最新の研究成果

アルケンと水からアルコールを合成 -銅と光を用いたクリーンな合成手法の開発に成功-

2026年4月2日

  • 工学研究科
  • プレスリリース

ポイント

  1. アルコールの工業的需要は高まり続けており、安価な出発原料から目的のアルコールを効率よく合成する手法の開発が求められています。
  2. アルケンと水から直接目的のアルコールが得られれば魅力的ですが、その実現には新たなアルケンの活性化法が必要でした。
  3. 本研究では安価な金属である銅と光エネルギーを活用して、クリーンな水和反応の開発に成功しました。

概要

大阪公立大学大学院工学研究科の松井康哲准教授、池田浩教授の研究グループは、岡山大学学術研究院環境生命自然科学学域(工)の奥直樹助教(特任)、山崎賢助教、三浦智也教授、同大学院環境生命自然科学研究科の福家啓仁大学院生(当時)、桝井里花子大学院生らの研究グループと合同で、光エネルギーを活用して、アルケン※1と水からアルコールを合成する新たな手法の開発に成功しました。
アルコールの工業的需要は高まり続けており、その簡便で経済的な合成手法の開発が求められています。安価で入手容易なアルケンと水から、目的のアルコールを直接合成できれば魅力的な化学変換ですが、その実現には反応性の低いアルケンを活性化する新たな手法の開発が必要でした。本研究では、安価な金属である銅が、アルケンを活性化する強力な光触媒として働くことを初めて明らかにしました。
これらの研究成果は2026年2月21日、英国の総合学術誌「Nature Communications」に掲載されました。今後は、銅を光触媒として用いて、光エネルギーを活用したクリーンな分子変換技術の開発が一層加速すると期待されます。

発表内容

<現状>
アルコールは、広く工業的に使用され、人々の生活や産業の基盤となる物質です。そのため、安価で入手容易な出発原料であるアルケンと水から直接アルコールが得られれば非常に魅力的です。しかし、立体的により空いた炭素に水酸基※2を導入する逆マルコフニコフ型※3水和反応※4の実現は困難でした(図1a)。近年、光エネルギーを活用した逆マルコフニコフ型水和反応の例も報告されていますが、反応性の高い芳香族アルケンしか用いることができないなど課題点も多く、汎用性の高い新たな反応系の開発が望まれていました。

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<研究成果の内容>
今回、我々は、独自に見いだした銅(II)光触媒を用いて、脂肪族アルケンにも適用可能な逆マルコフニコフ型水和反応を実現しました(図1b)。今まで可視光照射下で光触媒として広く用いられてきたイリジウムやルテニウムといった金属光触媒は、反応性が低く、アルケンを活性化することができませんでした。また、これらの金属は非常に高価であることから、安価な金属を用いた反応性の高い光触媒の開発が必要でした。さまざまな検討の結果、埋蔵量が豊富で安価な銅を光触媒として用いることで、脂肪族アルケンを含む幅広いアルケンを活性化し、逆マルコフニコフ型水和反応が進行することを見いだしました。本反応は非常に穏和な条件で進行するため、天然物や医薬品といった複雑な化合物に対しても適用が可能でした(図2)。

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<社会的な意義>
本反応では、光エネルギーを活用して、脂肪族アルケンを含む幅広いアルケンと水から、逆マルコフニコフ型のアルコールを穏和な条件で選択的に合成することができます。今後は、本手法をもとに、アルコールの新たな工業的製法の開発が進められることが期待されます。また、本研究で開発したアルケン活性化法は、水和反応以外の化学変換にも応用が可能です。安価で入手容易な金属である銅を光触媒として用いて、アルケン活性化を基盤とする持続可能な有機合成化学的手法の開発がさらに加速すると予想されます。

資金情報

本研究は、以下の助成[JSPS科研費(22H05368, 24H01083, 22K19032, 25K01769, 22H05377, 24H01092, 24H01861, 24K17682)、JSPS地域中核・特色ある研究大学強化促進事業(J-PEAKS)(JPJS00420230010)、前川報恩会学術研究助成(A3-24006)、岩谷直治記念財団岩谷科学技術研究助成、高橋産業経済研究財団研究助成]を受けて実施しました。
また、本論文は岡山大学「インパクトの高い国際的な学術雑誌へのAPC支援」を受けています。

用語解説

※1 アルケン:炭素同士が二重結合でつながった有機分子の総称であり、石油化学や材料化学の基盤となる重要な分子群です。主に石油精製において重油留分をクラッキング(分解)することで大量に生産され、プラスチックや化学製品の原料として広く利用されています。
※2 水酸基:酸素原子(O)と水素原子(H)からなる「 –OH」という構造(官能基)で、分子に水となじみやすい性質や、特徴的な反応性を与えます。医薬品や高分子材料といったさまざまな機能性分子の性質を左右する、重要な要素です。
※3 マルコフニコフ則:分子の中で「どの場所にどの原子がつくか」を予測するための経験則です。アルケンに塩化水素( HCl)や水 H2O)などの分子が反応するとき、 二重結合をつくっている二つの炭素原子のうち、 もともと 水素原子がより多くついている側 に、新しく水素Hが結合した生成物(マルコフニコフ型生成物が主に得られ るという傾向があります。 一方、 逆マルコフニコフ則とは、通常のマルコフニコフ則とは逆に、水素がより少ない側の炭素原子に、新たに水素原子が結合した生成物(逆マルコフニコフ型生成物が主に得られることを表します。
※4 水和反応:主にアルケンに水を付加してアルコールを生成する反応のことです。通常、酸触媒下で行われ、マルコフニコフ則にしたがったアルコールが得られます。

掲載誌情報

【発表雑誌】 Nature Communications
【論文名】 Photooxidative Copper(II) Catalysis for Promoting anti-Markovnikov Hydration of Alkenes
【著者】 Naoki Oku, Keito Fuke, Rikako Masui, Ken Yamazaki, Yasunori Matsui, Hiroshi Ikeda, and Tomoya Miura
【掲載URL】 https://www.nature.com/articles/s41467-026-69807-0

報道に関する問い合わせ先

大阪公立大学 広報課
TEL:06-6967-1834
E-mail:koho-list[at]ml.omu.ac.jp

※[at]を@に変更してください。

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