最新の研究成果
「疲れに効く」成分イミダゾールジペプチド~酸化されると血中での安定性と抗酸化力が向上~
2026年3月10日
- 理学研究科
- プレスリリース
発表者
大阪公立大学大学院理学研究科 居原 秀教授、小前 奏明大学院生
概要
ヒトの体内で作られるイミダゾールジペプチド(IDPs)※1は、抗酸化作用を持つことが知られています。しかし、その一種であるカルノシンは、ヒト血清中でカルノシナーゼ※2という酵素により、速やかに分解されるため、疫病予防への応用が難しいという課題があります。
本研究グループは、先行研究においてIDPsの酸化誘導体『2-オキソIDPs』を世界で初めて発見しました。この成分は、非常に強い抗酸化作用を持つことがわかっている一方で、体内でどのように働くのかは明らかになっていませんでした。そこで本研究では、ヒト血清中におけるIDPsおよび2-オキソIDPsの安定性を評価しました。
その結果、2-オキソIDPsは血清中で壊れにくく、安定して存在できることが明らかになりました。さらに、マウスとハムスターの血清を用いた解析においても、2-オキソIDPsがカルノシンよりも高い安定性を示し、血清中の抗酸化力も強めることが明らかになりました。本研究成果より、2-オキソIDPsは、ヒトの体内でも抗酸化効果を発揮できる『機能性抗酸化成分』である可能性が示唆されました。
本研究成果は、2025年11月9日に国際学術雑誌「Free Radical Biology and Medicine」にオンライン掲載されました。
ポイント
- IDPsの酸化誘導体『2-オキソIDPs』は、ヒト血清中で高い安定性を持つことを発見。
- 動物モデル(マウス・ハムスター)の血中でも、2-オキソIDPsは壊れにくく、生体内で抗酸化力を強める作用があることが示された。
- 2-オキソIDPsは、ヒトの体内でも抗酸化効果を発揮できる可能性を示唆。

<研究者コメント>
「酸化」と聞くと、物質が錆びたり劣化したりする悪いイメージを持つかもしれません。我々は、カルノシンが酸化されることによって抗酸化活性が高まることを見出していました。今回の研究で、カルノシンは、酸化されることで分解酵素に対する耐性を獲得し、体内での安定性が高まることがわかりました。劣化だと思っていた酸化反応が、実は新機能獲得のための適応だったのかもしれないという、生命の巧みな仕組みに驚かされています。この発見が、将来的にヒトの健康維持に役立つことを期待しています。

居原 秀教授
<研究者コメント>
今回の研究により、2-オキソIDPsが、カルノシンよりも分解されにくく、かつ長い時間効果を発揮できる可能性が示されました。特に、カルノシン分解酵素という観点からヒトとハムスターに意外な共通点があることは興味深い発見でした。今後は、これらの知見を手がかりに、2-オキソIDPsの生体内での役割をさらに明らかにしていきたいと思います。

小前 奏明大学院生
研究の背景
カルノシンやアンセリンなどのIDPsは、ヒトを含むさまざまな動物の体の中で作られており、特に食肉中に豊富に含まれています。IDPsは、疲労回復や認知症予防に効果があることが報告されており、近年その生理活性や健康効果に注目が集まっています。
しかし、カルノシンは、ヒトの血清中でカルノシナーゼによって速やかに分解されてしまうことから、疾病予防への応用が制限されています。
本研究チームは、以前にIDPsの酸化誘導体である2-オキソIDPsを世界で初めて発見し、非常に高い抗酸化活性を持つことを明らかにしていました。生体内の2-オキソIDPsのはたらきについて詳しく解析することは、IDPsの生理活性のメカニズムを解明する手掛かりになると期待されます。しかし、2-オキソIDPsとカルノシナーゼとの関係は未だ明らかになっていません。
研究の内容
本研究では、質量分析法を用いて、ヒト血清中におけるIDPsおよび2-オキソIDPsの安定性を評価しました。その結果、ヒト血清中で、カルノシンは速やかに分解された一方で、2-オキソIDPsは高い安定性を示すことが発見されました(図1)。さらに、ハムスター血清にもカルノシン分解活性があることが確認され、IDPs研究におけるモデル動物としての有用性が明らかになりました。また、マウスとハムスターという2種類のモデル動物を用いた解析により、2-オキソIDPsが生体内においてもカルノシンよりも高い安定性を示し、血中の抗酸化力を強めることができることが明らかになりました。つまり、2-オキソIDPsは酸化されて機能を失うのではなく、ヒトの体内でも壊れずに抗酸化効果を発揮できる「機能性抗酸化成分」である可能性が示されました。

図1 ヒト血清中における安定性の評価
期待される効果・今後の展開
本研究成果は、ヒトの体内で本当に効果を発揮できる新しいサプリメントや機能性食品の開発につながると期待されます。また、詳しい機能や存在様式が明らかになっていない2-オキソIDPsに関する研究の基盤となり、本研究分野の大きな発展に寄与するものと考えられます。さらに、優れた生理活性を示す2-オキソIDPsを多く含んだ食品・サプリメントの開発や、医薬品としての応用開発に貢献することが期待されます。
資金情報
本研究の一部は、科学研究費助成事業の学術変革A(24H02017)、基盤研究B(21H02082, 25K03036, 25K02419)、基盤研究C(19K06537, 22K06148)、挑戦的研究(20K21256, 22K19159)、新学術領域研究(26111011)、特別研究員奨励費(24KJ1899)、生命科学・創薬研究支援基盤事業(JP25ama121023)の支援で行われました。
用語解説
※1イミダゾールジペプチド(IDPs):イミダゾール基を含むアミノ酸であるヒスチジンが結合したジペプチドの総称。カルノシン、アンセリン、バレニンなどが知られている。多くの脊椎動物の脳や骨格筋に分布し、pH緩衝能、金属キレート能、抗酸化能等があると考えられている。
※2 カルノシナーゼ(CN1):ヒトやシリアンハムスターの血中に存在する、カルノシンを分解する酵素。食肉中などに含まれるカルノシンは、摂取後に血中のCN1によって速やかに分解されることが知られている。
掲載誌情報
【発表雑誌】 Free Radical Biology and Medicine
【論文名】 2-Oxo-imidazole-containing dipeptides resist degradation by carnosinase 1
【著者】 Somei Komae, Shingo Kasamatsu, Kei Moritsugu, Koji Uchida and Hideshi Ihara
【掲載URL】 https://doi.org/10.1016/j.freeradbiomed.2025.11.014
研究内容に関する問い合わせ先
大阪公立大学大学院理学研究科
教授 居原 秀(いはら ひでし)
TEL:072-254-9753
E-mail:iharah[at]omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。
報道に関する問い合わせ先
大阪公立大学 広報課
担当:久保
TEL:06-6967-1834
E-mail:koho-list[at]ml.omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。
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