最新の研究成果

脳機能を正常に保つメカニズムの一端を解明-興奮と抑制のバランスが神経細胞活動に及ぼす影響を数理モデルで解析-

2025年6月10日

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ポイント

◇神経細胞の活動を解明するために数理モデル「EI-Kuramotoモデル※1」を開発。
◇「EI-Kuramotoモデル」を用いてシミュレーションを行った結果、興奮と抑制の相互作用の強さのバランスが振動子※2集団の状態の決定において重要であることが示された。

概要

脳の神経細胞は、自律的に振動しながら活動しており、同期状態(寝ているときなど)と非同期状態(集中しているときなど)を使い分けることで、さまざまな脳機能を実現しています。状態の変化には、神経ネットワークにおけるシナプスの興奮性入力(Excitation)と抑制性入力(Inhibition)のバランス、いわゆるEI バランスが関与していることが知られています。また、EIバランスの乱れは自閉症スペクトラムなど、多くの精神神経疾患で観察されています。しかし、EIバランスが神経細胞集団の活動にどのような影響を及ぼすのかについては、まだ十分に解明されていません。

そこで、大阪公立大学大学院医学研究科神経生理学の黒木 暁助教、水関 健司教授らの研究グループは、振動子の集団を興奮性と抑制性の2つのグループに分け、それぞれのグループ内およびグループ間で働く4種類の相互作用の強さを定義した新たな数理モデル「EI-Kuramotoモデル」を開発しました。このモデルを用いて振動子集団の活動を解析した結果、集団全体の状態が、これらの力のバランスによって同期状態、非同期状態、そして同期と非同期を交互に繰り返す双安定状態の3つに分類されることが明らかになりました。この成果は、脳の神経細胞が集団で活動する際の同期現象が、EIバランスによってどのように制御されているのかという基本的な仕組みを理解するための手がかりとなることが期待されます。

本研究成果は、5月 23日(金)に国際学術誌「Neural Computation」にオンライン掲載されました。

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図:同期状態(左)と非同期状態(右)のEI-Kuramoto モデルの例

EI バランスが神経細胞の活動にどのように影響するのか、その詳しいメカニズムは不明な点が多いです。本研究が、さまざまな脳機能の理解、さらには関連する病気のメカニズム解明に繋がることを願っています。

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黒木 暁助教

掲載誌情報

【発表雑誌】Neural Computation
【論文名】Excitation–inhibition balance controls synchronization in a simple model of coupled phase oscillators
【著者】Satoshi Kuroki, Kenji Mizuseki
【掲載URL】https://doi.org/10.1162/neco_a_01763

資金情報

本研究は、日本学術振興会(JSPS)科研費(24K18243, 23H02788)、武田科学振興財団の研究助成を受けたものです。

用語解説

※1 EI-Kuramotoモデル: 多くの振動子が集まったときに、お互いにどう影響しあい、全体としてどのように同期していくかを記述するための数理モデルであるKuramotoモデルに、EIバランス(神経細胞が受ける興奮性入力と抑制性入力とのバランス)の考え方を取り入れた数理モデル。

※2 振動子:振り子のように周期的に振動するもの。

研究内容に関する問い合わせ先

大阪公立大学大学院医学研究科 神経生理学
助教 黒木 暁(くろき さとし)
TEL:06-6645-3717
E-mail:skuroki[at]omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。

報道に関する問い合わせ先

大阪公立大学 広報課
担当:久保
TEL:06-6967-1834
E-mail:koho-list[at]ml.omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。

プレスリリース全文 (471.0KB)

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