最新の研究成果

有害物質から有用分子へ! 毒性が懸念されるPFASをフッ素修飾NHCに変える新技術

2023年11月14日

  • 理学研究科
  • プレスリリース

ポイント

◇高い難分解性により自然環境での拡散や生体内での蓄積が問題視されているパーフルオロアルキル化合物(PFAS)1の一種「パーフルオロアルケン2」から、不安定分子の安定化や分子変換触媒の活性向上に有用な「フッ素修飾含窒素ヘテロ環カルベン」を簡便に合成。
◇NHC※3の立体環境の変化を最小限に抑え、電子受容性を強めることに成功。
◇遷移金属錯体の立体的・電子的な設計に新たな指針。

概要

大阪公立大学大学院理学研究科の大橋 理人教授、道上 健一助教と、大阪大学大学院工学研究科の生越 専介教授らの共同研究グループは、多数のフッ素原子を持つ電子受容性の強い含窒素ヘテロ環カルベン(NHC)をパーフルオロアルケンから合成する手法を開発しました。

本研究成果は、近年存在が問題視されているパーフルオロアルキル化合物を有用分子に変換する技術を提供するのみならず、NHCおよびそれを配位子とする遷移金属錯体の電子的・立体的な設計に新たな指針をもたらすことが期待されます。さらに、NHCの母体環構造のさらなる構造修飾が可能になれば、より精密な電子状態のチューニングが実現すると考えられます。

本研究成果は2023年9月26日、米国化学会誌「Journal of the American Chemical Society」にオンライン掲載されました。

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本研究の概要図



本研究成果は、有害なPFASを消費して機能性のNHCに早変わりさせます。さらに、フッ素化学、有機金属化学、触媒反応化学、および材料化学といった多様な分野に新展開をもたらし得るため、含フッ素NHCのマルチな活躍が期待されます。

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道上 健一助教

 

用語解説

※1 パーフルオロアルキル化合物(PFAS):1つ以上の完全にフッ素化されたメチル又はメチレン基を含むフッ素化物質(perfluoroalkyl substances, PFAS)の総称(2021年OECD定義)。PFASは撥水性、撥油性、高い化学的安定性、耐熱性を示す反面、非常に高い難分解性をもつことから「永遠の化学物質」と呼ばれており、自然環境での拡散や生体内での蓄積が問題視されている。

※2 パーフルオロアルケン:二重結合を含む炭化水素の水素原子がすべてフッ素に置き換わった化合物の総称。そのひとつ「パーフルオロイソブテン」は吸入すると致命的な肺水腫を引き起こす恐れがあるなど、パーフルオロアルケンは人体や生物への毒性が問題となっている。

※3 含窒素ヘテロ環カルベン(NHC):電子を6個しか持たない2価の炭素種「カルベン」が窒素と結合した構造を含む環状化合物のこと。

掲載誌情報

【発表雑誌】Journal of the American Chemical Society
【論 文 名】N-Heterocyclic Carbenes with Polyfluorinated Groups at the 4- and 5-Positions from [3 + 2] Cycloadditions between Formamidinates and cis-1,2-Difluoroalkene Derivatives
【著  者】Masato Ohashi, Kota Ando, Shoichi Murakami, Kenichi Michigami, Sensuke Ogoshi
【掲載URL】https://pubs.acs.org/doi/full/10.1021/jacs.3c06331

プレスリリース全文 (709.8KB)

資金情報

本研究は、科学研究費助成金 基盤研究(B)(課題番号16KT0057)、基盤研究(B)(課題番号17H03057)、基盤研究(B)(課題番号23H01964)、若手研究(課題番号21K14632)、卓越研究員事業の支援の下で実施されました。

研究内容に関する問い合わせ先

大阪公立大学大学院 理学研究科
助教:道上 健一(みちがみ けんいち)
TEL:072-252-6201
E-mail:kn1michigami[at]omu.ac.jp

※[at]を@に変更してください。

報道に関する問い合わせ先

広報課
TEL:06-6605-3411
E-mail:koho-list[at]ml.omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。

該当するSDGs

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