最新の研究成果
慢性腎臓病患者の運動実践に課題~フレイルが運動実践を阻む要因であることを確認~
2026年3月25日
- リハビリテーション学研究科
- プレスリリース
発表者
大阪公立大学大学院リハビリテーション学研究科 音部 雄平講師、米国 カリフォルニア大学ロサンゼルス校Connie M. Rhee (コニー M.リー)教授
概要
本研究グループは、全国の慢性腎臓病患者285人に対して運動の重要性に対する認識や情報源、医療者からの運動指導の状況を把握するとともに、基本チェックリストを用いてフレイルの有無を調査しました。その結果、運動の重要性の周知は進んできている一方で、食事管理ほどは十分に浸透していないことがわかりました。また運動指導を受けても約3人に1人は十分に実行できておらず、特にフレイルを有する患者では、運動を実践しにくい傾向が示されました。
本研究成果は、2026年2月26日に国際学術誌「BMC Nephrology」にオンライン掲載されました。
ポイント
- 慢性腎臓病患者を対象に、運動の重要性における認識度・情報源・その実行状況を調査。
- 運動の重要性を知っている人は多い一方で、食事管理ほど十分に浸透していないこと、運動指導において理学療法士などの運動専門職の関与は十分ではないこと、約3人に1人が運動の実践に課題があることを明らかに。
- その中でも、フレイルを有する患者では運動の実践が難しい傾向があり、十分に運動・身体活動ができないリスクが1.6倍高いことを確認。
私は臨床現場で、慢性腎臓病の患者さん一人一人の体力や症状、生活環境に合わせて、無理なく運動を継続できる形で支援することの重要性を実感してきました。しかし今回の研究で、全国的には運動の専門職が十分に活用されていない可能性や、指導を受けても運動の実践が難しい患者さんが少なくないことが示されました。今後は、医療と地域が連携し、運動継続を支えることができるフォロー体制を整えていきたいと考えています。

音部 雄平講師
研究の背景
慢性腎臓病は、腎臓の働きが少しずつ低下する慢性疾患で、日本では約2,000万人が罹患していると推計されています。慢性腎臓病の治療方針として、以前は「運動をすると尿蛋白が増え、腎機能を悪化させる」という懸念から、運動が制限されることが一般的でした。しかし近年の研究では、運動は多くの場合で安全に行うことができ、むしろ腎機能の維持に有用であることが示されています。このような背景から、近年の診療ガイドラインでは、慢性腎臓病の患者に対して積極的な運動の実施が推奨されています。
一方で、「慢性腎臓病の治療には運動が重要」と言われても、患者自身がその重要性をどの程度認識できているのか、またその情報をどこから得ているのかは明らかではありません。さらに、医療者から運動指導を受けた経験がある患者はどれくらいいるのか、そのうちどの程度の患者が指導内容を遵守できているのか、そしてどのような特徴を持つ方が運動の実践が難しいのかについても十分にわかっていません。
研究の内容
本研究は、全国の慢性腎臓病患者を対象とした横断研究であり、オンライン調査に回答した312人のうち条件を満たした285人を分析しました。アンケートでは、慢性腎臓病治療における運動の重要性の認識度や情報源、医療者からの運動指導の有無とその遵守状況などを尋ね、さらに基本チェックリストを用いてフレイルの有無を判定しました。
その結果、運動の重要性を「よく知っている」「やや知っている」と回答した人は72.7%で、食事管理の重要性を認識している人(85.3%)よりやや低い傾向がみられました。運動に関する主な情報源は医師が最も多く(70.1%)、次いでインターネット記事(33.3%)、書籍・雑誌(16.9%)が続きました(図1)。

一方で、運動の専門家である理学療法士を情報源として挙げた人は4.4%と非常に少数でした。医療者から運動や身体活動の指導を受けた経験がある人は71.6%でしたが、そのうち約3人に1人(31.9%)は指導を十分に実践できておらず、さらに4.9%は「指導は受けたがやり方がよくわからない」と回答していました。加えて、フレイルを有する患者では運動の実践が難しい傾向があり、他の要因を調整しても、十分に運動をできないリスクが1.6倍高いことが確認されました。
期待される効果・今後の展開
これらの結果は、運動を推奨するだけでなく、患者が日常生活の中で「実践できる形」に整える支援が必要であることを示しています。具体的には、運動内容を分かりやすく具体化した説明や、外来でのフォロー体制の強化、理学療法士など運動の専門職が関与しやすい制度設計が期待されます。さらに、フレイルを有する患者には、より段階的かつ丁寧な個別支援に加え、医療と地域が連携して、無理なく運動を継続できる環境づくりが重要となります。例えば、通いの場や運動教室など地域資源の活用、家族や支援者を含めたサポート体制の整備などが考えられます。
一方で、本研究はオンライン調査であるため、電子機器の利用に慣れた方に対象が偏っている可能性があり、結果が全ての慢性腎臓病患者にそのまま当てはまるとは限りません。また、運動の実行状況やフレイルの判定などはいずれも自己申告に基づいており、加えて、どのような運動指導(内容、頻度、強度など)を受けたかを客観的に把握できていないため、運動指導の質や量との関係を詳しく評価できていません。今後は患者の運動実施の実態をより詳細に把握したうえで、慢性腎臓病の患者が継続して運動を続けていくための方策を検討し、その効果を検証していくことが研究課題です。
掲載誌情報
【発表雑誌】 BMC Nephrology
【論文名】 Awareness of exercise importance, information sources, and adherence in predialysis chronic kidney disease in Japan: a web-based cross-sectional study
【著者】 Yuhei Otobe, Connie M. Rhee
【掲載URL】 https://doi.org/10.1186/s12882-026-04850-z
資金情報
本研究は、公益財団法人大阪腎臓バンク (OKF24-0005)に支援を受けて実施しました。またオープンアクセス出版費用は、日本学術振興会(JSPS)科学研究費(JP25K20907)の支援を受けました。
研究内容に関する問い合わせ先
大阪公立大学大学院リハビリテーション学研究科
音部 雄平(おとべ ゆうへい)
TEL:06-6167-1252
E-mail:otobe[at]omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。
報道に関する問い合わせ先
大阪公立大学 広報課
担当:橋本
TEL:06-6967-1834
E-mail:koho-list[at]ml.omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。
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