最新の研究成果

生体組織中の脂肪酸分布の特徴を無標識で可視化する手法を開発 ~脂肪酸の特徴量分布から正常組織、病変組織の特定が可能に~

2023年12月22日

  • 医学研究科
  • プレスリリース

研究の要旨とポイント

◇機械学習を組み入れた近赤外ハイパースペクトルイメージング(NIR-HSI)を活用し、生体組織中の脂肪酸の炭化水素鎖長・飽和度という分子の特徴量の分布を可視化することに成功しました。
◇この手法を用いて、肝臓がんマウスの正常部と腫瘍部に含まれる脂肪酸の鎖長や飽和度の分布様態、腫瘍部にリノール酸が多く蓄積されていることを見出しました。
◇本研究をさらに発展させることで、脂質代謝異常に関係する疾患の早期発見、治療、予防、代謝に関わる病態生理学研究の発展に貢献することが期待されます。

概要

東京理科大学先進工学部機能デザイン工学科の曽我公平教授、梅澤雅和准教授、上村真生准教授、大阪公立大学大学院医学研究科分子生体医学講座病態生理学の大谷直子教授らの研究グループは、近赤外ハイパースペクトルイメージング(NIR-HSI)と機械学習を組み合わせた非侵襲・非標識の新たな手法を開発し、生体組織に蓄積された脂肪酸の炭化水素鎖長・飽和度などの分子特徴量を可視化することに成功しました。

肝臓は人体最大の臓器で、代謝、エネルギー貯蔵、解毒作用、胆汁の生成など、人間が健康的に生きるために必要な多くの機能が備わった臓器ですが、肝炎ウイルス、薬物、アルコールなどが原因で肝機能障害を引き起こすことが知られています。一方で近年の研究では、非アルコール性脂肪性肝疾患の原因の1つとして過剰な脂質の蓄積が挙げられるなど、脂質と肝疾患の関連性が指摘されています。そのため、肝臓に蓄積された脂質分布を非侵襲・非標識でより詳細に測定できる手法が模索されてきました。そこで、本研究グループは過去に報告した総脂質含有量に加え、脂肪酸の炭化水素鎖長、飽和度などの脂質の分子情報を可視化する方法の確立を目的として研究を進めてきました。

本研究では、脂肪量を調整した食餌をマウスに与えた後、肝臓の摘出、脂質の抽出、NIR-HSIによる分析を行いました。脂肪酸の炭化水素鎖長と飽和度という特徴量を軸として、サポートベクター回帰(SVR)を用いて解析することにより、総脂質濃度だけでなく、脂肪酸の炭化水素鎖長と飽和度という分子特徴量の描出に成功しました。

メタボリックシンドロームという言葉に代表されるように、近年の人々のライフスタイルの変化により、代謝に関連する疾病の治療法や予防法の確立がますます重要になってきています。本研究で示した手法をさらに発展させることで、脂質が病態進行に関係するとされている非アルコール性脂肪性肝疾患、脂肪性肝炎、肝硬変や肝細胞がんなどのリスクを推定できる可能性があります。また、それらの病態生理学的状態の解明につながることが期待されます。

本研究成果は、2023年11月23日に国際学術誌「Scientific Reports」にオンライン掲載されました。

 


本研究は、近赤外スペクトルイメージングがご専門の東京理科大学・先進工学部マテリアル創成工学科の曽我公平教授の研究室との共同研究で実施いたしました。当方らの作製した肝がんモデルマウスの肝臓を用いて、近赤外スペクトルカメラで撮像した近赤外スペクトルデータと実際の肝臓に含まれる脂質の測定結果から、機械学習の手法により、非侵襲的に各肝臓組織における脂質含有量、炭化水素鎖長、脂質飽和度のイメージングを、可能にした画期的な研究です。将来、肝がんの早期発見や組織微小環境の性質判定つながるものと期待しております。

press_0306_fujii02

大谷直子教授

TUSCE_306_Infographic_JPN_FINAL

論文情報

【発表雑誌】Scientific Reports
【論 文 名】Visualization of hydrocarbon chain length and degree of saturation of fatty acids in mouse livers by combining near-infrared hyperspectral imaging and machine learning
【著 者】Akino Mori, Masakazu Umezawa, Kyohei Okubo, Tomonori Kamiya, Masao Kamimura, Naoko Ohtani & Kohei Soga
【DOI】10.1038/s41598-023-47565-z

プレスリリース全文 (500.3KB)

研究内容に関する問い合わせ先

大阪公立大学 大学院医学研究科 分子生体医学講座 病態生理学 教授
大谷 直子(おおたに なおこ)
E-mail:naoko.ohtani[at]omu.ac.jp 
[at]を@に変更してください

報道に関する問い合わせ先

広報課
TEL:06-6605-3411
E-mail:koho-list[at]ml.omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。

該当するSDGs

  • SDGs03
  • SDGs04