お知らせ
2026年9月14日
- 研究
袁継輝准教授ら:都市ヒートアイランドを考慮した将来気象データによる建築性能評価手法を開発
将来の都市の暑さを建築シミュレーションへ反映
~大阪を対象に、気候変動・都市ヒートアイランド・周辺建物を統合した新たな建築性能評価手法を開発~
ポイント
- 将来の気候変動だけでなく、都市ヒートアイランド(UHI)と周辺建物の3次元形状を同時に考慮できる高解像度な将来気象データ・建築性能評価フレームワークを構築しました。
- 大阪都心部を対象に解析した結果、UHIを考慮すると夜間気温が約8~3.1℃上昇し、建物のエネルギー消費や室内熱環境の評価結果が変化することを明らかにしました。
- 一方、周囲の建物を3次元的に考慮すると、日射遮蔽などの効果によって、UHIによる負荷増加を一部相殺することが確認されました。将来の建築性能を正確に評価するには、気候変動・UHI・都市形態を一体的に扱うことが重要であることを示しました。
グラフィカルアブストラクト

概要
気候変動の進行に伴い、将来の建築物では冷房エネルギー需要や室内のオーバーヒートリスクが増大することが懸念されています。そのため、建築物の長期的な省エネルギー性能や熱的レジリエンスを評価する際には、将来の気象条件を正確に反映することが重要です。
しかし、建築エネルギーシミュレーションで一般的に利用される標準気象データ(TMY)は、空港や郊外の観測値を基に作成される場合が多く、都市中心部特有の都市ヒートアイランド現象、建物密度、日射遮蔽、都市形態などを十分に反映できないという課題があります。
本研究では、大阪市中心部を対象として、統計的ダウンスケーリングによる将来気候データと、都市気候モデルであるUrban Weather Generator(UWG)を組み合わせ、都市ヒートアイランドを反映した高解像度の将来気象データを作成しました。
さらに、EnergyPlusを用いた建築性能シミュレーションに、周辺建物の3次元形状を段階的に組み込み、①通常の気象データを使用した独立建物、②UHIを反映した気象データを使用した独立建物、③UHIと周辺都市形態の両方を考慮した建物、という3つの条件を比較しました。
その結果、UHIによる気温上昇だけでなく、周辺建物による日射遮蔽などの都市形態効果も、建物のエネルギー消費量および室内熱環境に大きく影響することが明らかになりました。
研究の背景
建築分野では、将来の気候変動に対応した省エネルギー設計や熱中症・オーバーヒート対策の重要性が高まっています。
建築物の将来性能を評価する際には、気候モデルから作成された将来気象データをEnergyPlusなどの建築シミュレーションへ入力する方法が広く利用されています。
しかし、全球気候モデルや地域気候モデルから作成される気象データは空間解像度が比較的粗く、都市中心部で発生する局地的な気温上昇や、建物群による日射・放射環境の変化を十分に表現できません。
特に大阪のような高密度都市では、都市ヒートアイランドによって周辺地域より気温が高くなる一方で、高密度な建物群による日射遮蔽も生じます。つまり、「都市だから暑い」という効果と「周辺建物によって日射が遮られる」という効果が同時に存在します。
従来の建物単体モデルでは、このような相反する都市環境の影響を十分に評価することが困難でした。
そこで本研究では、将来気候、都市ヒートアイランド、周辺建物形状を段階的に統合し、それぞれが建築物のエネルギー性能と室内熱環境へどの程度影響するかを明らかにしました。
研究の内容
研究では、大阪市中心部の高密度市街地を対象とし、2011~2024年の気象データから構築した歴史的TMYデータに加え、将来気候について以下の4種類のデータを使用しました。
- SRES A2
- RCP4.5
- RCP8.5
- 気象庁(JMA)による5将来気候予測
JMAデータは21世紀末の2076~2095年を対象としています。
これらの気象データにUWGを適用し、大阪都心部の建物密度、平均建物高さ、土地被覆、交通由来の人工排熱などの都市特性を考慮した都市気象データを作成しました。
その後、代表的な日本の6階建て中層オフィスビルを対象として、EnergyPlusによる建築性能シミュレーションを実施しました。対象建物は高さ18 m、窓面積率40%とし、VRF空調システムを設定しています。
評価条件として、以下の3つのシナリオを設定しました。
Scenario 1:通常の気象データ+独立建物
都市ヒートアイランドや周辺建物を考慮しない従来型の評価。
Scenario 2:UHIを反映した気象データ+独立建物
UWGを用いて都市ヒートアイランドを気象条件へ反映。
Scenario 3:UHIを反映した気象データ+周辺建物群
Scenario 2に加えて、約500 m×500 mの周辺都市形態を3次元的にモデル化し、日射遮蔽などを考慮。
これらを組み合わせ、合計15ケースを解析しました。
評価指標には、年間エネルギー消費原単位(EUI)に加え、
- Indoor Discomfort Degree(IDD)
- Indoor Overheating Degree(IOhD)
- Indoor Overcooling Degree(IOcD)
- Thermal Autonomy(TA)
を用い、エネルギー性能と室内熱環境の両面から評価しました。
主な研究成果
解析の結果、都市ヒートアイランドを考慮したUWG気象データでは、夜間気温が従来の気象データよりも約1.8~3.1℃高くなることが確認されました。これは、一般的な気象データだけでは都市部の夜間高温を十分に再現できない可能性を示しています。
また、Scenario 1からUHIを考慮したScenario 2へ変更すると、年間エネルギー消費量が増加する傾向が確認されました。
一方で、周辺建物を明示的に含めたScenario 3では、建物群による日射遮蔽などの影響によって年間EUIが再び低下しました。歴史的気象条件では、年間EUIは約57.5 kWh/m²から、UHI考慮時には60.1 kWh/m²へ上昇しましたが、周辺建物まで考慮すると55.2 kWh/m²まで低下しました。
さらに、将来の4種類の気象データについてScenario 1とScenario 3を比較すると、年間EUIは約3.3~4.5%低下しました。一方、熱環境指標への影響は一様ではなく、平均IDDは約3.4~10.1%、平均IOhDは約7.9~16.5%低下したのに対し、IOcDは約14.4~80.8%増加し、TAも0.7~1.6ポイント低下しました。
これらの結果は、都市環境の影響を単一のエネルギー指標や快適性指標だけで評価することが難しいことを示しています。
特に重要なのは、UHIによる高温化と周辺建物による日射遮蔽が、建物性能に対して異なる、場合によっては相反する影響を与えることです。
したがって、将来の都市建築性能を高精度に予測するためには、将来気候データだけでなく、都市ヒートアイランドと実際の都市形態を同時に取り込む必要があることが明らかになりました。
今後の展開
本研究で構築した手法は、大阪だけでなく、東京、名古屋、福岡などの高密度都市にも応用することができます。
今後は、
- 実測気象データを用いた都市気候モデルのさらなる検証
- 複数都市・複数建物用途への適用
- 都市緑化、高反射材料、クールルーフなどのヒートアイランド緩和策との統合
- 極端暑熱・熱波条件下における建築物の熱レジリエンス評価
- 都市形態の最適化と建築エネルギーシミュレーションの連携
- 将来気候に適応した都市・建築設計への展開
などを進めることが考えられます。
本研究で提案した、統計的ダウンスケーリング+UWGによる都市気候補正+周辺都市形態を含む建築エネルギーシミュレーションという一連の手法は、将来の高密度都市における建築物の省エネルギー性能と熱レジリエンスを評価するための再現可能なフレームワークとなります。
将来的には、都市計画と建築設計の双方において、より現実的な気象・都市条件を反映した気候適応型の建築性能評価への活用が期待されます。
掲載誌情報
- 雑誌:Theoretical and Applied Climatology(Springer Nature)
- 論文名:Integrating urban heat island effects into future weather data for building performance simulation
- 著者:Fatemeh Salehipour Bavarsad(Czech Technical University in Prague)、Mostafa Mohajerani(Shahrood University of Technology)、Jan Tywoniak(Czech Technical University in Prague)、Jihui Yuan / 袁 継輝(責任著者・大阪公立大学)
- DOI:https://doi.org/10.1007/s00704-026-06571-7
研究内容に関する問い合わせ先
大阪公立大学大学院生活科学研究科
准教授 袁 継輝(えん けいき)
TEL:06-6605-2833
E-mail:yuan【at】omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。