最新の研究成果
環境にやさしい機能性材料の開発コストを削減 ~海洋分解性プラスチックの基盤材料の新たな合成法を開発~
2026年3月26日
- 工学研究科
- プレスリリース
発表者
大阪公立大学大学院工学研究科 物質化学生命系専攻 応用化学分野 北山 雄己哉准教授、阪本 遼大大学院生(博士前期課程2年)、原田 敦史教授
概要
海底などで分解可能な還元分解性高分子として、主鎖の繰り返し単位にジスルフィド結合を含む高分子であるポリジスルフィドが注目されています。
本研究グループは、重合※1に用いるモノマー※2のN-(2-オキソテトラヒドロチオフェン-3-イル)-3-(ピリジン-2-イルジスルファニル)プロパンアミド(以降、PDTL)を開発。このPDTLをさまざまなアミン化合物と反応させることで、任意の側鎖構造をもつポリジスルフィドを合成できる新たなドミノ重合法※3を確立しました。これにより、機能性材料の開発時間やコストの削減が期待できます。
本研究成果は、2026年3月10日に国際学術誌「Angewandte Chemie International Edition」にオンライン掲載されました。
本研究で開発したドミノ重合のイメージ。単一のモノマー(PDTL)にアミン化合物を自由に選択しポリジスルフィドを合成できる。
ポイント
- 重合用モノマーのPDTLを開発。このPDTLを医薬品やプラスチックの原料として広く使われている市販のアミン化合物と反応させることで、任意の側鎖構造をもつポリジスルフィドを合成できる新たなドミノ重合法を確立した。これにより、海底などの環境下で分解が見込める「還元分解性高分子」の簡便合成を達成。
- 機能性材料の開発時間やコストを削減できる可能性が見込まれ、医療分野におけるドラッグデリバリーシステム(DDS)のキャリアとしての利用も期待される。
<研究者のコメント>
プラスチックは社会を支え続けていますが、環境問題や物質循環が求められている現代では、従来の安定で長期間使用できるかという視点に加え、終着点である分解まで考えられた高分子が求められています。本技術が高分子の環境問題の解決の一助となれば幸いです。
北山 雄己哉准教授
研究の背景
近年、プラスチックによる環境問題が世界的な課題として認識され、その解決策として分解性高分子の開発が広く求められています。その中でも、主鎖の繰り返し単位にジスルフィド結合を有するポリジスルフィドは、海底等の還元環境下で分解可能な還元分解性高分子として注目されています。これまでポリジスルフィド合成のための重合技術として、環状ジスルフィド化合物の開環重合※4、ジスルフィド結合をもつジカルボン酸(あるいはジアルコール)を用いる重縮合※5などのさまざまな技術が開発されてきましたが、高分子(ポリマー)の物性制御や機能付与のためには、目的に応じてポリマーの原料となるモノマーを都度設計・合成しなければならないという課題がありました。そのため、任意の化学構造や機能をもつポリジスルフィドを簡便に合成するための新規重合技術の開発が望まれていました。
研究の内容
本研究では、分子内にチオラクトン環とピリジルジスルフィド基を併せもつ新規ドミノ重合用モノマーとして、N-(2-オキソテトラヒドロチオフェン-3-イル)-3-(ピリジン-2-イルジスルファニル)プロパンアミド(PDTL)を開発しました。このPDTLに種々のアミン化合物を反応させることで、任意の側鎖構造を有するポリジスルフィドを合成可能な新規ドミノ重合法を確立しました(図1)。本手法は、アミンによるチオラクトンの開環反応と、それに続くジスルフィド形成反応が連続して進行することによりポリマー鎖が伸長します。アミン化合物は多岐にわたる市販品が安価に入手可能であり、用いるアミンを変更するだけで、それに由来する構造をポリジスルフィドの側鎖へ容易に導入できます。実際に、PDTLと反応させる第一級アミンの種類を変えることで、アルキル基、ベンジル基、アルケニル基、アルキニル基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、および第三級アミノ基など、多様な側鎖構造をもつポリジスルフィドの合成に成功しました(図2)。目的とするポリジスルフィドの生成は、核磁気共鳴(NMR)スペクトル測定、ゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)、マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析(MALDI-TOF MS)などの各種分析により確認し、同時に得られた全てのポリマーが還元剤により分解可能であることを明らかにしました。
さらに、側鎖に導入した官能基を利用した高分子反応(後修飾)もでき、側鎖のアルキニル基に対するアジド化合物のヒュスゲン環化付加反応や、ヒドロキシ基に対するイソシアネート化合物の付加反応が進行することを確認し、側鎖官能基を利用したポリジスルフィドのさらなる機能化が可能であることを示しました。また、本重合系において利用可能なアミン化合物は第一級アミンに限らず、第二級アミンやアンモニアも適用可能であることを明らかにしました。さらに、2種類以上のアミン化合物を混合して反応させることで、それぞれのアミン由来の構造や官能基を側鎖にもつ共重合体を合成でき、自在な分子設計が可能であることを実証しました。機能性の評価として、側鎖に第三級アミンを有するポリジスルフィドが、酸性水溶液中ではアミノ基のプロトン化により溶解し、塩基性水溶液中では脱プロトン化により不溶化するというpH応答性を示すことを見出しました(図3)。加えて、多価アミン化合物を架橋剤として用いることでポリジスルフィド骨格からなるゲルを作製でき、このゲルに還元剤を添加すると網目構造が分解され、流動性を取り戻すことも明らかにしました。
図1 本研究で開発したドミノ重合による任意の側鎖構造を有するポリジスルフィド合成スキーム
図2 本研究で開発したドミノ重合で利用可能な各種アミン化合物の例
図3 第三級アミノ基を側鎖に有するポリジスルフィドのpH応答性スキーム(a)、GPCによる還元分解性評価結果(b)、酸性および塩基性における水溶液への溶解性(c)、および酸塩基滴定曲線
期待される効果・今後の展開
本研究がターゲットとするポリジスルフィドは、海底などの還元環境下で分解される特性を持っています。そのため、現在世界的に深刻化している海洋マイクロプラスチック問題の解決に向けた「環境負荷の少ない海洋生分解性プラスチック」の基盤材料として、持続可能な社会(SDGs)の実現に大きく貢献することが見込まれます。また、本手法では、開発した単一のモノマー(PDTL)に、安価で市販されている多種多様なアミンを反応させるだけで、任意の機能を持つポリジスルフィドを容易に合成できます。これにより、化学・素材業界における機能性材料の開発に要する時間やコストを削減できる可能性があります。さらに、ポリジスルフィドは細胞内の還元環境下でも分解される高分子であるため、医療分野におけるドラッグデリバリーシステム(DDS)のキャリアとしての利用も期待されます。本手法がもつ「側鎖構造の高い選択自由度」を活かせば、送達したい薬物の担持に最適なポリマー構造を容易に設計できます。例えば、pH応答性を付与することにより、細胞内エンドソーム脱出が可能になり、かつ環境変化に応答して標的部位で薬物を放出するDDSキャリアとして有用と考えられます。また、医療分野にとどまらず、使用後に容易に分解・回収できるリサイクル可能な接着剤やコーティング材料としての応用も見込まれます。今後は、合成したポリジスルフィドの引張強度や柔軟性、耐熱性などの力学的・熱的特性をさらに詳しく評価し、用途に応じた実用レベルまで物性を引き上げるための分子設計の最適化を試みる予定です。
資金情報
本研究は、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業 さきがけ(JPMJPR24M3)、日本学術振興会科学研究費助成事業(JP21H02004、JP23K21137、JP24K01559)、大阪公立大学2025年度 戦略的研究推進事業 若手研究支援の支援を受けて実施しました。
用語解説
※1 重合:高分子の最小単位の分子が繋がり、高分子を生成する反応のこと。
※2 モノマー:重合反応が可能な高分子の最小単位の分子のこと。
※3 ドミノ重合法:特定の反応が進行した後、別のもう一つの反応が連続的に進行することで、ポリマー鎖を伸長することができる重合法のこと。
※4 開環重合:環状構造を有するモノマーの開環反応を伴いながらポリマー鎖を伸長させることができる重合技術。
※5 重縮合:重合時にモノマーの化学構造の一部が水などの小分子として脱離しながら、ポリマー鎖が伸長していく逐次重合の一種。代表的な例として、ジオールとジカルボン酸の重縮合によるポリエステルの合成などが挙げられる。
掲載誌情報
【発表雑誌】 Angewandte Chemie International Edition
【論文名】 Domino Polymerization for the Synthesis of Reductively Degradable Poly(disulfide)s With Arbitrary Side-Chain Structures
【著者】 Yukiya Kitayama, Ryodai Sakamoto, Atsushi Harada
【掲載URL】 https://doi.org/10.1002/anie.202524666
研究内容に関する問い合わせ先
大阪公立大学大学院工学研究科
准教授 北山 雄己哉(きたやま ゆきや)
TEL:072-254-9330
E-mail:kitayama[at]omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。
報道に関する問い合わせ先
大阪公立大学 広報課
担当:谷
TEL:06-6967-1834
E-mail:koho-list[at]ml.omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。
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