最新の研究成果
フォトンアップコンバージョン用の新規分子を開発 ~太陽電池や光触媒への応用が期待~
2026年4月28日
- 工学研究科
- プレスリリース
発表者
大阪公立大学大学院工学研究科 長岡 朋希大学院生(研究当時)、松井 康哲准教授、池田 浩教授
概要
本研究グループは、三重項–三重項消滅(TTA)※1を利用したフォトンアップコンバージョン(PUC)※2を弱い励起光照射条件でも高効率で実現できる三重項エネルギーアクセプター分子「TP-An」を新たに開発しました。TP-Anは、高い蛍光量子収率※3と長い励起三重項状態※4の寿命を示し、光触媒や光化学反応の光源などへの応用が期待されます。
本研究成果は、2026年4月6日に国際学術誌「Journal of the Physical Chemistry Letters」にオンライン掲載されました。
図1 新規アクセプターTP-Anの分子構造とフォトンアップコンバージョン
ポイント
- TP-Anは99%以上の高い蛍光量子収率で紫色蛍光を示し、励起三重項状態の寿命が約650マイクロ秒と従来の関連分子と比べて大幅に向上した。
- 1mMの高濃度条件でも蛍光量子収率96%を維持し、TTA-PUCに適した分子設計であることを示した。
- 一般的な三重項エネルギードナーである白金オクタエチルポルフィリンとTP-Anを組み合わせたところ、緑色光から紫色光へのTTA-PUCを実現し、約23%の高いPUC量子収率と低いしきい励起光強度※5を示した。
研究者コメント
対称性に注目した分子デザインにより、高効率アップコンバージョンが達成できました。今後は固体系や可視―紫外変換への展開を考えています。

長岡 朋希大学院生、松井 康哲准教授、池田 浩教授
研究の背景
光の有効利用はエネルギー問題の観点から非常に重要ですが、太陽電池や光触媒などは、利用可能な波長領域が限られており、材料が吸収可能な波長よりも長い波長の光は透過してしまい、エネルギーとして利用することはできません。
そこで、長波長(低エネルギー)の光を短波長(高エネルギー)の光に変換する「フォトンアップコンバージョン(PUC)」という技術に注目が集まっています。
すでに、レーザー光などの高強度の光のPUCができる技術は数多くありますが、特に太陽光などの弱い(低密度の)光のPUCが可能な「三重項–三重項消滅(TTA)」を利用したTTA-PUCは次世代のエネルギー変換技術として期待されています。一般にTTA-PUCは三重項エネルギーのドナーとアクセプターの組み合わせで観測され、アクセプターとしてはこれまで、ペリレンやルブレン、9,10-ジフェニルアントラセンなどの芳香族分子が知られていました(図2)。PUCの特性は、変換効率の指標である量子収率と、太陽光などの弱い光を変換できるかの指標であるしきい励起光強度で評価されますが、特に高効率なTTA-PUCが可能なアクセプター分子は、ほとんど9,10-ジフェニルアントラセンに限られていました。

図2 これまでに報告された代表的なTTA-PUC用アクセプター分子の構造とTP-Anの比較
研究の内容
本研究では、新規アクセプター分子として「対称性の高い分子構造」を有する母骨格で、比較的高い蛍光量子収率(86%)を示す1,4-ジアリール1,3-ブタジエン(BD-An、図3)に着目しました。このような分子は、高い対称性を持つ一方で、PUCに必要な励起三重項状態の寿命が約5マイクロ秒と短く、そこが改善点として考えられました。そこで、高い対称性を保ったまま五員環を縮環させ、剛直な分子構造をもたせた新規アクセプターTP-Anを設計しました。

図3 本研究の分子設計指針
実際にTP-Anを合成し物性を測定した結果、99%以上の蛍光量子収率で紫色蛍光を示しました(図4a)。また、狙い通りに励起三重項寿命が約650マイクロ秒にまで伸びていました。これらは、TP-Anの剛直かつ対称性の高い分子構造を強く反映した結果です。一般的な有機分子は高濃度の条件では発光のブロード化や蛍光量子収率の低下を伴いますが、TP-Anは1mMという高濃度でも蛍光量子収率は96%と非常に高い値を維持しました。これは、4つのメチル基を導入していることで、過度な相互作用を抑制していることが、TTA-PUCに適した環境を保っていると考えられます。
一般的なエネルギードナーである白金オクタエチルポルフィリン(PtOEP)を用い、TP-Anを含むトルエン溶液に緑色光を照射したところ、紫色の発光が観測され、TTA-PUCを発現しました(図4b)。さらに、PUC量子収率の評価を行ったところ、最大で約23%という非常に高い値を示すことが明らかになりました。これまでに報告された最も高いPUC量子収率は9,10-ジフェニルアントラセンの約24%とされており、TP-Anの物性はそれにほぼ匹敵する値になります。加えて、しきい励起光強度が10 mW/cm2程度であり、これは弱い光でも比較的高い値を示しています。これらの結果から、TP-Anは緑色光を紫色光に変換できるため、光触媒反応や太陽電池への応用としても優れたポテンシャルがあることが示されました。

図4 (a)低濃度(灰色)と高濃度(青色)のTP-An溶液の蛍光スペクトルと蛍光量子収率
(b)PtOEPを含むTP-An溶液のPUC写真とPUC量子収率
期待される効果・今後の展開
分子レベルの剛直性や対称性に基づいた精密なマテリアルデザインは、基礎化学的な内容だけでなく、応用展開においても重要であることを改めて確認しました。本研究チームは、幅広い光波長変換に対応したPUC材料の開発(可視→紫外、近赤外→可視など)や、固体でも高効率なPUCを実現する材料開発を視野に入れており、将来的には、光触媒、光化学反応、太陽光利用技術など、幅広い分野での応用が期待されます。
資金情報
本研究の一部は、科学研究費助成事業(科研費)、日本学術振興会特別研究員奨励費、大阪公立大学戦略的研究支援事業、コニカミノルタ科学技術振興財団、戸部眞紀財団、服部報公会、熱・電気エネルギー技術財団、カシオ科学振興財団、前川報恩会、松籟科学技術振興財団からの支援を受けて行われました。
用語解説
※1 三重項–三重項消滅(TTA):励起三重項状態の分子同士が衝突し、励起一重項状態の分子が生成する過程。
※2 フォトンアップコンバージョン(PUC):長波長(低エネルギー)の光子を短波長(高エネルギー)の光子に変換する技術。太陽光発電や光触媒への応用が期待されている。
※3 量子収率:吸収した光子数に対し、蛍光によりいくつの光子を放出したかの割合を示す指標。蛍光の量子収率は最大100%であるが、TTA-PUCでは2光子を1光子に変換するため、最大で50%となる。
※4 励起三重項状態:分子が光を吸収した後に到達する励起状態の一種。通常の励起状態(一重項)より寿命が長く、TTA-PUCにおいて重要な役割を果たす。
※5 しきい励起光強度:TTA-PUCには2光子が関与するため、光の強度が高い方が起こりやすいが、太陽光などの弱い光を変換できるほうが実用的である。しきい励起光強度は、どの程度の強度の光を高効率で変換可能かを示す指標である。
掲載誌情報
【発表雑誌】 The Journal of Physical Chemistry Letters
【論文名】 A Symmetric and Rigid Tetrahydropentalene Derivative as an Ideal Acceptor for Efficient Triplet–Triplet Annihilation-Assisted Photon Upconversion
【著者】 Tomoki Nagaoka, Yasunori Matsui, Takuya Ogaki, Hiroshi Ikeda
【掲載URL】 https://doi.org/10.1021/acs.jpclett.6c00660
研究内容に関する問い合わせ先
大阪公立大学大学院工学研究科
教授 池田 浩(いけだ ひろし)
TEL:072-254-9289
E-mail: hiroshi_ikeda[at]omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。
報道に関する問い合わせ先
大阪公立大学 広報課
担当:久保
TEL:06-6967-1834
E-mail:koho-list[at]ml.omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。
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