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バイオ医薬品生産の宿主・大腸菌の力を活性化! グリセリンの活用で“インスリン製剤の素”の生産効率が向上

2025年5月29日

  • 工学研究科
  • プレスリリース

背景

大腸菌は、インスリン製剤などの第1世代バイオ医薬品の生産宿主として、1980年代から工業生産に用いられています。増殖速度が速く生産コストが低い点が特徴で、現在でも全バイオ医薬品の約30%が、大腸菌によって製造されています。
インスリンの前駆体であるプロインスリン※の生産には、組み換えた遺伝子の発現を促す「誘導剤」が必要ですが、一般的に使用されるグルコース培地では、誘導剤の働きが阻害されるため、より多くの誘導剤が必要です。一方、グリセリンを用いた培地では、誘導剤の効果が維持されるためプロインスリンの生産量は増加しますが、培養した細胞の増殖が低下するという課題がありました。誘導剤は高価なため、その使用量を抑えつつ、効率的にプロインスリンを生産できる培地条件の確立が求められています。

概要

大阪公立大学大学院工学研究科の尾島 由紘准教授、東 雅之教授、齋藤 肇氏(当時 博士前期課程2年)と阪本薬品工業株式会社の共同研究グループは、培養培地がプロインスリン生産量と大腸菌の増殖量、培養時間に与える影響を検討しました。3種類の培地(グルコース、グリセリン、グルコースとグリセリンを1:1で混合)を用いて比較したところ、グリセリン、グルコース+グリセリン混合では、グルコースに比べてプロインスリン生産量が約3~4倍に増加しました(図1右)。また、グルコース+グリセリン混合では、グリセリンよりも細胞の培養時間が約5時間短縮され、培養効率も改善されることが分かりました(図1左)。グリセリンはバイオディーゼル燃料の製造過程で副産物として多量に生成され供給が増加しています。多岐にわたる用途の拡大、持続可能性への取り組みからグリセリン市場の成長は続くと予測されていますが、その中でもより付加価値の高いバイオ医薬品製造の原料として有効活用されることが期待されます。

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図1 グルコースやグリセリンを用いて培養した際の大腸菌の増殖(左図)と培養液当りのプロインスリン相対生産量。

本研究成果は、2025年5月16日に国際学術誌「Biotechnology Reports」のオンライン速報版に掲載されました。

掲載誌情報

【発表雑誌】Biotechnology Reports
【論文名】Induction conditions that promote the effect of glycerol on recombinant protein production in Escherichia coli
【著者】Yoshihiro Ojima, Hajime Saito, Shintaro Miyuki, Koichi Fukunaga, Terumichi Tsuboi, Masayuki Azuma
【掲載URL】https://doi.org/10.1016/j.btre.2025.e00898

用語解説

※ プロインスリン…インスリンの前駆体であり、酵素によって分解されインスリンが作られる。

研究内容に関する問い合わせ先

大阪公立大学大学院工学研究科
准教授 尾島 由紘(おじま よしひろ)
TEL:06-6605-2163
E-mail:ojima[at]omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。

報道に関する問い合わせ先

大阪公立大学 広報課
担当:竹内
TEL:06-6967-1834
E-mail:koho-list[at]ml.omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。

該当するSDGs

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