最新の研究成果
牛の健康状態を非接触で把握するAIシステムを開発~牛のストレス軽減と畜産現場の効率化に期待~
2026年3月3日
- 獣医学研究科
- プレスリリース
発表者
大阪公立大学大学院獣医学研究科 キム スー ウン助教
概要
本研究グループは、牛の健康状態を知るために重要なサインである『反芻※』を、サーモグラフィーカメラとAI(物体検出)を組み合わせることで、牛に触れることなく検出できるシステムを開発しました。本システムは、反芻直後に見られる『大きく深く息を吸う』という特有の呼吸パターンに着目し、この呼吸を検出することで反芻を判別します。
本研究成果は、2026年2月6日に国際学術誌「BMC Veterinary Research」にオンライン掲載されました。
ポイント
- 牛に触れずに反芻を検出できる“非接触AIシステム”を開発。
- 反芻直後にみられる特有の呼吸を約72%の精度で検出。

図1鼻の穴の抽出と、鼻の温度の変化をグラフにするまでの流れ。(A)AI が鼻の穴の場所を自動で見検出し、緑色の網掛けで示している。(B) 鼻の穴を抜き出す仕組み。AI が鼻の穴の形だけを白黒で切り抜き(左)、そこにサーモグラフィーの温度データを重ね合わせる(中央)。これにより、鼻の穴の部分だけの正確な温度データを取り出すことができる(右)。(C) 動画の各フレームを順番に処理することで、鼻の温度が時間とともにどう変わったかを示す連続したグラフを作成(横軸:時間、縦軸:温度)。
<研究者コメント>
赤外線カメラと AI を用いて取得した呼吸パターンに基づく『反芻直後の呼吸特性』の解析は、牛の健康状態やストレスを客観的に評価する手助けとなり、動物福祉の向上に貢献できると考えています。AI 技術によって研究の可能性が飛躍的に広がった今、動物の健康と豊かな社会の実現に寄与していきたいです。
キム スー ウン助教
研究の背景
反芻は、牛が病気になったりストレスを感じたりすると回数が減り、時には全く行われなくなることがあります。そのため、反芻の様子を観察することは、牛の健康状態を知る上でとても重要です。これまでは、鼻のセンサーや首輪のマイクで反芻を調べていましたが、これらの方法は牛に装置を直接取り付ける必要があるため、牛へのストレスや装置が故障するリスクが問題となっていました。そこで私たちは、牛に触れることなく、離れた場所からカメラで見守るだけで反芻をチェックできる新しい方法を考えました。
研究の内容
本研究では、赤外線を使って熱を測る「サーモグラフィーカメラ」と、AIを組み合わせたシステムを開発しました。まず、AIに牛の鼻の穴の形を学習させ、動画の中から鼻の穴だけを自動で見つけ出せるようにしました。鼻の穴の温度は、息を吸うときに下がり、吐くときに上がります。この温度の変化をグラフにすることで、牛がどのように呼吸しているかをリアルタイムで記録できます(図1)。
特に注目したのは反芻直後の呼吸です。牛は食べ物を戻す際に一時的に息を止めますが、その代償作用として、直後に無意識に大きく深く息を吸うという特徴があります。私たちはこれを『反芻後深吸気』と名付け、AIと赤外線カメラを用いた呼吸パターンの解析から、この特別な呼吸が検出可能かどうかを検証しました。実験の結果、反芻後深吸気は普通の呼吸に比べて明らかに深く息を吸っていることがデータで証明され、約72%の精度で反芻に関連する特別な呼吸を判別することに成功しました(図2)。これは、牛に一切触れることなく、カメラの映像だけで健康状態をチェックできる可能性を示した画期的な結果です。

図2 呼吸グラフから『反芻後深吸気」特定する方法。AI と赤外線カメラによって得られた呼吸グラフから、温度が最も低くなった地点(極小値)を探し出す。これは息を吸い終わって、吐き出し始める瞬間にあたる。グラフの中の黄色い部分は、反芻直後の3 秒間を示す。この黄色い範囲内で起きた呼吸(緑色の点)を『反芻後深吸気』、それ以外の範囲で起きた普通の呼吸(赤色の点)を『非反芻呼吸』として区別した。これらの呼吸の深さを比較したところ、統計的に明らかな差があることが確認された。
期待される効果・今後の展開
この技術が進歩すれば、畜産農家の人たちが一頭一頭にセンサーを付けなくても、牛舎に設置したカメラだけで全ての牛の健康を24時間見守ることができるようになります。今後は、さらにAIの精度を高めるとともに、鼻の温度だけでなく、目や口の周りの温度変化も一緒に分析することで、病気をより早く見つけ出せる牛に優しい見守りシステムの完成を目指します。
用語解説
※ 反芻:一度飲み込んだ食べ物を、もう一度口に戻して噛み直すこと。
掲載誌情報
【発表雑誌】 BMC Veterinary Research
【論文名】 Non-contact detection of post-regurgitation deep inhalation in calves using infrared thermography and deep learning-based nostril segmentation
【著者】 Sueun Kim, Norio Yamagishi, Shingo Ishikawa and Shinobu Tsuchiaka
【掲載URL】 https://doi.org/10.1186/s12917-026-05340-y
研究内容に関する問い合わせ先
大阪公立大学大学院獣医学研究科
助教 キム スー ウン
TEL:072-463-5150
E-mail:kim73[at]omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。
報道に関する問い合わせ先
大阪公立大学 広報課
担当:久保
TEL:06-6967-1834
E-mail:koho-list[at]ml.omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。
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