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2025年7月22日

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袁継輝らの研究グループ:都市気候変動に対応する新たな省エネ戦略を提案 ~未来気候下におけるオフィスビルの熱環境と快適性を定量的に評価~

ポイント

◇ 将来の都市気候(2090年代)を想定した建築シミュレーションで、室内の温熱環境とエネルギー消費を評価

◇ 冷房需要が20%以上増加する可能性を指摘

◇ 受動的な冷却戦略(クロスベンチレーション、動的日射遮蔽、高性能断熱等)が15~25%の負荷削減に有効

◇ 都市ヒートアイランド(UHI)や気候変動への対策として、建築設計や都市政策への応用が期待される

概要

都市化と気候変動の進行により、日本の大都市では熱ストレスや冷房エネルギーの需要が急増しています。本研究では、大阪市の中層オフィスビルを対象に、将来の気候(RCP8.5シナリオ、2090年代)を用いて、エネルギー消費と室内の熱的快適性への影響を詳細に評価しました。

計算には建築エネルギーシミュレーションソフト「EnergyPlus」を用い、室内温度、作用温度、PMV(予測平均温冷感申告)指標、冷房エネルギー消費などを分析。さらに、受動的な対策(自然換気、日射遮蔽、高性能断熱、緑化屋根など)の有効性も検証しました。

論文(袁先生)

本研究成果は、2025年7月8 日に国際学術誌「Journal of Thermal Biology」のオンライン速報版に掲載されました。 

研究の背景

都市ヒートアイランド現象や温暖化により、都市の建物は極端な暑熱環境にさらされるリスクが高まっています。特に高温多湿な大阪市では、冷房負荷の増加とエネルギーシステムの脆弱性が懸念されます。従来の空調方式(VRFシステム)では、猛暑日における冷却性能の低下や消費エネルギーの増加が問題となります。

研究の内容

対象とした6階建ての中層オフィスビル(床面積約2,850㎡)をモデルとし、現在(2020年代)と将来(2090年代)の気象条件下での性能を比較。結果として、2090年代には空調設定温度(26℃)を維持できない時間帯が増え、屋内温度の上昇やPMVの悪化が顕著に観察されました。

特に空調のない区域では、最大で40℃を超える作用温度や、PMV +7超といった極端な不快環境が発生。冷房エネルギー消費は、2020年代と比べて20%以上の増加が見込まれました。

期提案された対策と期待される効果

本研究では以下の受動的冷却手法の有効性を示しました。

  • クロスベンチレーション(自然換気):室温を23℃低減
  • 動的日射遮蔽装置:冷房負荷を1015%削減
  • 高性能断熱材(例:エアロゲル):冷房負荷を510%削減
  • 緑化屋根:屋上表面温度を1015℃低減し、冷房負荷510%削減

これらを組み合わせることで、2090年代の極端気象下でも最大25%の冷房エネルギー削減が期待されます。

今後の展開

本研究は、気候変動下における建物の温熱環境性能とエネルギー使用を定量的に把握し、対策を導く新たな枠組みを提供します。今後は、適応的快適性モデル(ASHRAE 55適応モデル)や、受動・能動統合型HVACシステムの開発・評価を進め、都市レジリエンス強化への貢献を目指します。

資金情報

本研究は、EUMarie Skłodowska-Curie ActionsMERITGrant No. 101081195)および日本学術振興会科研費(JP24K05546, JP24K01053)の支援を受けて実施されました。

掲載誌情報
  • 【発表雑誌】Elsevier・Journal of Thermal Biology
  • 【論文名】Future climate impacts on urban office buildings: Energy, comfort, and passive solutions in Osaka, Japan
  • 【著者】Fatemeh Salehipour Bavarsad, Mostafa Mohajerani, Jan Tywoniak, Zhichao Jiao, Jihui Yuan (責任著者)
  • 【掲載日】2025年7月8日
  • 【URL】https://doi.org/10.1016/j.jtherbio.2025.104212
研究内容に関する問い合わせ先

大阪公立大学大学院生活科学研究科

准教授 袁 継輝(えん けいき)

TEL:06-6605-2833

E-mail:yuan[at]omu.ac.jp ※[at]を@に変更してください。