内分泌代謝・骨代謝研究部門

内分泌代謝・骨代謝研究部門

代謝性骨疾患研究チーム

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From Bed to Bench, and then to Bedside !

文責 今西 康雄・准教授 (E-mail: Imanishi0728Yasuo●omu.ac.jp)
※アドレスの●の部分を「@」に変えてお送りください。

代謝性骨疾患研究チームの研究スタイルは、ずばり臨床での疑問を基礎研究に落とし込み、そこで得た知見を臨床にフィードバックする、トランスレーショナルリサーチです。対象はカルシウム・リン代謝異常。既に新規治療薬や画像診断法、ホルモン検査等の臨床開発に貢献しています。

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 こちらの図は、研究チームの作業仮説。研修医や研究医の方なら、おそらく医学専門誌や月刊誌等でご覧になられたでしょうか。実はこれ、うちで発表したものなんです1
 血中のカルシウム(Ca)とリン(P)濃度は厳密に調整され、恒常性が維持されています(ホメオスタシス)。これには、3つのホルモンが関与。それぞれ、副甲状腺ホルモン(PTH)、活性型ビタミンD(1,25-(OH)2D)、線維芽細胞増殖因子23(FGF-23)。このホメオスタシスの謎を解くことで、患者さんの生命を守りたい!

 私たちの研究チームは、医学部大学院生や研究医のみならず、薬学、農学、理工学分野の博士、修士も受け入れています。今回の募集は、ずばり臨床現場を経験した『あなた』です。フィジシャン・サイエンティストとして、世界に挑戦してみませんか!
 現在進行中の、主な研究課題は以下の通り。『あなた』ならどれを選ぶ?

  • 副甲状腺機能亢進症の治療と診断
  • 低リン血症性くる病・骨軟化症の病態と治療
  • エピゲノム安定性・不安定性の研究

文献

  1. Imanishi Y, et al. Expert Opin Drug Discov 2009;4(7):727-740.

1.副甲状腺機能亢進症の治療と診断

文責 今西 康雄・准教授 (E-mail: Imanishi0728Yasuo●omu.ac.jp)
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 血清カルシウム(Ca)濃度を調節するための、最もサイズが小さく、最も影響力の大きな臓器―副甲状腺。この小さな臓器の病態生理を解明するために開発したのが、原発性副甲状腺機能亢進症モデルマウス(PC2 mouse) 2。副甲状腺腺腫で起きた体細胞突然変異を同定し、その変異遺伝子を導入したのです。

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 ターゲット分子はカルシウム感知受容体(CaSR) 3(図)。CaSRは、副甲状腺細胞膜上に存在し、細胞外のCa濃度情報を細胞内へ伝達し、副甲状腺ホルモン(PTH)の分泌を抑制します。
 原発性副甲状腺機能亢進症(PHPT)や進展した2次性副甲状腺機能亢進症(SHPT)の副甲状腺細胞では、このCaSRの発現が低下し、細胞外のCa濃度情報を伝達困難。そのため、副甲状腺細胞は低Ca血症と勘違いして、PTHを過剰に分泌。これこそが、PHPTとSHPTの病態。だからCaSRが治療ターゲットとなるんです!
 私たちの研究チームは、CaSR作働薬であるシナカルセトの、副甲状腺細胞への直接作用と、PTH分泌の抑制作用を示しました4,5。シナカルセトのSHPT患者での適応取得6において、本研究が申請資料の一部となり、お薬となったのです。次世代CaSR作働薬のエボカルセトの治験にも参加し、PHPT患者への有効性を示し7、2019年12月に適応拡大、現在臨床で使用されています。
 このように臨床から得た知見を基礎研究へと橋渡しし、さらに基礎研究での成果を患者の治療へと応用する。これがトランスレーショナルリサーチ!

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文献

  • Imanishi Y, et al. J Clin Invest. 2001;107(9):1093-1102.
  • Imanishi Y, et al. Ther Apher Dial. 2009;13 Suppl 1:S7-S11.
  • Kawata T, Imanishi Y, et al. Eur J Endocrinol. 2005;153(4):587-594.
  • Kawata T, Imanishi Y, et al. J Bone Miner Metab. 2006;24(4):300-306.
  • 厚生労働省医薬食品局審査管理課. シナカルセト塩酸塩の薬事・食品衛生審議会薬事分科会上梓決定. 2007.
  • Takeuchi Y, Nishida Y, Kondo Y, Imanishi Y, Fukumoto S. J Bone Miner Metab. 2020 in press.

2.低リン血症性くる病・骨軟化症の病態と治療

文責 今西 康雄・准教授 (E-mail: Imanishi0728Yasuo●omu.ac.jp)
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 慢性的な低リン(P)血症は、骨石灰化障害を来し、骨強度を著しく低下させます。遺伝性のX連鎖低リン血症性くる病(XLH)は幼少時に発症。腫瘍性低リン血症性骨軟化症(TIO)は、成人で発症。いずれも骨痛や骨格変形を来し、日常生活の質低下、就学・就業機会の喪失等、社会的にも患者さんの逸失利益は著しく大きい!
 私たちの研究チームは、ハーバード大学との共同研究で、リン利尿ホルモンである線維芽細胞増殖因子23(FGF-23)の血中濃度の上昇が、XLHやTIOの病因であることを示しました8(図)。
 このFGF-23は、くる病や骨軟化症以外の病態においても、カルシウム・リン代謝において重要な役割があることを、臨床研究9-11in vivo, in vitro等の基礎研究12,13で明らかにしました。

 私たちの研究チームは、抗FGF-23抗体であるブロスマブの臨床開発にも携わり、成人XLH患者での有用性を、日米欧の国際共同治験で示しました14。さらにTIO患者での有用性も、国際共同治験で示しました15。本薬は、2019年9月に国内製造販売承認を取得し、実臨床での処方が可能となったのです。
 臨床から基礎へ、そしてまた臨床の場へ!

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文献

  • Jonsson KB, Zahradnik R, Larsson T, White KE, Sugimoto T, Imanishi Y, et al. N Engl J Med. 2003;348(17):1656-1663.
  • Imanishi Y, et al. Kidney Int. 2004;65(5):1943-1946.
  • Kobayashi K, Imanishi Y, et al. Eur J Endocrinol. 2006;154(1):93-99.
  • Imanishi Y, et al. J Bone Miner Metab. 2012;30(1):93-99.
  • Kawata T, Imanishi Y, et al. J Am Soc Nephrol. 2007; 18(10):2683-2688.
  • Nagata Y, Imanishi Y, et al. Endocrinology. 2019;160(5):1348-1358.
  • Insogna KL, Briot K, Imel EA, Kamenicky P, Ruppe MD, Portale AA, Weber T, Pitukcheewanont P, Cheong HI, Jan de Beur S, Imanishi Y, et al. J Bone Miner Res. 2018;33(8):1383-1393.
  • Imanishi Y, Ito N, Rhee Y et al. in submission

3.エピゲノム安定性・不安定性の研究

文責 今西 康雄・准教授 (E-mail: Imanishi0728Yasuo●omu.ac.jp)
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 エピジェネティクスとは、DNA塩基配列の変化を伴わないにもかかわらず、細胞分裂後も継承される遺伝子発現あるいは細胞表現型の変化のことです。遺伝子配列が変化せずに表現型が子孫細胞に遺伝する制御機構(エピゲノム安定性)は、主にDNAメチル化とヒストン修飾により司られます。

 DNAメチル化は、シトシン(C)の次にグアニン(G)が続く配列(CpG)のシトシン(C)に、メチル基(Me)が付加され、5-メチルシトシンになることです。このCpG が密になっている領域をCpG islandと呼び、CpG island におけるDNAメチル化は、近傍遺伝子の発現に深くかかわっています(図)。
 通常は、体細胞分裂を経てもエピジェネティクスの状態は安定して伝達されるのですが(エピゲノム安定性)、生活習慣病や悪性腫瘍等においては、このエピゲノム安定性が損なわれ、エピゲノム不安定性を呈することがあります。
 私たちの研究チームは、各種病態におけるエピゲノム安定性・不安定性の研究に取り組んでいます。

尿酸代謝研究

文責 藏城 雅文・講師 (E-mail: masafumi-kurajoh●omu.ac.jp)
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 高尿酸血症は高血圧・糖尿病・肥満・慢性腎臓病などの生活習慣病や心血管・脳血管イベントと関連することが示されていますが、その病態は十分には明らかにはなっていません。当教室では、健常者、糖尿病患者、腎不全患者、透析患者などの幅広い患者さんを対象に、尿酸・キサンチン酸化還元酵素の意義を明らかにして来ました。今後もさらに研究を発展させ、臨床での還元を目指します。

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文献6より引用

文献

  • Kurajoh M et al. Sci Rep in press
  • Kurajoh M et al. Front Med (Lausanne). 2022 Feb 7;9:817578.
  • Nakatani S, Kurajoh M et al. Kidney Blood Press Res. 2021;46(4):475-483.
  • Kurajoh M et al. Sci Rep. 2021 Apr 1;11(1):7378
  • Kurajoh M et al. Clin Chem Lab Med. 2020 Aug 1;59(4):e137-e140
  • Yoshida S, Kurajoh M et al. Sci Rep. 2020 Mar 10;10(1):4437.
  • Kurajoh M et al. Int J Endocrinol. 2019 Dec 30;2019:1762161.

内分泌代謝研究

文責 藏城 雅文・講師 (E-mail: masafumi-kurajoh●omu.ac.jp)
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 バセドウ病、骨粗鬆症、糖尿病などの内分泌代謝疾患を対象に、様々な臨床研究を行っています。

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文献12より引用

文献

  • Numaguchi R, Kurajoh M et al. J Diabetes Investig. 2022 May 26.
  • Toi N, Kurajoh M et al. Intern Med. 2022 Feb 19.
  • Toi N, Kurajoh M et al. Endocr J. 2022 Jan 28;69(1):101-105.
  • Miyabe M, Kurajoh M et al. Ann Clin Biochem. 2019 Nov;56(6):684-691
  • Kurajoh M et al. BMC Pregnancy Childbirth. 2019 Jul 5;19(1):232

副甲状腺機能亢進症におけるカルシウム・リン代謝と骨代謝に関する研究

文責 永田 友貴・講師 (E-mail: yuki.nagata●omu.ac.jp)
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 副甲状腺機能亢進症において、過剰分泌された副甲状腺ホルモン(PTH)によって骨組織での線維芽細胞増殖因子23 (FGF23)の分泌は増加する。以前に行った我々のグループの研究でも原発性副甲状腺機能亢進症モデルマウスにおいて、過剰なPTHによって骨細胞からのFGF23分泌増加していることを証明した。近年カルシウム・リン代謝に関わる遺伝子が多く報告されてきているが、副甲状腺機能亢進症における病的意義については明確ではない。このことから、原発性および慢性腎臓病(Chronic Kidney Disease:CKD)における副甲状腺機能亢進症の病態モデルを用いて、カルシウム・リン代謝およびFGF23発現とその他のリン代謝関連遺伝子の関係性について研究を進めている。

CKDにおける骨病変および血管病変に関する研究

文責 永田 友貴・講師 (E-mail: yuki.nagata●omu.ac.jp)
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 慢性腎臓病に伴う骨・ミネラル代謝異常(CKD-MBD)は血管石灰化を介して生命予後へ悪影響を及ぼす全身性疾患として近年注目されている。CKDでは二次性副甲状腺機能亢進症が認められ、高回転型骨病変を呈することで血管石灰化に関連する。PTH持続投与モデルを用いて、破骨細胞のReceptor Activator of Nuclear Factor Kappa-B (RANK)へ結合するRANK Ligand (RANKL)が骨芽細胞で増加し、破骨細胞形成や活性を促進すると同時に、破骨細胞/骨芽細胞カップリング因子が増強することを確認した。さらに、カップリング因子を欠損させたモデルマウスや二次性副甲状腺機能亢進症を呈するCKDモデルマウスにおいて、骨リモデリングにおける破骨細胞/骨芽細胞カップリング因子と骨病変への関与および血管石灰化に関与する因子の検討を行っている。