最新の研究成果

活動制限下での高強度トレーニングで見えた身体の反応 ~運動負荷を調整するタイミングの判断に役立つ可能性~

2026年3月4日

  • 国際基幹教育機構
  • プレスリリース

発表者

大阪公立大学 国際基幹教育機構 小笠原 佑衣特任助教

概要

コルチゾールはストレスが生じたときに分泌されるホルモンです。特に、起床直後に急激に上昇する起床時コルチゾール反応(CAR)は、唾液検体を用いて測定できるため、簡便に採取できる精度の高い指標として注目されています。

本研究グループは、若年男性2人を対象とした実験を通して、10日間の高強度運動を課したときのCARの変化を正確に評価する方法を検討しました。本実験結果により、長期間対象者を拘束し、条件を統制する手法の妥当性が示唆されました。

本研究成果は、2025年12月6日に生命科学分野を幅広く扱う国際学術誌「Life」にオンライン掲載されました。

ポイント

  1. 健康な若年男性2人が2日間、基準となるCARを測定した後、10日間の高強度自転車運動セッション(120分、最大酸素摂取量の80%に相当する強度)を実施。
  2. CARは、高強度自転車運動セッション初期(14日目)に上昇し、5日目以降に基準値付近に回復した。
  3. 測定時刻や食事、日中の活動などを統制した条件下において、継続的な高強度運動がCARに与える影響を調査する方法として、本実験手法が妥当である可能性が示された。

pr202502_oga02高強度自転車運動セッション

<研究者のコメント>

約2週間、実験の中で課す運動以外の要因を統制し続けることに苦労しましたが、それ故に貴重で興味深い結果が得られました。運動を実践する人、特にパフォーマンスの向上を目指す人にとって運動負荷を調整するタイミングは重要な課題です。本研究は、その判断を助ける指標の一つに着目し、その有用性について検討しました。

pr202502_oga01s小笠原特任助教

研究の背景

運動は、適切な負荷設定と十分な回復があればパフォーマンスが向上しますが、過度な負荷と不十分な回復が続くとパフォーマンスが低下する危険性があります。この状態をオーバートレーニングと呼び、これを早期発見、あるいは予防しながら運動し、効率的にパフォーマンスの向上を目指すためにも、運動に対する身体の適応過程をモニタリングできる指標が求められています。

コルチゾールはストレスが生じたときに分泌されるホルモンで、実施した運動の強度や時間、トレーニング量に比例して増加します。特に起床直後に急上昇する「起床時コルチゾール反応(cortisol awakening response: CAR)」は、自宅での唾液採取によって測定できるため、非侵襲的かつ簡便で、精度の高い指標として注目されています。

近年、CARは運動に対する身体の適応過程を評価する指標として期待されていますが、これまでの研究はスポーツ競技現場での測定が中心で、条件を統制した実験による検証はほとんど行われていませんでした。なかでも、継続的な運動の影響を検討した研究はなく、長期間にわたり対象者を拘束し、条件を統制し続けることが難しいため、その方法は確立されていませんでした。

研究の内容

本研究では、10日間の高強度運動がCARに与える影響を、統制された条件下で正確に評価する方法の実現可能性について検討しました。健康な若年男性2人が12日間連続の実験セッションに参加し、各セッションを実施した当日の生理指標・主観的な指標(心拍数、酸素摂取量、主観的運動強度、コルチゾール)と、翌日のCAR(起床直後、15分後、30分後のコルチゾール)を毎日測定しました。12日間の実験セッションは、2日間のベースライン測定(1日20分、座位安静)と、10日間の高強度自転車運動セッション(1日20分、最大酸素摂取量の80%に相当する強度)で構成しました。また、実験セッション実施前と、実施後に対象者の最大酸素摂取量(持久的能力)を測定しました。

対象者間・対象者内のばらつきや交絡因子をなるべく抑えるために、実験期間中は測定時刻や食事、日中の活動を統制しました。また、実験セッション外での他の運動や、カフェイン・アルコール摂取を禁止し、自宅での唾液採取前後の行動も細かく制限しました。

調査の結果、20分間の高強度自転車運動中に測定された心拍数、酸素摂取量、主観的運動強度は、初期(1~4日目)に最も高く、5日目以降に減少しました。また、高強度自転車運動実施前(Pre)から夜の23時(recovery 2)にかけて測定されたコルチゾールの反応も、初期(1~4日目)が最も高く、5日目以降に減少しました。これは、10日間の高強度自転車運動によって対象者の持久的能力が高まったことで、用いた強度は同じでも、初期よりも相対的に低い強度で運動ができるようになったことを示しています。

CARは、高強度自転車運動セッション初期(1~4日目)に上昇し、5日目以降にベースライン値付近に戻るという、先行研究を踏まえた仮説と一致する結果が得られました。初期のCARの上昇は、高強度運動によって生じた生体内の乱れに対して、身体が対処するために生じた反応だと考えられます。その後、CARがベースライン値付近まで回復したのは、課された運動負荷に対して、適応が生じたことを示していると考えられます。これは、各セッションを実施した当日の生理反応(心拍数、酸素摂取量、主観的運動強度、コルチゾール)の推移と、実験セッション実施前後で対象者の持久的能力が向上したことからも見て取れます。今回得られた結果から、統制された条件下で継続的な高強度運動がCARに与える影響を調べる方法として、本研究の実験手法が妥当である可能性が示されました。

期待される効果・今後の展開

本研究の知見は、CARが運動に対する身体の適応過程をモニタリングするための有用な非侵襲的バイオマーカーとして機能する可能性があることを示唆しています。すなわち、運動やスポーツ競技の指導者、または個人が高負荷の運動プログラムを導入する際、CARを活用することで負荷設定を最適化し、オーバートレーニングのリスクを軽減するのに役立つ可能性があります。

本研究の対象者は若年男性2人のみであるため、結果を一般化することはできません。しかし、約2週間の実験期間中で課す運動以外の要因(交絡因子)を、できるだけ統制して実施しました。実験手法には改善の余地がありますが、対象者の状態を長期間統制することは難しいため、得られたデータは非常に貴重です。今後の研究では、より多くの指標と、幅広い対象者を用いた検証により、結果の信頼性を高め、モニタリング指標としてのCARの有用性をさらに明らかにする必要があります。

資金情報

本研究の一部は、日本学術振興会科研費(JP19K11511)の支援を受けて実施しました。

用語解説

※ 交絡因子:研究で本当に知りたい結果をゆがめる第三の隠れた要因のこと。

掲載誌情報

【発表雑誌】 Life
【論文名】 Changes in Cortisol Awakening Response During 10 Days of High-Intensity Cycling Exercise
【著者】 Yui Ogasawara, Takayuki Sugo, Hironobu Tsuchiya
【掲載URL】 https://doi.org/10.3390/life15121872

研究内容に関する問い合わせ先

大阪公立大学 国際基幹教育機構
特任助教 小笠原 佑衣(おがさわら ゆい)
TEL:06-6167-1197
E-mail:y-ogasawara[at]omu.ac.jp

※[at]を@に変更してください。

報道に関する問い合わせ先

大阪公立大学 広報課
担当:谷
TEL:06-6967-1834
E-mail:koho-list[at]ml.omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。

該当するSDGs

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