最新の研究成果
自然妊娠の可能性予測に新たな指標~後天的性染色体の喪失と不妊の関連を解明~
2026年3月24日
- 医学研究科
- プレスリリース
発表者
大阪公立大学大学院医学研究科女性生涯医学 菊池 太貴大学院生、三杦 卓也准教授、橘 大介教授
概要
本研究グループは、女性の性染色体のうちX染色体の1本が失われた状態のLoss of X chromosome(LOX)と不妊症の関連を検証しました。その結果、不妊症の患者は白血球中のLOX細胞の割合が有意に高いことが明らかになりました。本研究成果により、従来の自然妊娠の可能性を測る指標にLOXの数値を組み合わせることで、より正確に自然妊娠の可能性を予測できるようになることが期待できます。
本研究成果は、2026年2月18日に国際学術誌「Reproductive BioMedicine Online」にオンライン掲載されました。

図1:本研究の概要図
ポイント
- 不妊症の患者は、白血球中のLOX細胞の割合が有意に高く、LOX細胞の割合が約0.9%を超えると自然妊娠しにくくなる可能性を明らかにした。
- 自然妊娠の可能性予測に一般的に用いられる抗ミュラー管ホルモン※1とLOXの関連は見られなかった。
- 抗ミュラー管ホルモンとLOXを組み合わせることで、自然妊娠の可能性をより正確に予測できることが期待される。
<研究者コメント>
これまでの女性不妊の研究では、子宮や卵巣、卵管などを対象とした研究が主流でした。本研究は血液細胞の異常を同定する新規技術を応用し、不妊の解明を行った世界でも珍しい研究です。本研究は、クラウドファンディングにより、多くの方々の支援のもとに実施されました。私たちの研究が、不妊に悩む方々へ貢献できることを願っています。

菊池 太貴大学院生
研究の背景
女性の社会進出は世界規模で進んでおり、それに伴う晩婚化、妊娠率の低下は避けられない課題となっています。日本でも不妊に悩むカップルは年々増加しており、現在約4.4組中1組が不妊のため病院を受診しています。近年の不妊治療の発展は目覚ましいですが、一方で自然妊娠を望む方も多くいます。しかし、自然妊娠が可能かどうかを予測することが難しいのが現状です。
生物の遺伝子情報は染色体上に存在し、性別を決定する染色体は性染色体と呼ばれます。基本的には、男性はX染色体とY染色体を1本ずつ持ち、女性はX染色体を2本持っています。性染色体は性別を決める以外の役割を持たないとされていましたが、近年の研究により、性染色体の異常がさまざまな疾患と関与することが明らかとなってきました。
本研究グループが着目したのは「後天的性染色体の喪失」という現象です。加齢により男性ではY染色体が、女性ではX染色体の1本が失われることがあり、それぞれLoss of Y chromosome(LOY)、Loss of X chromosome(LOX)と呼ばれています。LOYはアルツハイマー型認知症、糖尿病、心臓病など、LOXは急性骨髄性白血病、肺炎などに関連があることが報告されています。そこで、本研究グループは、LOXが自然妊娠可能か予測する指標になるのではと考え、研究を行いました。

図2:後天的性染色体の喪失
研究の内容
本研究では、20~40代の自然妊娠した女性123人および自然妊娠に至らなかった女性281人の白血球中のLOXを比較検証しました。検証には、本研究グループが開発したLOX細胞の割合を高精度で検出する新しいPCR法※2を用いました。その結果、不妊症の患者の方がLOX細胞の割合が有意に高く、白血球中のLOX細胞の割合が約0.9%を超えると自然妊娠しにくくなる可能性を明らかにしました。
また、自然妊娠が可能かを予測する指標として用いられることがある抗ミュラー管ホルモンとLOXの関連を検証したところ、今回測定したLOXとは関連がないことが判明しました。これらの結果から、従来の抗ミュラー管ホルモンとLOXを組み合わせることにより、これまでよりも正確に自然妊娠が可能かどうかを予測することができるようになるのではないかと考えられます。
期待される効果・今後の展開
妊娠はさまざまな要因が複雑に絡み合うデリケートな問題であり、自然妊娠が可能かを正しく予測することは容易ではありません。さらに、妊娠が可能な年齢は短く、時間を無駄にすることはできるだけ避けることが望ましいです。そこで、不妊に悩む方のLOXを測定することにより、自然妊娠が期待できるのか、それとも体外受精などの不妊治療を早期に行った方が良いのかを判断できるようになることが期待されます。
資金情報等
本研究は、クラウドファンディング READYFOR (プロジェクト名:国循がXの謎に挑む!遺伝子変異と不妊症の関連を明らかにしたい)の支援を受けて実施しました。
用語解説
※1 抗ミュラー管ホルモン:卵巣内の卵子から分泌され、残りの卵子の数の指標となるホルモン。
※2 PCR法:特定のDNAを酵素により増幅させ、微量な遺伝子を解析可能にする技術。
掲載誌情報
【発表雑誌】 Reproductive BioMedicine Online
【論文名】 Hematopoietic loss of the X chromosome Is associated with lower likelihood of natural conception and is independent of conventional ovarian reserve markers
【著者】 Taiki Kikuchi, Naofumi Yoshida, Shintaro Yoneyama, Yoshinori Maki, Kohei Kitada, Akihiro Hamuro, Takuya Misugi, Tomohiro Kubo, Yoshihiro Nakamura, Atsushi Haruki, Daisuke Tachibana, Soichi Sano
【掲載URL】 https://doi.org/10.1016/j.rbmo.2026.105638
研究内容に関する問い合わせ先
大阪公立大学大学院医学研究科
女性生涯医学
三杦 卓也(みすぎ たくや)
TEL: 06-6645-3941
E-mail:t-misugi[at]omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。
報道に関する問い合わせ先
大阪公立大学 広報課
担当:久保
TEL:06-6967-1834
E-mail:koho-list[at]ml.omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。
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