最新の研究成果

従来困難だった磁性体の結晶対称性由来の磁区を識別する手法を開発 ─ 超低消費電力・高速動作素子を実現する スピントロ二クス材料の開発に拍車 ─

2025年11月14日

  • 工学研究科
  • プレスリリース

ポイント

◇高輝度放射光が生み出す円偏光を用いた共鳴非弾性X線散乱(RIXS)※1により、磁区※2を識別する新しい磁性体研究手法を開発しました。

◇第三の磁性体と呼ばれる交替磁性体※3テルル化マンガン(MnTe)において、磁区の空間分布を定量的に評価できることを示しました。

◇本手法は、従来の手法では識別できなかったスピントロニクス※4材料の結晶対称性に由来する磁区観測に広く適用されると期待されます。

概要

交替磁性体は全体としての磁化がゼロでありながら、スピンの分極した電子バンドを持つため、スピントロニクス材料として注目されています。交替磁性体の代表例であるMnTeにおいては従来技術では識別が難しい結晶構造の対称性に由来する磁区の存在が詳細な電子状態解明の障害となっていました。

東北大学学際科学フロンティア研究所の鈴木博人助教らの研究グループは、早稲田大学先進理工学部の武上大介博士研究員、大阪公立大学大学院工学研究科の播木敦准教授らとの共同研究により、円偏光を用いた共鳴非弾性X線散乱(RIXS)による新たな磁区識別法を開発しました。本研究では、右・左回り円偏光の散乱強度の差である円二色性(RIXS-CD)※5を高精度で検出することで、従来の手法では識別できなかった結晶対称性由来の磁区を区別することに成功しました。今回開発した手法は、スピントロニクス材料の物性解明に寄与することが期待されます。

この研究成果は、米国物理学会が発行する学術誌Physical Review Lettersに2025年11月6日付で掲載されました。また注目論文として、同学会のPhysics Magazine誌で紹介されました。

掲載誌情報

【発表雑誌】Physical Review Letters
【論 文 名】Circular Dichroism in Resonant Inelastic X-ray Scattering: Probing Altermagnetic Domains in MnTe
【著    者】D. Takegami, T. Aoyama, T. Okauchi, T. Yamaguchi, S. Tippireddy, S. Agrestini, M. Garcia-Fernandez, T. Mizokawa, K. Ohgushi, Ke-Jin Zhou, J. Chaloupka, J. Kunes, A. Hariki, and H. Suzuki

【掲載URL】https://doi.org/10.1103/512v-n5f9

用語解説

※1 共鳴非弾性X線散乱(RIXS):試料に含まれる化学元素の吸収端に合わせた軟X線を照射し、散乱されて出てくる光のエネルギーを調べる分光法のこと。RIXS はResonant Inelastic X-ray Scatteringの略称。

※2 磁区:物質の中で、イオンがもつ微小な磁石の単位(スピン)が一定のパターンで揃っている領域。

※3 交替磁性体:近年同定された新しいタイプの磁性体のこと。磁石の起源となる強磁性体(全体として磁化を持つ)や反強磁性体(磁化が相殺されゼロになる)とも異なる「第三の磁性体」として注目されている。交替磁性体では、磁化の総和がゼロであるにもかかわらず、強磁性体のような時間反転対称性の破れ(時間の流れの向きを逆向きにしたときに状態が変化する性質)に伴う応答が得られる。その結果、電子のバンド構造のスピン分裂や異常ホール効果が現れるなど、従来の反磁性体にはない性質を持つ。代表的な例としてMnTeの他にルチル型化合物であるフッ化マンガン(II)(MnF2)などが知られている。

※4 スピントロニクス:「スピン」と「エレクトロニクス」を組み合わせた言葉で、電子の持つ電荷とスピンの性質を利用して情報処理や記録を行う技術のこと。電子の電荷のみを利用する従来のエレクトロニクスと比べ消費電力が小さく、高速で動作する電子機器を実現できると期待されている。

※5 円二色性(Circular Dichroism: CD):右・左回り円偏光による吸収や散乱強度の差から、対称性の破れを検出する手法。X線吸収スペクトルの円二色性(X-ray magnetic circular dichroism: XMCD)は磁性体研究に広く用いられているが、今回はRIXSの円二色性を観測した。

報道に関する問い合わせ先

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