最新の研究成果

今までの定説を覆す!!近赤外吸収色素が持つ特殊な電子構造を発見―長波長の近赤外光を吸収可能な色素開発へ―

2023年2月7日

  • プレスリリース
  • 工学研究科

ポイント

◇これまで閉殻構造1だと考えられていた近赤外吸収色素が、閉殻と開殻2の中間状態であることを発見。
◇色素の開殻状態と閉殻状態の割合が、吸収できる近赤外光3の波長の長さと相関があることを明らかに。

概要

大阪公立大学大学院 工学研究科の岡 大志大学院生(博士後期課程1年)、前田 壮志准教授、鈴木 直弥助教、八木 繁幸教授と理学研究科の藤原 秀紀教授、酒巻 大輔助教、産業技術総合研究所 材料・化学領域 ナノ材料研究部門の鎌田 賢司上級主任研究員、小西 龍生氏(当時 関西学院大学連携大学院生)らの共同研究グループは、これまで閉殻分子とみられていた近赤外吸収色素が、閉殻と開殻の中間的な電子構造を持つことを発見しました。また、色素内で開殻構造の割合が増加すると、吸収できる近赤外光の波長が長くなることを明らかにしました。

スマートフォンカメラの赤外線カットフィルターやセキュリティーインクには、目に見えない近赤外光を効率よく吸収するために近赤外吸収色素が使用されています。これまで、化学的な安定性の観点から閉殻構造を持つ色素の開発が行われてきましたが、吸収できる近赤外光の波長が短いため、より長波長の近赤外光を吸収できる色素が必要でした。
本研究で発見した近赤外吸収色素の新たな特性を活かして、長波長の近赤外光を吸収可能な、新しい近赤外吸収色素の開発が期待されます。

figure閉殻と開殻の中間状態にある近赤外吸収色素の
構造、物性、電子構造の概略図

本研究成果は、英国王立化学会が刊行する国際学術誌「Chemical Science」のオンライン速報版に、2023年1月16日に掲載されました。

これまで知られていなかった近赤外吸収色素の電子構造を解き明かしました。
これを契機に分子設計・物性・機能・応用に関する近赤外吸収色素の化学が進展し、社会実装可能な近赤外吸収有機材料の開発に繋がることを期待しています。

maeda teacher前田 壮志准教授

 

掲載誌情報

【発表雑誌】Chemical Science(IF=9.825)
【論文名】Unveiling a new aspect of oxocarbons: open-shell character of 4- and 5-membered oxocarbon derivatives showing near-infrared absorption
【著者】Takeshi Maeda, Taishi Oka, Daisuke Sakamaki, Hideki Fujiwara, Naoya Suzuki, Shigeyuki Yagi, Tatsuki Konishi and Kenji Kamada
【掲載URL】https://doi.org/10.1039/D2SC06612B

資金情報

本研究は科研費基盤研究C「開殻性を帯びた近赤外有機材料の新機軸設計指針の確立と機能開拓」(課題番号:21K05215前田壮志、科研費基盤研究B「開殻性を持つ分子からなる高効率一重項分裂系の量子設計」(課題番号:21H01887、鎌田賢司)、ENEOS東燃ゼネラル研究奨励・奨学会、双葉電子記念財団などの支援の下で実施されました。

用語解説

※1 閉殻構造…2つの電子が互いに強く相互作用して、一対として一つの分子軌道に割り当てられている電子配置。一般的な有機物がもつ電子配置。
※2 開殻構造…電子がペアになるように分子軌道に割り当てられていない電子配置。不対電子がある。
※3 近赤外光…可視光に隣接した波長領域の赤外線。国際照明委員会(CIE)が定義したIR-Aの波長範囲780 ~ 1400 nmの赤外線を示す場合が多いが、波長範囲780 ~ 2000 nmの赤外放射とする場合もある。

研究内容に関する問い合わせ先

大阪公立大学大学院 工学研究科
准教授 前田 壮志(まえだ たけし)
TEL:072-254-9329
E-mail:tmaeda[at]omu.ac.jp

大阪公立大学大学院 理学研究科
教授 藤原 秀紀(ふじわら ひでき)
TEL:072-254-9818
E-mail:hfuji[at]omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。

報道に関する問い合わせ先

大阪公立大学 広報課
担当:竹内
TEL:06-6605-3411
E-mail:koho-list[at]ml.omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。

該当するSDGs

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