最新の研究成果

光による植物の成長調節に関わる仕組みを解明~茎の表皮と内部組織の接着力増加が鍵~

2026年3月5日

  • 理学研究科
  • プレスリリース

発表者

大阪公立大学大学院理学研究科 清水 佑馬大学院生 (博士後期課程1年)、若林 和幸准教授、曽我 康一教授、大阪公立大学 宮本 健助名誉教授

概要

本研究グループは、暗所で育てたエンドウの芽生えに光をあてた際の『茎の成長』と『接着力』との関係を解析しました。その結果、光によって成長が抑制される際に、両組織の接着力が増加することが確認されました。さらに、光を当てることで表皮細胞壁に『p-クマル酸』が蓄積することを明らかにしました。これらの結果から、p-クマル酸の蓄積が両組織の接着を強める要因になっている可能性を示しました。
本研究成果は、2026年1月25日に国際学術誌「Physiologia Plantarum」にオンライン掲載されました。

ポイント

  1. 暗所で育てたエンドウの芽生えに光を当てると、茎の表皮と内部組織の接着力が増加。
  2. 光を当てた芽生えの茎を蛍光顕微鏡で観察したところ、細胞壁に青緑色の蛍光が強く検出され、その蛍光スペクトルは p-クマル酸の特性スペクトルと一致。
  3. 化学分析の結果、特に表皮の細胞壁にp-クマル酸が多く蓄積しており、この蓄積が両組織の接着を強めている可能性を示唆。

press_0305_soga

図 暗所で育てた芽生えに光を当てると、茎の表皮と内部組織の最外層である細胞壁にp-クマル酸が蓄積し、両組織間の接着力が増加することにより成長は抑制される。

<研究者コメント>

光によって接着力や蛍光が変化することを見つけた瞬間は本当にうれしく、基礎科学の面白さを改めて実感しました。一見すると地味に思われる発見かもしれませんが、こうした発見の積み重ねが将来の技術につながると信じています。今回の驚きと学びを励みに、これからも少しずつ成長しながら研究を続けていきたいです。

press_0305_soga01

清水 佑馬大学院生

研究の背景

植物の茎の最も外側には表皮があり、その内側には内部組織があります。これらの組織は細胞壁を介して互いに接着しており、植物が成長する際に成長速度を決めているのは表皮であると考えられています。また、内部組織は大きくなろうとする強い力をもち、これが茎の成長の原動力になっていますが、硬い表皮がそれを押さえつけることで、茎全体の成長が調節されています。そのため、表皮と内部組織の接着の度合いが成長に影響する可能性が考えられますが、これまでに表皮と内部組織の接着の度合いに着目した研究はなされていませんでした。

本研究グループは、以前に茎の表皮と内部組織の接着力を定量的に測定する方法(Shimizu et al. (2025) Biorheology 60(1–2): 23–30)を確立しました。本研究では、この方法を用いて接着力の強さが成長速度の調節にどのように関与しているのかを明らかにすることを目指しました。植物は光などの環境の変化に敏感に反応し、成長を大きく変化させます。そこで、光によって茎の成長が抑制される際の表皮と内部組織の接着力を測定し、さらにその変化が起こる仕組みを調べることを目的としました。

研究の内容

本研究では、暗所で育てたエンドウの芽生えに光をあてた際の茎の成長と接着力との関係を調べました。その結果、暗所で育てた芽生えに光を当てると、茎の成長が抑制される際に、表皮と内部組織の接着力が増加することがわかりました。そこで、接着力が増加する要因を明らかにするために、表皮と内部組織の接着部分の細胞壁を蛍光顕微鏡で観察しました。すると、暗所で育てた芽生えの茎は青色の蛍光が観られましたが、光をあてた芽生えでは蛍光が強くなるとともに、青色から青緑色へと変化していることが確認されました。

次に、この蛍光の変化の原因を調べるために、蛍光スペクトルを取得し、さまざまな物質のスペクトルと比較したところ、光をあてた植物の細胞壁のスペクトルはp-クマル酸と一致しました。さらに化学分析の結果、p-クマル酸が特に表皮の細胞壁に多く蓄積していることが明らかになりました。したがって、p-クマル酸の蓄積が表皮と内部組織の接着を強める要因になっていると考えられます。本研究は、光によって表皮と内部組織の接着力が変化し、その結果として茎の成長が調節されるという、新たな植物の成長制御メカニズムを示すものです。

期待される効果・今後の展開

本研究では、光による茎の成長調節に、表皮と内部組織の接着力の変化が関わっていることを明らかにしました。しかし、光以外の要因による成長調節においても接着力が関与するかどうかは、まだわかっていません。今後、さまざまな要因によって茎の成長が変化する際の表皮と内部組織の接着力を測定することで、この接着力の変化を介した成長調節が普遍的なしくみであるかどうかが明らかになると期待されます。これは、植物の成長制御に関する新たな知見につながるものです。

また、今後は、p-クマル酸がどの細胞壁成分に結合し、どのようにして接着力を増加させているのか、さらに、p-クマル酸の合成や細胞壁への結合が光によってどのように制御されているのかを明らかにすることが重要な課題となります。

今回の発見は、細胞壁同士の強固な結合を模倣・応用することで、工業材料の強度向上に資する新規材料開発につながる可能性を示しています。さらに、細胞壁中のp-クマル酸の蓄積量を調節した植物を作り出すことで、茎の剛性や成長を制御する技術への応用も期待されます。 

資金情報

本研究は、2025年度笹川科学研究助成および次世代研究者育成プログラムの支援を受けて実施しました。

用語解説

p-クマル酸:植物に広く存在するフェノール性化合物(ヒドロキシ桂皮酸類)の一種。イネなどの単子葉植物の細胞壁に多く含まれ、イネにp-クマル酸を与えると細胞壁が硬くなり、茎の成長が抑制されることが知られている。

掲載誌情報

【発表雑誌】 Physiologia Plantarum
【論文名】 White Light Enhances Adhesive Strength Between Epidermal and Inner Tissues of Pea Epicotyls via Accumulation of Cell Wall-Bound p-Coumaric Acid
【著者】 Yuma Shimizu, Kazuyuki Wakabayashi, Kensuke Miyamoto, Kouichi Soga
【掲載URL】 https://doi.org/10.1111/ppl.70755

研究内容に関する問い合わせ先

大阪公立大学大学院理学研究科
教授 曽我 康一(そが こういち)
TEL:06-6605-3686
E-mail:soga[at]omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。

報道に関する問い合わせ先

大阪公立大学 広報課
担当:久保
TEL:06-6967-1834
E-mail:koho-list[at]ml.omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。

該当するSDGs

  • SDGs15