2023年度 学位記授与式(春季)学長式辞

2024年3月22日

大阪市立大学
大阪府立大学
大阪公立大学
学長 辰巳砂 昌弘

皆さん、卒業、修了おめでとうございます。
本日ここに、多数の来賓の皆さまにご臨席を賜り、2023年度、大阪市立大学、大阪府立大学、大阪公立大学合同の、春季の学位記授与式式典を開催できますことを嬉しく思います。3つの大学を代表して、心よりお祝い申し上げます。またこの間、このよき日を心待ちにし、皆さんをさまざまな形で支えてこられたご家族や関係者の皆さまにも、心よりお慶び申し上げます。

この日を迎えるために、皆さんそれぞれさまざまな思いで学位取得の準備をしてこられたと思います。多くの困難の中で、不断の努力を重ね、それぞれの目標に向かって研鑽を積み、学位取得という目的を達成された皆さんに、心から敬意を表します。

本日、大阪府立大学で学域を卒業して学士の学位を得られた方は1,320名、大学院博士前期課程を修了して修士の学位を得られた方は29名、博士後期課程を修了して博士の学位を得られた方は44名、博士課程を修了して博士の学位を得られた方は4名、合計1,397名となります。また大阪市立大学で学部を卒業して学士の学位を得られた方は1,448名、大学院前期博士課程を修了して修士の学位を得られた方は23名、後期博士課程を修了して博士の学位を得られた方は57名、専門職学位課程を修了し法務博士の学位を得られた方は5名、合計1,533名となります。さらに、大阪公立大学で大学院博士前期課程を修了して修士の学位を得られた方は1,164名、博士後期課程を修了して博士の学位を得られた方は2名、論文博士の学位を得られた方は15名、専門職学位課程を修了し法務博士の学位を得られた方は7名、合計1188名となります。

合わせて4,118名の皆さん、それぞれの学位を取得され、今後さまざまな道に進まれることと思いますが、本学で学んだ多くのことを糧に、実りある人生を送っていただきたいと願っています。皆さんは、自ら学び続けるための基本を本学で身に付けられたことと思います。今後は常に新しいことを積極的に吸収し、新しい発見に感動できる人であり続けていただきたい、そして、向上心を持ち続け、これからも自身を磨き続けていただきたいと願っています。2年前、ウクライナでの戦争が始まり、昨年はイスラエルとイスラム組織ハマスの紛争が勃発しました。色々な点で今世界が大きく変化しています。一方で生成AIが一般的となり、これをどう使いこなしていくか、またオリジナリティの本質が問われています。テクノロジーの急速な変化を含め世界が大きく変わろうとするこのタイミングで人生の節目を迎える皆さんは、それに翻弄されることなく、物事の本質を見極めながら行動していただきたいと願っています。

さて、大阪公立大学がスタートしたのは2年前になりますが、新大学では12学部・学域による「総合知」と、共に創る「共創」を掲げ、世代を問わず開かれた大学、人の集まる大学を目指しています。産官学民共創でさまざまな社会課題の解決に取り組み、イノベーションを起こしながら人材を育成する「イノベーションアカデミー事業」のもと、本学は人々のwell-being向上に向けた知の拠点となって参りますので、ぜひ皆さんにも数年後、あるいは数十年後に再びここを訪れていただきたいと思います。自身を磨く場として、母校の発展形として誕生した大阪公立大学を再び学び直しに活用いただければと思っています。

さて、新しい世界に羽ばたいてゆく皆さんに、3つのことをお話しさせていただきます。1つ目は諦めないこと、2つ目は誠実であること、3つ目は人との出会いを大切にすることです。

まず1つ目、「諦めないこと」から。「継続は力なり」とか「石の上にも三年」とか言われますが、なにごとも諦めないのは楽なことではないと思います。しかし成功者といわれる人達は、殆ど例外なく継続的な努力を大切にしています。あのイチローは、「結果が出ないとき、どういう自分でいられるか。決して諦めない姿勢が、何かを生み出すきっかけをつくる」と言っています。大相撲の千代の富士は「今日いい稽古をしたからって明日強くなるわけじゃない。でも、その稽古は2年先、3年先に必ず報われる。自分を信じてやるしかない」と言っています。あの福沢諭吉も「進まざるものは必ず退き、退かざるものは必ず進む」と述べています。さらに、アインシュタインは「人生とは自転車のようなものだ。倒れないようにするには、走り続けなければならない」と言っています。自分自身のことで恐縮ですが、私は研究者としては、40年以上前から全固体電池というポストリチウムイオン電池としてこれから実用化されようという新電池に使う材料の研究に取り組んできました。大学の研究室の研究テーマというものは5年から10年ぐらいの周期で、大きく変えていくべきだという大先生も多い中で、私は20年ほど前に、全固体電池の実用化を自分自身の研究上の目標に掲げて研究室の学生やスタッフ、卒業生の皆さんと地道に取り組むことにしました。苦しい時期もありましたが、今、振り返ると諦めなくて良かったと心から思っています。昨年11月、紫綬褒章の伝達式に出席した際、府大の卒業生である作家の東野 圭吾さんと初めてお目にかかる機会に恵まれました。東野さんは、工学部電気工学科を卒業したのち小説家に転身し人気作家の道を歩んで来られましたが、長年一貫して娯楽性を追求してきたことが間違いではなかったと振り返っておられました。自分のスタイルを長く続けることには迷いもあると思いますが、皆さんにとって、諦めずに継続したいことは何かを考えるきっかけになれば嬉しいです。

2つ目は、「誠実であること」です。
私は、先程も申し上げたように40年以上、研究室の学生の皆さんと一緒に研究に取り組んできました。5年前からはそれとは全く異なる学長としての仕事にも取り組んでいます。仕事上色々困難な局面で対応しなければならないことや、決断しなければならないことが多々あるのですが、その際、いつも心に決めているのは、どんなことに対しても「学生ファースト」で「誠実」に取り組もうということです。「誠実でなければ、人を動かすことはできない。人を感動させるには、自分が心の底から感動しなければならない。自分が涙を流さなければ、人の涙を誘うことはできない。自分が信じなければ、人を信じさせることはできない」これは、ウイルソンチャーチルの名言です。孔子は「自分自身に対する誠実さと他人に対する優しさ、すべてはこの二つに包括される」と言っています。また経営の神様と呼ばれた松下幸之助は、なにごとも「誠実に謙虚に、そして熱心にやることである」と言っています。私はこれまで数多くの卒業生の皆さんの結婚式でスピーチをさせていただく機会がありましたが、その折りには必ず「誠実であること」の大切さを共有し続けてきました。本日のこの場でも皆さんと共有することができ、大変嬉しく思っています。

最後3つ目は、「出会いを大切にすること」で、この学位記授与式の式辞で毎年申し上げていることです。どんなに優れた人でも、一人では生きていくことはできません。色々な人の助けを借りて人は生きていくことができる。これまで皆さんは、多くの人と出会い、今日まで成長してこられました。私は時々学生の皆さんや職員の方々と、美味しいお茶とお菓子でお茶会をするのですが、あの千利休は「小さな出会いを大切に育てていくことで、人生の中での大きな出会いになることもある」と言っています。これまでの出会いに感謝し大切に育てることで、きっとこれからも新しい縁を繋ぐことができます。私は教員生活の中で、研究においても日常生活においても「縁」というものの大切さを実感し続けてきました。大学や大学院時代の出会いは人生の中でも一生の付き合いとなることが多いです。一つ一つの出会いに感謝し、ここで出会った多くの教員、職員、先輩、後輩、友人との縁を今後も大切にし、人生をより豊かなものにしていただきたいと願っています。皆さんの今後の活躍を期待しています。

同窓会組織として2年前から大阪公立大学校友会がスタートしました。皆さんの先輩は、すでに大阪府立大学、大阪市立大学を合わせて20万人以上にもなり、社会の各方面で活躍されています。皆さんもこのコミュニティーの一員として世界に羽ばたいていただければと思います。

最後になりますが、皆さんが本日学位記を手にされたのは、お一人お一人の努力の賜であることは言うまでもありませんが、皆さんを支えて下さった周囲の方々のご支援があってのことと思います。今日の良き日にあたり、そのような方々に、ぜひ感謝の気持ちを言葉で伝えていただきたいと思います。

また、地球上では今も残念ながら悲惨な戦争が続いています。この良き日が迎えられたことを当たり前のこととせず、平和に対する感謝の気持ちを持ち続けていただきたいと願っています。

これからの皆さんのご活躍を祈念し、今日から始まる、新しい人生に幸多かれと心から願って、私からのお祝いの言葉とさせていただきます。