血管病態制御学部門

血管病態制御学部門

私たちの行っている研究シリーズ(1)

庄司哲雄

透析患者のコホート研究

私のライフワークのひとつは、血液透析患者さんを対象としたコホート研究です。1990年代に実施し2001年に発表した265人の「MAP-ESRDコホート」では、糖尿病透析患者の予後が悪いのは血管が硬いことによることを示しました。また、HOMA-IRで示されるインスリン抵抗性は非糖尿病透析患者の予後規定因子であることを明らかにしました。

さて、現在解析中のひとつは518人の患者さんを2004年~2009年の5年間追跡した「DREAMコホート」で、もうひとつは1696人を2012年から2017年の5年間追跡した「ODCS研究」です。500人規模のコホートって「小さいなあ!」と思っていませんか?コホート研究の規模は観察人数ではなくアウトカムの発生数が重要なのです。透析患者さんは一般住民より10倍以上CVDリスクが高いので、500人なら5000人、1600人なら16000人規模の一般住民コホートに相当するのです。

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DREAMはDialysis-Related Endocrine And Metabolic Changes affecting cardiovascular diseaseの頭文字をとっており、透析患者さんを対象とし、代謝内分泌異常が心血管疾患にどうかかわっているのかを調べています(UMIN000006168)。これまで、DHEA-S、EPA/AA比、AA/DHLA比、心胸比、NT-proBNPなどについて論文化しました。酸化ストレス(JAT 2021)、IGF-1(JAT 2021)、甲状腺ホルモン(JAT 2021, Nutrients 2021)などについて論文発表しました。それ以外にも、秘宝が眠る「夢の蔵」になっています。

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ODCSはOsaka Dialysis Complication Studyの略号で、大阪府下17の透析関連施設で実施したコホート研究です(UMIN000007470)。高齢化社会に突入し、高齢化に関する諸問題が社会的にも大きな関心を集めております。透析患者さんについても同様で、本研究では認知機能やADLなどを5年間にわたり毎年調査することで、経年的な変化とそれに影響を与える因子を前向きに調べるものです。大量の臨床データの電子化が完了しつつあり、解析し放題の状況です。拡張期血圧が低いと認知機能が低いという関係を見出し論文化しました(NDT2021)。

興味のある先生、いっしょにやりませんか?毎日コツコツタイプの先生にはピッタリかも。テレワークでも進めることができる安心感も、ポストコロナ時代の強みです。

私たちの行っている研究シリーズ(2)

庄司哲雄

透析患者のランダム化比較試験

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私のライフワークのひとつは、血液透析患者さんを対象としたランダム化比較試験です。コホート研究を含めた観察研究から生まれた「仮説」を検証するためには、RCTでの確認作業がどうしても必要になります。これまで論文報告を終了した代表格は「J-DAVID試験」です。これは「活性型ビタミンDが長寿ホルモンって、本当?」を証明しようとした10年がかりの研究でしたが、結果はネガティブでした。自分を含めて「思い込み」がなんと多いことかを証明してしまいました。詳しくは原著論文をお読みください(JAMA2018)。

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最近取り組んできたのがVICTORY試験(2018~2020)(UMIN000030636)(jRCTs051180156)です。論文報告もできました(CJASN 2021)。慢性腎不全で生じる二次性副甲状腺機能亢進症は生命予後にも影響し得る重大な合併症ですが、その内科的治療法には、活性型ビタミンD製剤、あるいはカルシミメティクスによるものの2種類に大別されますが、いずれが優れているのかをhead to headで対決させた研究はありませんでした。それに挑戦したのがVICTORY試験です。

でも「優れている」ってどういう意味でしょうか?何をアウトカムにするかで結論が変わるかもしれません。例えば、ある男性は職場では最高の社員ですが、家庭では最低のパパかもしれません。逆もありますね。同一人物なのにアウトカム次第で評価が逆転するかもしないのです。そこで、VICTORYではアウトカムを3つ設定したのです。即ち、第1評価項目として総死亡や血管石灰化のサロゲートマーカーである「Serum calcification propensity (T50)」、第2評価項目として「握力」、そして第3評価項目として認知機能・ADLの尺度である「DASC-21」。ビタミンDはサルコペニア対策としても期待されています。さあ、どんな結果になるのでしょうか?乞うご期待。

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「RCTなんて自分には無縁だ」「日々の診療が多忙だし」と思っていませんか?それは日々の診療における疑問をRCTで確認するチャンスでもあります。CHAIR studyは理学療法士の若者が修士課程の2年間で、仕事を継続しながら、研究計画の立案、倫理委員会承認、実施、論文アクセプトまで進めたRCTです。また、運動療法で血液透析患者さんのADLが改善すること示したCHAIR studyというRCTも報告しています(JRN2015)。

あなたにもきっとできるんです。興味のある先生、ご相談に乗りますよ。