最新の研究成果
病気に強くても老けやすい? 植物の葉の老化を促す新因子を発見
2025年5月30日
- 理学研究科
- 農学研究科
- プレスリリース
概要
植物の細胞骨格を構成する重要な構造の一種であるアクチン繊維※1は、細胞形状の維持や細胞分裂の制御など、さまざまな細胞活動に関わっており、アクチン脱重合因子(ADF※2)と呼ばれるタンパク質によって、構造や運動を制御されています。
大阪公立大学大学院農学研究科の松本 朋子大学院生(博士後期課程3年)、稲田 のりこ教授、大学院理学研究科の小林 康一教授の研究グループはこれまでの研究で、ADF遺伝子が欠損したシロイヌナズナでは、植物の葉や茎に白い粉状のカビが発生する病気で、大麦や小麦、ブドウによく感染することが知られている“うどんこ病”への抵抗力が高まることを明らかにしていました。本研究では、これらのADF遺伝子が欠損したシロイヌナズナ(ADF欠損変異体)の葉では、遺伝子変異がないシロイヌナズナ(野生型)の葉よりも早く黄化することに着目(図1)。ADF欠損変異体と野生型で葉の老化具合にどの程度差があるのかを、葉に含まれるクロロフィル※3量や遺伝子発現などから分析しました。その結果、ADF欠損変異体では、野生型よりも早くクロロフィル量が低下し始め、葉の老化に伴って上昇する遺伝子の発現量が、野生型よりも早く上昇することが分かりました。この結果は、ADFが葉の老化を制御する新たな因子であることを示しており、ADFがもつ機能を解明することで、作物の収量や農業の持続可能性向上にも繋がることが期待されます。
本研究成果は、2025年5月30日(金)に国際学術誌「Plant & Cell Physiology」のオンライン速報版に掲載されました。
図1 播種後49日間育てた野生型のシロイヌナズナとADF欠損変異体の葉を並べた写真。
左が最も古い葉で、右が最も若い葉。野生型の葉では全ての葉が緑色をしているが、ADF欠損変異体では左の古い葉はすでに枯死しており、それ以降の葉も黄化が進んでいる。枯死、黄化部分を白矢印で示す。
植物の老化は作物の収量に関わる重要なテーマです。本研究では、細胞骨格タンパク質が葉の老化を制御することを明らかにしました。先生方と議論を重ねる中で、自身の発見が形になっていく過程に大きな達成感がありました。今後も基礎研究を通じて植物生理機構の理解を深め、持続可能な農業への貢献を目指します。

松本 朋子大学院生
掲載誌情報
【発表雑誌】Plant & Cell Physiology
【論文名】Arabidopsis thaliana ACTIN DEPOLYMERIZING FACTORs play a role in leaf senescence regulation
【著者】Tomoko Matsumoto, Koichi Kobayashi, Noriko Inada
【掲載URL】https://doi.org/10.1093/pcp/pcaf027
資金情報
本研究の一部は、公益財団法人大隅基礎科学創成財団(第7期研究助成・一般)、NOVARTIS、山田科学財団、笹川科学研究助成、JST SPRING(JPMJSP2139)、およびJSPS科研費(24K09518、22H05076)の助成を受けて実施されました。
用語解説
※1 アクチン繊維…真核生物の細胞内部に形成される、細胞骨格と呼ばれる繊維状構造。細胞内の物質の輸送や、細胞の形の維持などに働く。
※2 Actin Depolymerizing Factors(ADF)…アクチン繊維の構造制御に働くタンパク質。
※3 クロロフィル…植物に含まれる緑色の色素で、光合成に必要な光を集める働きをする。
研究内容に関する問い合わせ先
大阪公立大学大学院農学研究科
教授 稲田 のりこ(いなだ のりこ)
TEL:072-254-9463
E-mail:norikoinada[at]omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。
報道に関する問い合わせ先
大阪公立大学 広報課
担当:竹内
TEL:06-6967-1834
E-mail:koho-list[at]ml.omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。
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