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ジンベエザメだけに起きた視覚の進化 ~深海生活への適応か?~

2023年3月23日

  • プレスリリース
  • 理学研究科

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概要

動物は、生息環境中の光を活用するしくみをもっています。なかでも、深海や地中など微弱な光環境で暮らす生物種は、その限られた光を活用する特別なしくみを備えています。最大の魚類であるジンベエザメは、海水面近くで摂餌をする一方で、光の届きにくい深海にも潜ることが知られています。

今回、情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所の工樂樹洋教授(理化学研究所 チームリーダー)、大阪公立大学の小柳光正教授が率いる研究チームは、ジンベエザメが光を活用するしくみの解明に挑みました。

本研究チームは、眼の網膜にある光受容タンパク質(オプシン(1))のうち、微弱光下での視覚をつかさどるロドプシンについて、DNA情報と吸収する光の波長を測る分光測定を組み合わせることで、ジンベエザメと他のサメ類を比較しました。その結果、ジンベエザメのロドプシンは、従来の常識を覆すアミノ酸置換によって、深海の中で最も届きやすい青色の光を効率的に受け取ることができることを明らかにしました。また、ジンベエザメのロドプシンは熱に弱く、低温となる深海での機能に適していることもわかりました。

本結果から、ジンベエザメの視覚は、水温が低下した深海において、微弱な光を活用できるような進化を遂げたことが示唆されます。この進化の引き金になったアミノ酸置換部位はヒトの夜盲症(2)の原因となる置換部位でもあり、ジンベエザメの海水面付近から水深2000メートル付近の深海まで潜水するというその独特のライフスタイルの表れともいえるかもしれません。

さらに、本研究は、様々な生物のくらしをその生体を犠牲にすることなく解き明かすために、DNAの情報を活用したタンパク質の人工合成技術が有用であることも示しました。

本研究成果は、米国科学雑誌「Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America (PNAS)」に 2023 年3月22日午前1時(日本時間)に短報論文として 掲載されました。

用語解説

(1) オプシン:視覚に代表される動物の光受容における光受容タンパク質遺伝子およびそれがコードするタンパク質の総称。脊椎動物の視覚においては、桿体(かんたい)視細胞で機能する桿体オプシン(ロドプシン)と錐体(すいたい)視細胞で機能する錐体オプシンが、それぞれ薄明視および昼間視を支えている。多くの動物は、波長(色)感受性の異なる複数の錐体オプシンをもち、それらを用いて色の違いを見分けること(色覚)が可能となる。

(2)夜盲症:ロドプシンの突然変異など、網膜の桿体視細胞に異常があるため暗順応が障害され、暗いところや夜に見えにくくなるヒトの疾患。

研究体制と支援

本研究は、情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所 ゲノム・進化研究系 分子生命史研究室 教授(理化学研究所 生命機能科学研究センター 分子配列比較解析チーム チームリーダー) 工樂樹洋(くらくしげひろ)、大阪公立大学 大学院理学研究科 生物学専攻 分子生理学研究室教授 小柳 光正(こやなぎ みつまさ)、同教授 寺北 明久(てらきた あきひさ)、一般財団法人 沖縄美ら島財団 総合研究センター 上席研究員 佐藤圭一(さとう けいいち)の研究グループにより遂行されました。
本研究は、科研費補助金(18H02482, 21H00435)の支援を受けて行われました。

掲載紙情報

発表雑誌: Proceedings of the National Academy of Sciences (PNAS)
論 文 名: Whale shark rhodopsin adapted to deep sea lifestyle by a substitution associated with human disease (ヒトの疾患に関連したアミノ酸置換によって深海生活に適応したジンベエザメのロドプシン)
著     者: Kazuaki Yamaguchi, Mitsumasa Koyanagi, Keiichi Sato, Akihisa Terakita, Shigehiro Kuraku
掲載URL: https://doi.org/10.1073/pnas.2220728120 



プレスリリース全文 (4.1MB)

研究内容に関する問い合わせ先

大阪公立大学 大学院理学研究科 
教授 小柳 光正 (こやなぎ みつまさ)
E-mail: koyanagi[at]omu.ac.jp
[at]を@に変更してください

報道に関する問い合わせ先

大阪公立大学 広報課
TEL:06-6605-3411
E-mail:koho-list[at]ml.omu.ac.jp [at]を@に変更してください

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