最新の研究成果
障害者アイデンティティ形成の鍵を解明―社会参加と交流が認識変化をもたらすことを確認―
2026年3月11日
- 現代システム科学研究科
- プレスリリース
ポイント
◇3人の身体障がい者へインタビュー調査を実施。複線径路等至点モデル※を用い、障害者アイデンティティの形成過程について、本人の経験と社会文化的背景を長期的視点から分析。
◇障がい者グループの活動への参加、社会福祉サービスの利用により、自分以外の障がい者との交流が深まり、自分の体験が障がい者全体の課題とつながっていると感じることが判明。
◇障害者アイデンティティの理解には、その長期的経験が社会文化的文脈と一体的であることが重要であることを示唆。
概要
障害者アイデンティティは、障がい者集団への帰属意識や貢献を含む概念であり、心理学、社会学、文化人類学などの学際的な領域で研究されています。しかし、一般的なアイデンティティに関する研究と比較すると、その知見は相対的に乏しいといえます。
大阪公立大学大学院現代システム科学研究科の田垣 正晋教授は、3人の身体障がい者へインタビュー調査を実施し、その語りについて線径路等至点モデルを用いて分析し、障害者アイデンティティの形成過程を、長期的視点から明らかにしました。
その結果、対象者はケア体制の構築、周囲からの視線、学校教育など、日常生活においてさまざまな困難を経験していることが分かりました。また、障がい者グループ活動の参加や運営、社会福祉サービスの利用を通じて、類似または異なる障がいを持つ人々との交流が進み、自身の経験が障がい者全体の状況や課題とつながっていると認識することも明らかになりました。しかし、時間の経過とともに、協力者は自分が関わった活動の成果に十分満足していないことも分かりました。ただし、協力者は現状を否定的に捉えているとは限りません。この結果と先行研究をふまえれば、障害者アイデンティティ形成の理解には、社会や文化の背景に加えて、長期間にわたる経験が重要であること、同アイデンティティには柔軟性があることが示唆されました。
本研究成果は、2026年3月3日に国際学術誌「Integrative Psychological and Behavioral Science」にオンライン公開されました。
※障がい、障害の使い分けは、学術用語や法制度における用法に準拠。
田垣教授からのコメント
大学院生のときから、障がいのある方々のライフコースを我が国の社会や文化、法制度から考えています。私は日本に生まれ育ったので、「日本的」なものが自明です。これを論文中で浮き彫りにできるよう、海外で発表された日本研究の論文および関連動画を定期的に確認し、知見の深化に努めています。本研究が、障害のある方にとって、自身以外の障がい者との交流のきっかけや関係作りの手がかりになれば幸いです。また、政策担当や支援者、障がいがない方々には、「障がい者」と称される方々同士の活発な関係、とくに異なる種類の障がい者同士の関係作りを知っていただければと思います。障害者アイデンティティと障害者差別解消法等の政策は密接に関連しています。
掲載誌情報
【発表雑誌】Integrative Psychological and Behavioral Science
【論 文 名】The Changing Process of Disability Identity: A Trajectory Equifinality Model Analysis of Japanese with Physical Disabilities
【著 者】Masakuni Tagaki
【掲載URL】https://doi.org/10.1007/s12124-025-09953-0
資金情報
本論文の一部は、科研費 基板研究(C)「市町村における障害者差別解消支援地域協議会の当事者参加型運営モデルの開発」の成果です。
用語解説
※複線径路等至点モデル(Trajectory Equifinality Model)
人の諸経験とその径路を分析する手法。人は、社会文化的、歴史的文脈を生きているため、歩む径路は相異なるにしても、類似した結果(「等至点」にたどり着くとみなされる。等至点までには、径路が分かれる事象(分岐点))多くの人々が経験する事象(必須通過点)が想定されている。この手法の解説の一例として、筆者による日本心理学会のWebサイトを参考。
https://psych.or.jp/publication/world093/pw15/
研究内容に関する問い合わせ先
大阪公立大学大学院現代システム科学研究科
田垣 正晋(たがき まさくに)
E-mail:tagaki[at]omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。
報道に関する問い合わせ先
大阪公立大学 広報課
担当:橋本
TEL:06-6967-1834
E-mail:koho-list[at]ml.omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。
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