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薬物包接効率を左右する溶媒の性質を解明 ~MOFを用いたDDS開発への一歩~

2025年6月9日

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概要

薬を体内の目的の場所まで届ける薬物送達システム(DDS)では、ナノ粒子、リポソーム、抗体など、さまざまなタイプの運搬体が用いられています。しかし、これらの運搬体には、薬物の封入率や安定性が十分でないといった課題があります。そこで近年、新たな運搬体の候補として金属有機構造体(MOF)が注目されています。MOFは無数の微細な孔(あな)をもつ結晶構造をしており、これらの孔に薬物を取り込むことで、高い封入率と安定性を兼ね備えた運搬体として期待されています。

MOFの性能を評価する上で、どれだけ薬物を取り込めるかを示す「包接量」が重要な指標となります。「液相吸着法」と呼ばれるMOFへの薬物包接手法では、MOF・薬物・溶媒の三者の相互作用が鍵を握りますが、これまでの先行研究では、この中の“溶媒”の影響が十分に検討されていませんでした。

大阪公立大学大学院工学研究科の大島 一輝大学院生(博士後期課程3年)、大崎 修司准教授らの研究グループは、「液相吸着法」における溶媒の影響を調べるために、2種類のMOF( ZIF-8、UiO-66-NH2)への包接量を、さまざまな溶媒で比較しました。その結果、ZIF-8では溶媒の性質のひとつである「双極子モーメント(電気的な偏り)」が大きいほど薬物の取り込み量が増加し、UiO-66-NH2では双極子モーメントが大きいほど取り込み量が減少することが分かりました。

このような違いが起こる原因を調べるため、株式会社堀場製作所の分析・サービス事業を担う株式会社堀場テクノサービスと連携し、ラマン分光法によるMOF、薬物への溶媒の影響の測定を行いました。その結果、溶媒によってMOFの「分子の振動」にも違いが生じることが確認され、分子の振動が小さくなると、MOFが薬をより多く取り込める傾向があることも分かりました。

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本成果は、溶媒の違いがMOFの動きや薬の取り込み量に大きく影響すること、またMOFを運搬体として使用する場合は溶媒の性質が非常に重要であることを示しており、MOF運搬体を実用化するための重要な一歩であるといえます。

本研究成果は、2025年3月18日に国際学術誌「Langmuir」のオンライン速報版に掲載されました。

掲載誌情報

【発表雑誌】Langmuir
【論文名】Influence of Solvents on Drug Loading Capacity of Metal–Organic Frameworks Focusing on Solvent Dipole Moment
【著者】Kazuki Ohshima, Keisuke Mizomichi, Shuji Ohsaki*, Hideya Nakamura, Satoru Watano
【掲載URL】https://doi.org/10.1021/acs.langmuir.4c04896

資金情報

本研究は、JSPS科研費 特別研究員奨励費(JP23KJ1849)、公益財団法人 ホソカワ粉体工学振興財団 令和4年度 研究者育成のための援助(PTF22504)、2024年度戦略的研究 STEP-UP研究支援からの助成を受けて実施しました。

用語解説

※ DDS…空間的・時間的制御を行い、必要な量の薬物を適切な時間で疾患部位に輸送する技術のこと。

研究内容に関する問い合わせ先

大阪公立大学大学院工学研究科
准教授 大崎 修司(おおさき しゅうじ)
TEL:072-254-9578
E-mail:shuji.ohsaki[at]omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。

報道に関する問い合わせ先

大阪公立大学 広報課
担当:竹内
TEL:06-6967-1834
E-mail:koho-list[at]ml.omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。

該当するSDGs

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