最新の研究成果
松果体と眼からの光情報が脳内で一つに ~ゼブラフィッシュを用いて統合の仕組みを解明~
2026年3月31日
- 理学研究科
- プレスリリース
発表者
大阪公立大学大学院理学研究科 寺北 明久教授、小柳 光正教授、和田 清二博士研究員(研究当時)
概要
本研究グループは、ゼブラフィッシュの稚魚において、松果体で生じた色の情報が神経節細胞※を通じて脳の被蓋(ひがい)という領域へ伝わることを明らかにしました。さらに、この仕組みが光の波長変化に応じて稚魚が上下に泳ぐという、眼の色覚が関与する行動の決定に関わることを発見しました。本研究結果は、松果体からの色情報と眼からの光情報が脳内で統合され、光に応じた行動を生み出す仕組みを解き明かす重要な手がかりになると考えられます。
本研究成果は、国際学術誌「PNAS(Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America)」において、2026年3月31日(日本時間)に報道解禁になりました。
図1 松果体は脳の背側に存在する光受容器官であり、そこには、紫外光と可視光の比率を検出する色応答を生み出すPP1という光受容タンパク質(オプシン)が存在する。
ポイント
- ゼブラフィッシュの稚魚において、光を受け取るタンパク質(オプシン)の一つであるパラピノプシン1(PP1)がもつ性質を利用し、紫外光と可視光の組み合わせによる光刺激を用いて、神経活動を調べた。
- 被蓋(ひがい)という脳の領域が、松果体から神経節細胞を通して伝えられる色の情報を受け取る中心であり、松果体からの色情報が眼の網膜からの光情報の影響を受けることが判明した。
- 松果体で検出された色の情報が被蓋へと伝えられ、眼からの視覚情報と統合されて行動の調節に関わることが初めて示された。
<研究者のコメント>
松果体がキャッチする光の色情報を動物がどのような機能に利用するのか?という、私がずっと目標にしてきた長年の謎を解くことができました。パラピノプシンという分子の性質を利用した光刺激によって、脳の中のわずかな神経がパラピノプシン由来の反応を示すことを発見したときは感動しました。
和田 清二氏
研究の背景
円口類、魚類、両生類、爬虫類などの哺乳類以外の背骨をもつ動物(脊椎動物)では、脳の表面にある小さな器官「松果体」やその関連器官は、光を感じるだけでなく、紫外光と眼に見える光(可視光)の割合の違い、つまり「色」を感じ取ることができると知られています。しかし、この色を感じる仕組みが1960年代に発見されて以来、松果体で感じ取られた色の情報が本当に脳に伝わるのか、また脳に伝わった後にどのような行動や体の働きに使われるのかは、長い間よく分かっていませんでした。
本研究グループは過去の研究で、パラピノプシンと呼ばれる光を受け取るタンパク質(オプシン)が松果体での色の検出に関与していることを発見しました。さらに、魚類の松果体では、パラピノプシン1種類だけで色の違いを見分けていることを明らかにしました。例えばヒトでは赤・緑・青の3種類のオプシンによって色を感じるなど、ふつうの色覚では複数種類のオプシンが必要とされるため、この仕組みはこれまでの常識を覆す発見です。しかし、この仕組みで松果体が感じ取った色の情報が脳のどこへ伝わるのか、さらにそれがどのような行動に関係するのかは分かっていませんでした。
研究の内容
松果体が紫外光と可視光を区別できるのは、パラピノプシンが紫外光を受け取る状態と可視光を受け取る状態という二つの状態をもち、それぞれが別のオプシンのように働くという特徴によることが分かっています。本研究では、ゼブラフィッシュの稚魚を用いて、PP1と呼ばれるパラピノプシンがもつこの特徴を利用し、紫外光と可視光の組み合わせを工夫した光刺激を用いて、カルシウムイメージングという手法で神経活動を調べました。ゼブラフィッシュの稚魚は体が透明であるため、神経細胞内のカルシウム量の変化を蛍光(光)の強さとして観察することで、神経活動の強さを測定することができます。
その結果、松果体の神経節細胞が、紫外光と可視光に対して逆の反応を示す、つまり色の違いに応答する反応を示すことを発見しました。また、PP1遺伝子を破壊しPP1を欠く魚では、通常の魚と比べて、この反応はほとんど見られませんでした。このことから、PP1によって生じた色の情報が松果体の神経節細胞に伝わっていることが判明しました。また、この刺激方法によって、PP1によって生じる神経の反応だけを選んで詳しく調べることができることも分かりました。
次に、この方法で脳全体の反応を解析した結果、被蓋(ひがい)という脳の領域が、松果体から神経節細胞を通して伝えられる色の情報を受け取る中心であることが分かりました。さらに、この被蓋では、松果体からの色情報が眼の網膜からの光情報の影響を受けることも分かりました(図1)。つまり、松果体と眼からの光の情報は被蓋でまとめて処理されていると考えられます。
一方、行動解析の結果、PP1を欠く魚や被蓋の神経細胞を除去した魚では、光の波長が変化したときに見られる上下方向の運動反応がうまく起こらないことが分かりました(図2)。
これらの結果から、松果体から被蓋へつながる神経回路が、PP1によって生じる色の情報を処理し、光の波長の違いに応じて魚が上下に動く行動を決める仕組みに関わっていることが示唆されます。本研究により、松果体で検出された色の情報が被蓋へと伝えられ、視覚情報と統合されて行動の調節に関わることが初めて示されました。
この成果は、動物が環境中の光の情報をどのように利用して行動を調節しているのかを理解するうえで重要な手がかりになると考えられます。
図2. 松果体オプシンPP1が関わる行動: PP1や眼がキャッチした光の情報は脳で統合され、光に含まれる波長(色)の変化に応じた水深方向への移動に利用される。
期待される効果・今後の展開
過去の研究から、ヒトを含めた動物は、形を見るための眼の働き(視覚)だけでなく、眼の外にも光を感じる仕組み(オプシン)があることが分かっていましたが、本研究で、松果体という眼の外にある光を受け取る器官からの情報と、眼からの視覚情報が脳の中で一緒に処理されることが分かりました。これは、眼の外の光情報と視覚情報が統合される仕組みが、他の種類の光情報でも起こる可能性があることを示しており、新しい光の感じ方や光生物学の研究につながることが期待されます。
さらに本研究では、パラピノプシンがもつ二つの状態を異なる色の光で操作することで、特徴的な神経の活動を人工的に起こすことに成功しました。これは、もし特定の神経細胞にパラピノプシンを入れることができれば、紫外光と可視光の組み合わせを使用して、その神経細胞からどこに情報が送られるかを詳しく調べることができると期待されます。
以上のように、本研究成果は、動物の光情報の処理の仕組みを理解するだけでなく、光を用いた神経回路の解析や行動制御の研究、将来的には新しい応用技術の開発にもつながる可能性があります。
資金情報
本研究は、科学研究費補助金(日本学術振興会)JP15H05777、JP23H02516、 JP18H02482、JP22H02663、JP18K14751、JP20K15844、JP22K06321の支援を受けて実施しました。
用語解説
※ 神経節細胞:光受容細胞から信号を受け取り脳へと投射する細胞。
掲載誌情報
【発表雑誌】 PNAS(Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America)
【論文名】 Neural circuits for decision making based on pineal photoreception in zebrafish
【著者】 Seiji Wada, Yuki Yamamoto, Tomoka Saito, Masahiko Hibi, Mitsumasa Koyanagi and Akihisa Terakita
【DOI】 10.1073/pnas.2520290123
研究内容に関する問い合わせ先
大阪公立大学大学院理学研究科
教授 寺北 明久(てらきた あきひさ)
TEL:06-6605-3144
E-mail: terakita[at]omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。
報道に関する問い合わせ先
大阪公立大学 広報課
担当:谷
TEL:06-6967-1834
E-mail:koho-list[at]ml.omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。
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