最新の研究成果
数の知覚は直前の刺激に左右される ~視覚と聴覚をまたぐ系列依存性を検証~
2026年5月7日
- 現代システム科学研究科
- プレスリリース
発表者
大阪公立大学大学院現代システム科学研究科 牧岡 省吾教授、橋本 拓磨大学院生(研究当時)
概要
本研究グループは、ヒトが直前に見たり聞いたりした数が、その後に行う数の判断に影響を及ぼす現象の「系列依存性」について検証しました。実験では、視覚と聴覚の両方において断続的な刺激という形式で数を提示したところ、視覚と聴覚の両方向で系列依存性が確認されました。二つの感覚の間で系列依存性が生じるということは、脳における処理の比較的高次な段階で起こることを示唆しています。
本研究成果は、2026年3月18日に国際学術誌「Acta Psychologica」にオンライン掲載されました。
図1 実験の流れ(聴覚→視覚の場合)
図中の矢印は時系列を表す。
ポイント
- 直前の刺激が、その後の数の感じ方に影響するかについて、学生78人を対象に検証。
- 断続的なホワイトノイズと、画面上の白い円の点滅を、「数」の情報を含んだ同じ形式の刺激として実験に用いた。
- 聴覚→視覚の向きにも、視覚→聴覚の向きにも系列依存性が見られた。
- 系列依存性が脳における処理の比較的高次な段階で起こることを示唆。
<研究者のコメント>
この研究結果は、系列依存性という現象の性質を示すだけでなく、系列依存性の境界条件を通して、数の知覚メカニズムの複雑さも示唆しています。これを足がかりに、複雑であるがゆえに面白い、人間の知覚について探究を続けていきます。
橋本 拓磨氏
研究の背景
ヒトの眼や耳に入る情報は、眼や身体の動き、神経系の信号に含まれるノイズなどによって激しく変動しています。しかしヒトは、それらの変動に気付くことなく安定した世界を感じることができます。これを実現するためのメカニズムの一つとして「系列依存性」が注目されています。系列依存性とは、現在の知覚が過去の知覚に引き寄せられる現象のことで、たくさんの点が散らばる画面を見た後には、画面上の点の数の推定値が多くなることなどが知られています。
従来の研究では、数の系列依存性は一つの感覚の中だけで生じ、異なる感覚間では生じないとされていました。しかし、一つの対象から視覚と聴覚の両方の情報を受け取ることは、日常生活ではよく起こります。例えば、池に降る雨を眺めていると、水面の波紋と雨音の情報が同時に入ってきます。このとき、波紋が多いほど雨音も多く感じる傾向があります。また、蛇口から滴る水、机から落ちる書類などでも、同じようなことが起こります。そこで、本研究グループは、異なる感覚間で数の系列依存性が生じる場合もあるのではないかと考えました。
研究の内容
本研究における実験では、断続的なホワイトノイズと、画面上の白い円の点滅を「数」の情報を含んだ刺激として用いました。実験参加者は、参照刺激とプローブ刺激のどちらの数が多いかを答えます(図1)。簡単に数が分かると正答率が100%となり実験として成立しないため、刺激を高速で提示し、どちらが多いのかをおおよそ判断できる程度の難易度に設定しました。
実験では、参照刺激の前に誘導刺激を提示します。誘導刺激の数は参照刺激より多い場合と少ない場合があります。誘導刺激が多い方が参照刺激の数が多く感じられるならば、系列依存性が生じたと言えます。視覚—聴覚間の双方向で系列依存性が生じるかどうかを確かめるために、誘導刺激:聴覚→参照刺激・プローブ刺激:視覚と、誘導刺激:視覚→参照刺激・プローブ刺激:聴覚の条件を設けました。
視覚と聴覚の間で数の系列依存性が起こるかどうかは、先行研究でも調べられていましたが、系列依存性は確認されませんでした。先行研究では視覚刺激の数は画面上に散らばる点の数で表し、聴覚刺激の数は断続的な音の数で表されていたため、数の提示形式が揃っていないことが原因で系列依存性が見られなかった可能性があります。そのため本研究では、視覚と聴覚の両方で、断続的な刺激の数という形式で数を表すことにしました。
実験には大阪公立大学の学生78人が参加しました。その結果、聴覚→視覚の向きにも、視覚→聴覚の向きにも、系列依存性が生じることが分かりました(図2)。これは従来の見方を覆す重要な発見で、感覚間で系列依存性が生じることは、系列依存性が脳における処理の比較的高次な段階で起こることを示唆しています。また提示形式を揃えたときに系列依存性が生じることは、「時間的な断続による数」に関する抽象的な表現が脳内に存在することを意味する可能性があります。

図2 実験の結果。横軸は誘導刺激の数、縦軸は参照刺激とプローブ刺激の数が同じぐらいに感じられたときのプローブ刺激の数を示している。参照刺激の数は、実際に常に13個だった。誘導刺激が19個のとき、縦軸の値は有意に大きくなっている。これは、誘導刺激に近い方に、参照刺激の数の知覚が引き寄せられたことを意味する。グラフの左側は聴覚→視覚、右側は視覚→聴覚の場合を示している。Hashimoto, T., & Makioka, S. (2026). Serial dependence in numerosity perception generalizes across different sensory modalities: evidence from sequential numerosity comparison. Acta Psychologica, 265, 106691, Fig,2より引用。
期待される効果・今後の展開
本研究は、激しく変動する感覚情報から安定した外部世界の姿をどのように知覚するのか、という古来の哲学・心理学における問いを解明しようとするものです。同時にこの研究は、センサからの変動する情報を基に身体を持つAI(ロボット)が安定した外部世界をどのように認識するのかという技術的な問題の解決にも寄与します。今後は、感覚の違いを抽象化した情報が脳内でどのように作られているのかという問題に取り組んでいく必要があります。
資金情報
本研究は、JSPS科研費JP24K15679、JP25KJ1142の支援を受けて実施しました。
掲載誌情報
【発表雑誌】 Acta Psychologica
【論文名】 Serial dependence in numerosity perception generalizes across different sensory modalities: evidence from sequential numerosity comparison.
【著者】 Takuma Hashimoto, Shogo Makioka
【掲載URL】 https://doi.org/10.1016/j.actpsy.2026.106691
研究内容に関する問い合わせ先
大阪公立大学大学院現代システム科学研究科
教授 牧岡 省吾(まきおか しょうご)
E-mail:makioka[at]omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。
報道に関する問い合わせ先
大阪公立大学 広報課
担当:谷
TEL:06-6967-1834
E-mail:koho-list[at]ml.omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。
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