そしてこう呼びかけます。
「私たちの活動にご支援いただけますと幸いです。」
GEMBUの挑戦は、まだ始まったばかり。その小さな船が進む先には、日本の海洋産業の未来があります。

