最新の研究成果

膜を傷つけず細胞内に薬を届ける新技術! ~インクジェットプリンター技術の活用でがん細胞に直接アプローチ~

2023年10月5日

  • プレスリリース
  • 理学研究科

ポイント

◇インクジェットプリンター技術と膜透過性ペプチドの組み合わせで、細胞膜に穴を開けることなく超微量薬物を導入
◇通常では細胞膜を通過しない巨大分子抗体を、高効率に細胞内に取り込むことに成功
◇これまで技術的に困難であった細胞内分子を標的とした高分子薬の幅広い応用が期待

概要

大阪公立大学大学院理学研究科の大村 美香大学院生(博士前期課程2年)、中瀬 生彦教授と、京都大学化学研究所の二木 史朗教授、武庫川女子大学薬学部の中瀬 朋夏教授らの研究グループは、がん細胞膜に穴を開けることなく超微量薬物を細胞内に導入することを可能にしました。その結果、がん細胞に対して細胞死を誘導するペプチドを細胞内へ高効率に取り込み、がん細胞死を生じさせることに成功しました。インクジェットプリンターの精密な液滴制御技術と、細胞膜通過を助ける膜透過性ペプチドとの組み合わせが成功の鍵となりました。さらに、分子量約15万の巨大分子である抗体でも、狙ったがん細胞群の細胞膜を通過させ、細胞内へ導入することができました。

本技術は細胞膜損傷が無く、熟練した技術も不要で、簡便かつ高効率に目的薬物を細胞内に届けることができます。またインクジェットシステムは、1滴がピコリットル(1兆分の1リットル)レベルで制御できるため超微量での吐出を可能にし、高価な薬物の使用量低減にもつながります。

本研究成果は、2023年10月5日(木)に、米国化学会「ACS Applied Materials & Interfaces」にオンライン掲載されました。

インクジェットプリンターは、写真等を精細に綺麗にプリントすることができます。その技術を薬物送達に使えたら、画期的な技術になるとひらめき、研究を推進しました。本手法は、これまで困難だった細胞内部の病気に関わる生体分子を、標的・検出・制御できる波及効果の高い技術となり得ることが期待されます。基礎研究・医療分野で貢献できる技術として、さらにブラッシュアップできるように、一層研究に励みたいと思います。

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(左)中瀬教授(右)大村大学院生

資金情報

本研究の一部は、科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業(CREST)「細胞外微粒子に起因する生命現象の解明とその制御に向けた基盤技術の創出」(JPMJCR18H5)、京都大学化学研究所 国際共同利用・共同研究拠点(2022-85)、内藤記念科学振興財団、武田科学振興財団の支援のもとで行われた。

掲載誌情報

【発表雑誌】ACS Applied Materials & Interfaces
【論文名】Inkjet-based intracellular delivery system that effectively utilizes cell-penetrating peptides for cytosolic introduction of biomacromolecules through the cell membrane
【著者】Mika Omura, Kenta Morimoto, Yurina Araki, Hisaaki Hirose, Yoshimasa Kawaguchi, Yukiya Kitayama, Yuto Goto, Atsushi Harada, Ikuo Fujii, Tomoka Takatani-Nakase, Shiroh Futaki, Ikuhiko Nakase
(大村美香、森本健太、荒木優里奈、廣瀨久昭、川口祥正、北山雄己哉、後藤佑斗、原田敦史、藤井郁雄、中瀬朋夏、二木史朗、中瀬生彦)
【掲載URL】https://doi.org/10.1021/acsami.3c01650

研究内容に関する問い合わせ先

大阪公立大学大学院 理学研究科
教授:中瀬 生彦(なかせ いくひこ)
TEL:072-254-9895
E-mail:i-nakase[at]omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。

報道に関する問い合わせ先

大阪公立大学 広報課
担当:國田(くにだ)
TEL:06-6605-3411
E-mail:koho-list[at]ml.omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。

該当するSDGs

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