最新の研究成果

肝線維化の新たな治療標的を発見 ~最先端の解析技術で凍結組織からSEMA4DとLMCD1を特定~

2026年4月16日

  • 医学研究科
  • プレスリリース

発表者

大阪公立大学大学院医学研究科 グローバル教育・医療学 Le Thi Thanh Thuy(レ・ティ・タン・トゥイ)准教授、肝癌治療学・生体恒常性制御学寄附講座 河田 則文特任教授、肝胆膵病態内科学 Pham Minh Duc(パム・ミン・ドック)大学院生

概要

本研究グループは、Single-cell Fixed RNA Profiling (FLEX)※1という最新技術を用い、マウスの凍結肝臓組織から約38,000個の細胞を解析した結果、タンパク質SEMA4D※2およびLMCD1※3が肝線維化を促進する重要な因子であることを特定しました。また、SEMA4Dを阻害する抗体を投与することで、肝線維化が改善することを実証しました。

本研究成果は、2026年2月11日に国際学術誌「JHEP Reports」にオンライン掲載されました。

ポイント

  1. 従来の解析法では困難であった凍結肝臓組織の遺伝子解析について、1細胞単位でRNAの量や種類の解析が可能な最新技術FLEXを用いた。
  2. マウスの凍結肝臓組織から約38,000個の細胞を解析したところ、マクロファージから分泌されるタンパク質SEMA4Dと、肝星細胞※4で働くタンパク質LMCD1が、肝臓の線維化を悪化させる原因であることを突き止めた。
  3. SEMA4Dに対する抗体(VX15/2503)を投与することで、マウスの肝線維化が改善した。

pr20260413_thuy02 図 肝線維化の進行に関わる細胞地図(アトラス)

本研究において、SEMA4DとLMCD1が肝線維化を促進する因子であること、またSEMA4Dに対する抗体(VX15/2503)を投与すると肝線維化が改善することを突き止めた。

<研究者のコメント>

肝硬変や肝線維化は世界中で多くの患者さんが苦しんでいますが、線維化した肝臓を元の柔らかい状態に戻す特効薬はまだありません。今回、FLEXという画期的な技術を用いることで、これまで解析が難しかった脆弱な肝細胞も含め、病態の全容を詳細に捉えることができました。発見したSEMA4DやLMCD1を標的とすることで、肝線維化を『治す』新しい治療薬の開発につながることを期待しています。

pr20260413_thuy01レ・ティ・タン・トゥイ准教授

研究の背景

肝臓は「沈黙の臓器」と呼ばれ、我慢強い臓器ですが、ウイルスやアルコール、脂肪肝などが原因で炎症が続くと、傷ついた組織を修復しようとして線維(コラーゲン)が蓄積し、肝臓が硬くなる肝線維化が起こります。これが進行すると肝硬変や肝がんになります。これまで、線維化が進む仕組みについては研究が進んでいましたが、一度硬くなった肝臓がどのようにして元の状態に治るのかという線維化の改善・消退については、よく分かっていませんでした。その理由の一つに、肝臓を構成する細胞、特に肝細胞は非常に壊れやすく、生きたまま取り出して詳しく調べることが難しいという技術的な課題がありました。

研究の内容

本研究グループは、Single-cell Fixed RNA Profiling (FLEX) という、組織を凍結保存して細胞を固定してから解析できる最新技術を導入しました。これにより、肝臓内のあらゆる細胞の動きや相互作用を、時間を止めた状態で正確に読み解くことが可能になりました。そして、薬剤(チオアセトアミド)の投与によって肝線維化を起こさせたマウスと、そこから改善させたマウスの肝臓を用いて解析を行いました。 その結果、線維化が改善する時期に特異的に現れ、肝臓の解毒機能や抗酸化作用を高めて組織の修復を助ける回復期肝細胞(recoHEPs)を見つけました。また、免疫細胞であるマクロファージがSEMA4Dというタンパク質を分泌し、これがコラーゲンを作る肝星細胞にある受け皿(Plexin B2受容体)に結合することで、線維化を促進させる、つまり肝星細胞を活性化させる指令を出していることを発見しました。そして、肝線維化モデルマウスにSEMA4Dの働きを阻害する抗体(VX15/2503)を投与したところ、肝星細胞の活性化が抑えられ、劇的に線維化が改善しました。さらに、肝星細胞の中でLMCD1というタンパク質が増えると、細胞が活発になり続け、線維化が悪化することが分かりました。ヒトでの確認において、脂肪肝やC型肝炎による肝線維化患者の肝生検組織を調べたところ、線維化が進んでいる組織は、SEMA4DやLMCD1の発現量が高いことが確認されました。

期待される効果・今後の展開

本研究により、肝線維化の進行と改善に関わる細胞地図(アトラス)が完成しました。特にSEMA4DとLMCD1は、肝硬変の新しい治療薬のターゲットとして非常に有望です。現在、肝線維化に対する特効薬は存在しませんが、これらの分子を標的とした創薬が進めば、肝硬変患者の予後改善に大きく貢献できる可能性があります。また、凍結組織から高精度な解析ができるFLEX技術の有用性が示されたことで、世界中の病院に保管されている貴重な検体を用いた研究が加速することも期待されます。

資金情報

本研究は、日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業(JP22K08083、J192640002)、日本医療研究開発機構(AMED)肝炎等克服実用化研究事業(研究開発課題名:肝微小血管構成細胞由来セクトリームとその関連遺伝子のバイオインフォマティックス解析に基づく肝硬変の分子理解と治療法開発 課題番号:24fk0210107h0003)、および文部科学省国費外国人留学生奨学金の支援を受けて実施しました。

用語解説

※1 Single-cell Fixed RNA Profiling (FLEX):凍結した組織などから細胞を取り出し、固定処理を行ってから、一つ一つの細胞が持つ遺伝子情報(RNA)を網羅的に解析する技術。壊れやすい細胞や、過去に採取され冷凍保存されていた検体の解析に威力を発揮する。

※2 SEMA4D:セマフォリン4D。免疫システムの調節などに関わるタンパク質。本研究により、マクロファージから分泌され、肝星細胞を刺激して線維化を進める悪玉として働くことが新たに判明した。

※3 LMCD1:細胞内の遺伝子発現を調節するタンパク質(転写因子共役因子)。本研究で、肝星細胞の活性化状態を維持し、線維化を悪化させる役割を持つことが明らかになった。

※4肝星細胞(かんせいさいぼう):肝臓にある細胞の一種で、通常はビタミンAを貯蔵している。肝臓が傷つくと活性化してコラーゲンを大量に作り出し、肝線維化の主因となる。

掲載誌情報

【発表雑誌】 JHEP Reports

【論文名】 Single-cell fixed RNA profiling uncovers SEMA4D and LMCD1 as therapeutic targets in a liver fibrosis model

【著者】 Pham Minh Duc, Le Thi Thanh Thuy, Hoang Hai, Tran Van Bao, Nguyen Thi Ha, Pham Tuan Anh, Hiroko Ikenaga, Hideki Fuji, Kanako Yoshida, Masaru Enomoto, Sawako Uchida-Kobayashi, Hideto Yuasa, Tsutomu Matsubara, Vu Thuong Huyen, Yi Cheng, Ryota Yamagishi, Naoko Ohtani, Daisuke Oikawa, Fuminori Tokunaga, Tatiana Kisseleva, David A Brenner, Yasuko Iwakiri, Jordi Gracia-Sancho, and Norifumi Kawada

【掲載URL https://doi.org/10.1016/j.jhepr.2026.101783

研究内容に関する問い合わせ先

大阪公立大学大学院医学研究科
准教授 Le Thi Thanh Thuy(レ・ティ・タン・トゥイ)
E-mail: thuy[at]omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。

報道に関する問い合わせ先

大阪公立大学 広報課
担当:谷
TEL:06-6967-1834
E-mail:koho-list[at]ml.omu.ac.jp
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