2024年度 入学式学長式辞

2024年44

大阪公立大学
学長 辰巳砂 昌弘

新入生の皆さん、大阪公立大学の学部・学域ならびに大学院研究科へのご入学、誠におめでとうございます。心よりお慶び申し上げます。

大阪公立大学は、2年前に開学しましたので、皆さんは第三期生ということになります。本日皆さんをお迎えして、大阪府知事、大阪市長はじめ来賓の方々、同伴の方々にも多数ご臨席いただいて、大阪城にほど近いここ大阪城ホールにて入学式を挙行できますことを大変嬉しく思います。今年度、大阪公立大学に入学されましたのは、学部・学域生2,931名、大学院生1,478名、合計4,409名の皆さんです。本学を代表して、皆さんを歓迎します。

また、このよき日を心待ちにし、これまで皆さんを支えてこられたご家族はじめ関係者の皆さまに、心よりお慶び申し上げます。

これまで感染症や大きな自然災害に見舞われる苦しい時期が続きました。このような苦しい時期を乗り越えて来られた皆さんには、その努力と忍耐に敬意を表すとともに、心から「よく頑張って来られました、お疲れ様」と申し上げます。また2年前に始まったウクライナでの戦争は長期化し、イスラエルとイスラム組織ハマス間で勃発した紛争も先が見えず、平和な日常が失われている地域が拡大しています。さまざまな点で世界は大きく変化していますが、皆さんには、この大きな変化に翻弄されることなく、物事の本質を見極めながら行動していただきたいと願っています。地球上では今、この瞬間も戦争によって、多くの命が失われている状況です。皆さんが今日のこのよき日を迎えられていることを当たり前のこととせず、平和に対する感謝の気持ちを常に持ちながらこれからの大学生活を送っていただければと思います。皆さんがこれからグローバルに生きていく中で、人々の価値観はますます多様になっていくでしょう。これから本学で学ばれる皆さんには、まずはその多様な価値観を認め尊重しあえる人になっていただきたいと願っています。

さて、本学は、2022年4月に大阪市立大学と大阪府立大学との統合によって設立された、公立大学として最大の規模を誇る総合大学です。そもそも公立大学は、国家主導の設置形態を受け継いでいる国立大学、明確な教育理念のもと私人によって設立される私立大学の間にあって、一種独特な位置にあります。1928年に大阪市長・關一は、大阪市立大学の前身である大阪商科大学について「国立大学のコッピーであってはならぬ」として、商都大阪に立地する公立大学の意義を説きました。また、1949年には、大阪府知事・赤間文三が「日本一の大学を作る」と、当時は浪速大学と称していた大阪府立大学に対し、その設置への意気込みを語っています。1880年、五代友厚らの支援のもと開所した大阪商業講習所から、大阪商科大学を経て、工業・医学・女子の各種専門学校との統合によって、戦後、総合大学として出発した大阪市立大学は、初代学長・恒藤恭が「学理探求の自由尊重のもと、理論と実際的応用との有機的な連結を重視する学風」と述べたように、国立大学とは趣を異にする大学として、大阪ひいては日本の学術研究・高等教育を牽引するような存在へと成長していきます。また、工業・農業系の専門学校を前身としつつ、戦後大阪の復興を第一に掲げ、工学・農学、さらには経済学を主とする産業大学としての展開を遂げた大阪府立大学は、その後、総合科学や社会福祉学分野への伸長を経て、2005年に、大阪府下における女子教育の充実を目指した大阪女子大学、医療専門の高度専門職業人の養成を目的とした大阪府立看護大学という、同じく府立の高等教育機関との統合を果たし、教育・研究面で先見性に富んだ特色ある大学として、大きな存在感を放つことになります。

この独特な位置にある公立大学の特性は、やはり、学問や教育はどのようにあるべきかという真摯な問いに対して、それぞれの時代における地域との関わり中でその応答に努めている点にあると言えるでしょう。大産業都市にして、戦前には「大大阪」とまで呼ばれた、ここ大阪において、大阪市立大学と大阪府立大学は、まさに市民・府民からの負託に応じた形で、さまざまな研究を展開し、多くの優れた人々を養成してきました。大阪公立大学は、そうした時代や地域からの要請を映し出した、まさに「公立大学」のあるべき姿そのものを体現化した大学なのです。

大阪公立大学の開学は、ここ大阪のさまざまな公立高等教育機関が合流することの総仕上げであり、この異なる文化や伝統の出会いと調和こそが、12学部・学域による「総合知」と共に創る「共創」を掲げる本学が今後発展するための原動力と考えています。今年三期生の皆さんをお迎えしましたが、キャンパス内には大阪市立大学、大阪府立大学、大阪公立大学、3大学の学生が共に学ぶ環境となっています。さまざまな局面で、多様性と多様な価値観を感じていただけると思っています。2年前に誕生した大阪公立大学がこれから発展していく長い歴史の中で、今は一つの通過点に過ぎませんが、この節目のときに入学された皆さんには、この多様な文化が交わる中から新大学の新しいキャンパスに色づけをしていく重要な役割を担っていただくことになります。

さて、新入生の皆さんに改めて問いますが、高校などこれまでの教育機関と大学との違いは何でしょうか。最も大きく異なる点は、大学では、研究や社会貢献の現場で、教育が行われているということです。皆さんが生きた学問を身に付け、生涯学び続ける原動力がここ大学で得られるのは、そのことによると私は考えています。大学生や大学院生は「自主・自立」のもとで学ぶのが前提です。また、人から教えられることをただ受け身で学ぶのではなく、自ら進んで学ぶ「能動的な学び」を基本としています。大学での講義や実験・実習は、皆さんが自身で習得し成長する「学び」をサポートするためのものです。また大学では、どんな学問を身に付けるかについても、幅広い選択肢の中から自分で履修計画を立てていきます。皆さんが将来卒業・修了したのち、社会でさまざまな課題に取り組んでいくとき、1つの学問分野だけで解決できることは殆どありません。本学には総合知を駆使することの出来る12学部・学域、15研究科が提供する充実したカリキュラムに加えて、副専攻や留学プログラムなど多彩なメニューが用意されていますので、皆さん独自のカリキュラムを構築して、ご自身の「学び」を充実させて下さい。

総合知の体験と能動的な学びについては、学部・学域1年生の前期から「初年次ゼミナール」という全学必修科目のゼミが皆さんをお待ちしています。全学部・学域の教員が担当する多彩なテーマの中から、興味のあるものを選び、学部・学域の枠を越えて集まった多様な学生と教員によって進めるアクティブラーニング型授業です。多様なメンバーによるディスカッションを通して、能動的な学びを体験して下さい。このゼミナールによって、皆さんには総合知の重要性と価値観の多様性を学んでいただけると思います。大阪公立大学ではこのような専門分野や価値観の多様性に加えて学生や教職員の多様性、そして国際性やダイバーシティを重んじています。常に新しいものにチャレンジする高い志をもって、互いの価値観を尊重しながら、学びを深めていただければと思います。

研究の現場で教育が行われるのが大学と申し上げましたが、最先端の研究現場で人材が育成されることに意味があります。本学は高度研究型大学を志向しており、世界最先端の研究設備を有しています。人工光合成研究センターや全固体電池研究所、植物工場研究センターに代表される実証実験研究所、また共創研究センターと呼ばれる約50のユニークな学際研究所があります。基礎研究から応用研究まで、学生・教職員が一丸となって取り組む多様な学術研究はグローバルに発信され、世界中の学界や産業界から高い評価を受けています。学長である私自身も、研究の時間を今でも大切にし、長年取り組んできた「全固体電池」という次世代蓄電池の実現を目指しています。私も含め、これから皆さんを迎える教員、職員、在学生には熱い思いがあり、その中で新しく始まる皆さんの大学・大学院生活が充実したものになることを心から願っています。

また、学問を通じた知的活動だけでなく、学園祭やクラブ活動、ボランティア活動、地域での交流活動なども活発に行われており、企画力、創造力、コミュニケーション力など、多様な能力を養うことが出来ます。また1年後には大阪・関西万博がいよいよ開幕しますが、本学はここにさまざまな形で参画することになっていますので、三期生の皆さんには特に積極的に関わっていただければと思っています。万博閉幕後森之宮に新キャンパスがオープンします。学びの場も、5つのキャンパスだけでなく、梅田や難波には都心拠点があります。また、留学生や海外からのゲストと交流するための国際交流会館や、200を超える国際交流協定締結大学が世界中にあり、世界と繋がるチャンスが広がっています。このようなさまざまな“知”の拠点を活用し、皆さん自身の発想で、地域や世界へ一層のつながりを作っていただければと思います。一生のうちで、大学生の時代というのは、他から強要されたり管理されたりすることの少ない、極めて貴重な年月であると言えます。自分の裁量で自分を磨くことが出来るのが大学で、ここでの経験はすべて皆さんの血となり肉となります。自由を謳歌できるこの限られた時間に何をなすべきか、大学でしか出来ないことを、選択肢の多い本学でぜひ皆さん自身で見つけていただければと思います。これからの学生生活を通じて、皆さんにはさまざまな素晴らしい出会いが待っています。本学で学んだ学問、良き友、巡り会えた良き師、これらが、皆さんが社会に出て活躍される礎になります。卒業後数年先、さらには数十年先に、皆さんが大阪公立大学で学んで良かったと思う日が来ることを祈念しています。新しく始まる皆さんの大学・大学院生活が充実したものになることを心から願っています。 

以上をもちまして、新入生の皆さんの今後の飛躍を期待して式辞と致します。本日は、誠におめでとうございます。