最新の研究成果
“おにクル”を中心にウォーカブルな中心市街地へ~文化・子育て複合施設の開館効果を検証~
2026年4月24日
- 生活科学研究科
- プレスリリース
発表者
大阪公立大学大学院生活科学研究科都市科学研究室 加登 遼准教授、前田 脩太大学院生(研究当時:大阪公立大学生活科学部4年)
概要
本研究グループは、大阪府茨木市の中心市街地に2023年に開業した文化・子育て複合施設「おにクル※1」を事例に、GPSの人流ビッグデータ※2を用いて、複合施設の開業が周辺エリアにおける市民の滞在行動に与える影響を分析しました。
その結果、おにクルを利用した市民グループは、茨木市中心市街地における週あたりの滞在回数※3が有意に増加したことが明らかになりました。一方で滞在密度の増加は、中心部全体に均一に広がるのではなく、特定のエリアに選択的に集中していることが確認されました。
本研究成果は、2026年4月3日に国際学術誌「Cities」にオンライン掲載されました。
ポイント
- おにクルを利用した市民(滞在グループ)では、中心市街地における週あたりの滞在回数が平均で約0.471回増加した。
- 滞在密度の増加は、おにクル周辺および隣接する商店街エリアに集中し、JR茨木駅周辺では低下していることが確認された。
- 建築スケール(建物スケール)の複合施設の開業効果を、傾向スコアマッチング(PSM)※4と差の差分析(DID)※5を組み合わせた準実験デザインと人流ビッグデータにより定量的に実証した。
ウォーカブルな都市デザインは、全国各地で実施され始めていますが、それらの効果検証の方法は確立されていません。本研究は、スマートフォンの人流ビッグデータを用いて、今まで困難とされてきた建築スケールのウォーカブルな都市デザインの効果を測ることを可能にした成果です。
前田 脩太大学院生、加登 遼准教授研究の背景
人口減少や少子高齢化が進む日本において、郊外都市の中心市街地はモータリゼーションの進展や大型商業施設の郊外立地により、歩行者の来街・滞在行動の減少という課題に直面しています。こうした中、老朽化した公共施設(図書館・市民ホール等)を集約し、複合施設として中心市街地に再配置する取り組みが全国各地で進められています。都市計画の分野では、こうした施設が周辺地域の活性化を誘発する「都市の触媒効果(Urban Catalytic Effect)」が理論的に論じられてきましたが、施設内部の来訪者数増加にとどまらず、周辺エリアの滞在行動にまで波及する効果を実証的に検証した研究※6は限られていました。特に、大都市中心部ではなく郊外都市の中心市街地における実証的エビデンスは極めて少ない状況でした。
研究の内容
本研究は、2023年11月に開業した茨木市文化・子育て複合施設「おにクル」を対象とした準実験研究です。
分析には、人流ビッグデータを用いて滞在場所を抽出しました。そして、茨木市民のうち、おにクルエリアに滞在した「滞在グループ」と、滞在しなかった「非滞在グループ」を設定し、傾向スコアマッチングにより性別・年齢・職業・通勤手段・学歴・世帯構成・収入等の交絡要因を調整した上で、差の差分析によって開業の効果を推計しました。
分析の結果、滞在グループでは、中心市街地における滞在回数が0.471回/週(95%信頼区間:0.336~0.607回/週、p < 0.01)有意に増加しました。さらに、カーネル密度推定※7による空間分析を行ったところ、滞在密度の増加は、おにクルおよび阪急茨木市駅・商店街エリアに集中する一方、JR茨木駅周辺では低下していることが明らかになりました。この結果は、おにクルの開業が中心部全体を一様に活性化したのではなく、滞在行動の空間的な再配置をもたらしたことを示しています。これは、「空間的に選択的なアーバンカタリスト効果※8」と整合するものです。

図:おにクルの開業により市民の滞在が増加したエリア
期待される効果・今後の展開
本研究は、複合施設の開業が単純に「施設を作れば地域が活性化する」という図式では説明できず、施設の立地特性や周辺の歩行環境・都市構造との接続性によって、効果の空間的な現れ方が異なることを実証的に明らかにしました。これは、全国の自治体が進める公共施設の複合化・集約化の計画において、施設配置と周辺の歩行者ネットワークを一体的に設計することの重要性を示す知見です。
おにクルの北側では、第2期整備を控えています。それを踏まえて、都市科学研究室は、中心市街地における社会実験への協力や、おにクルの長期的な効果検証や、他エリアへの展開などを進めてまいります。
資金情報
本研究は、JSPS科研費(24K17421)の支援を受けて実施しました。
用語解説
※1 おにクル:ホール、図書館、子育て支援施設、プラネタリウム、市民活動センターを統合した複合施設。
※2 人流ビッグデータ:スマートフォンの位置情報や通信機器の接続情報などを匿名化して集計し、特定エリアに「いつ・どこに・どれだけの人がいたか」や、人々の移動傾向を把握できるデータの総称。本研究では、Geo-Technologies社のGPSの人流ビッグデータを利用した。
※3 滞在の定義:150m圏内に15分以上滞在した場合を「滞在」と定義した。本研究では、人流データ分析に特化した Python ツール「Scikit-mobility」のアルゴリズムを用いて滞在地点を抽出した。
※4 傾向スコアマッチング:処置群(滞在グループ)と統制群(非滞在グループ)の間で、年齢・性別・職業などの属性が統計的に同等になるよう対象者を選定する手法。選択バイアスの軽減に用いられる。
※5 差の差分析:介入(施設開業)の前後における処置群と統制群の変化量の差を比較することで、介入の因果効果を推定する統計手法。時間的なトレンドの影響を除去できる利点がある。
※6 検証事例:プレスリリース「茨木市文化・子育て複合施設「おにクル」の開館効果を検証 -ウォーカブルな中心市街地へ-」(https://www.omu.ac.jp/info/research_news/entry-15437.html)
※7 カーネル密度推定:各滞在地点にカーネル関数を適用し、滞在密度の空間的な分布を連続的な面として可視化する手法。ホットスポット(高密度地域)やコールドスポット(低密度地域)の特定に用いられる。
※8 アーバンカタリスト効果:新たに整備された施設が“触媒”となり、周辺エリアの人流や商業活動、市民活動などに連鎖的な変化をもたらす現象。
掲載誌情報
【発表雑誌】 Cities
【論文名】 Urban catalytic effect of opening of a multifunctional facility on stay behavior using GPS trajectory data: Quasi-experimental case study of “ONIKURU” in suburban city center
【著者】 Shuta Maeda, Haruka Kato
【掲載URL】 https://doi.org/10.1016/j.cities.2026.107044
研究内容に関する問い合わせ先
大阪公立大学大学院生活科学研究科
准教授 加登 遼(かとう はるか)
E-mail:haruka-kato[at]omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。
報道に関する問い合わせ先
大阪公立大学 広報課
担当:久保
TEL:06-6967-1834
E-mail:koho-list[at]ml.omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。
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