お知らせ
2025年9月25日
- 研究
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居住環境学科 袁継輝先生が発信する国際的な研究グループにより、気候変動時代の建築環境に関する新たな研究成果が発表されました。
気候変動に適応するオフィス建築の性能評価
~2090年代日本におけるエネルギー消費と快適性の将来像~
<ポイント>
◇ 2090年代の日本における気候変動シナリオを用い、オフィスビルのエネルギー需要と室内快適性を評価
◇ 札幌・東京・大阪・福岡・那覇を対象に、冷暖房負荷・PMV・OTの将来変化を算定
◇ 冷房需要は増加、暖房需要は大幅減少し、非空調空間では深刻な過熱リスクを確認
◇ 外皮設計・HVAC最適化・都市ヒートアイランド対策などの適応戦略を提示
<グラフィカルアブストラクト>
<概要>
気候変動の影響により、日本の建物は今後大きな環境負荷変化に直面する。本研究では、IPCC RCP8.5シナリオに基づき、2090年代の日本主要都市(札幌・東京・大阪・福岡・那覇)における中規模オフィスビルのエネルギー性能と室内熱的快適性をシミュレーションした。
その結果、暖房需要は大幅に減少する一方、冷房需要は最大30%増加し、特に非空調空間ではPMVが+3を超え、OTが34℃に達する深刻な過熱が確認された。窓壁比や日射取得率が冷房負荷に強い影響を与えることも明らかとなった。本研究は、気候変動下におけるレジリエントな建築設計と省エネルギー戦略の重要性を示すものである。
<研究の背景>
- 日本では気候変動により猛暑日が増加し、冷房需要の増大と熱ストレスの悪化が予測される。
- 一方で、暖房需要は減少傾向にあり、エネルギー需給バランスが変化。
- 現行研究の多くは短期的な評価にとどまり、2090年代といった長期的視点からの検討は不足している。
<研究の内容>
- 対象建物:6階建て中規模オフィスモデル(各階に空調・非空調ゾーンを設定)
- 対象都市:札幌・東京・大阪・福岡・那覇
- 気候条件:現行気候および2090年代5シナリオ
- 評価手法:EnergyPlusによる動的シミュレーション、PMV/OTを用いた快適性評価
- 検証:実在オフィス建物のデータと比較し、エネルギー需要誤差±10%以内で一致
<提案された知見と効果>
- 暖房需要は最大100%削減(那覇)、冷房需要は最大30%増加(福岡)
- 非空調空間における過熱リスクが顕著(PMV > +3、OT > 34℃)
- 窓壁比(WWR)と日射取得率(SHGC)が冷房需要の主要因
- 建築外皮設計・自然換気・高反射屋根・都市緑化などの適応戦略が有効
<今後の展開>
- 地域特性に応じた気候適応型設計の指針を具体化
- 熱帯・亜熱帯都市への展開、相変化材料(PCM)・AI制御型空調の導入効果の検証
- 都市規模でのヒートアイランド対策・再エネシステム統合評価への拡張
<資金情報>
本研究は、日本学術振興会科研費(JP24K05546, JP24K01053)の支援を受けて実施されました。
<掲載誌情報>
- 【発表雑誌】Elsevier・Results in Engineering
- 【論文名】Climate-resilient office buildings: Energy and comfort in Japan's future (2090s)
- 【著者】Fatemeh Salehipour Bavarsad(第一著者), Mostafa Mohajerani, Jan Tywoniak,
Jihui Yuan(責任著者)
- 【掲載日】2025年9月19日
- 【URL】https://doi.org/10.1016/j.rineng.2025.107235
<研究内容に関する問い合わせ先>
大阪公立大学大学院生活科学研究科
准教授 袁 継輝(えん けいき)
TEL:06-6605-2833
E-mail:yuan[at]omu.ac.jp ※[at]を@に変更してください。