最新の研究成果

白斑で失われるメラノサイト機能は回復可能~基底膜接着異常と可逆的脱分化機構を新たに発見~

2026年5月20日

  • 医学研究科
  • プレスリリース

発表者

大阪公立大学大学院医学研究科 片山 一朗特任教授、楊 伶俐特任准教授

概要

本研究グループは、尋常性白斑皮膚において、従来はメラノサイト※1が消失していると考えられていた部位においても、メラノサイトが完全に失われているのではなく、脱分化※2した状態で存在していることを明らかにしました。さらにこれらのメラノサイトは、通常とは異なる基底膜※3との接着様式を示し、その結果として色素産生能の低下や脱分化様状態への移行が起こることを明らかにしました。また、この脱分化は可逆的であり、治療介入により機能回復が可能であることが示されました。
本研究は、尋常性白斑の新たな発症機構を解明するとともに、これまでとは異なる治療戦略の開発につながる可能性を示すものです。
本研究成果は、2026年4月17日に国際学術誌「Nature Communications」にオンライン掲載されました。

ポイント

  1. 正常皮膚では、ラミニン211とジストログリカンを介したメラノサイトと基底膜の接着が維持されている一方で、尋常性白斑皮膚ではラミニン332とインテグリンα3β1を介した接着へと変化していることが明らかに。
  2. 接着環境の変化により、メラノサイトの色素産生能の低下や、脱分化様状態への移行が起こることを確認。
  3. 脱分化は薬理学的介入やJAK阻害4により元の状態へ戻り、色素産生能が回復するという可逆性も確認。

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<研究者コメント>

今回の研究を通して、尋常性白斑の新たな発症機構の一端を明らかにすることができました。本研究により、失われた色素が再び回復する可能性が示されたことは、大きな意義があると考えています。多くの患者さんに希望を届けられるよう、今後も研究を続けていきます。

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楊 伶俐特任准教授

研究の背景

尋常性白斑は、皮膚に色素がなくなることで白い斑点が生じる疾患であり、世界中で多くの人が悩んでいます。しかし、なぜ皮膚の色を作るメラノサイトが消失してしまうのか、その詳しい原因はまだ十分には解明されていません。これまで、自己免疫などによるメラノサイトの破壊が主な原因と考えられてきましたが、それだけでは説明できない現象も多く、他の仕組みの関与が示唆されていました。特に、メラノサイトが存在する基底膜やその周囲の環境(微小環境)がどのように変化しているのかについては、十分に分かっていませんでした。
そこで本研究では、基底膜ニッチ※5に着目し、その構造や構成成分の変化がメラノサイトの維持にどのような影響を与えるのかを明らかにすることを目的としました。

研究の内容

本研究では、尋常性白斑患者の皮膚組織および正常皮膚を用いて、メラノサイトの維持機構の変化を詳細に解析しました。まず、免疫染色および近接ライゲーションアッセイ(PLA)※6を用いて、基底膜構成成分とメラノサイト接着分子の変化を解析しました。その結果、正常皮膚ではラミニン211とジストログリカンを介した接着が維持されている一方で、白斑皮膚ではラミニン332とインテグリンα3β1を介した接着へと変化していることが明らかとなりましたさらに免疫電子顕微鏡解析により、白斑皮膚では基底膜とメラノサイトの接着構造そのものが変化していることを高解像度で確認しました。
次に、この接着様式の変化がメラノサイトの性質に与える影響を調べるため、ヒトメラノサイト培養系および3次元再構築皮膚モデルを用いて解析を行いました。その結果、接着環境の変化により、メラノサイトの色素産生能が低下し、神経堤様※7に似た脱分化様状態へ移行することが確認されました。
さらに、RNAシーケンス解析および空間トランスクリプトーム解析※8により、この過程において細胞骨格(Rho-F-actin)の再編成やHippo、MAPK、c-Junシグナルの変化が関与していることを明らかにしました。
最後に、これらの変化が可逆的かどうかを検討したところ、薬理学的介入やJAK阻害により、脱分化したメラノサイトが再び分化し、色素産生能を回復することが確認されました。
これらの結果から、基底膜ニッチの変化によりメラノサイトの接着様式が変化し、脱分化様状態を経てメラノサイトの色素産生能が低下することが分かりました。また、この変化が可逆的であることも明らかとなりました。

期待される効果・今後の展開

本研究は、尋常性白斑の新たな発症機構を解明するとともに、新しい治療法の開発に貢献するものと期待されます。特に、メラノサイトの脱分化状態が可逆的であることから、薬理学的介入やJAK阻害により色素細胞の機能回復を促す治療法の可能性が示されました。なお、本研究成果に関連する技術については特許出願済みであり、今後の臨床応用に向けた展開が期待されます。今後は、臨床研究を進め、この治療法の有効性と安全性について検証していく必要があります。

資金情報

本研究は、JSPS科研費「基盤研究(C)(課題番号:22K08409・18K08267)」および部門プロジェクト費用の助成を受けて実施しました。

用語解説

※1 メラノサイト:皮膚に色素(メラニン)を産生、供給する細胞であり、その減少や消失により白斑が生じる。

※2 脱分化:分化した細胞が未分化に近い状態へと変化する現象。

※3 基底膜:表皮と真皮をつなぐ薄い膜のような構造。皮膚の構造と機能を保つ役割がある。

※4 JAK阻害:炎症を引き起こすシグナル伝達に必要な酵素「JAK(ヤヌスキナーゼ)」の働きを薬で抑える治療法。

※5 基底膜ニッチ:基底膜および周囲の細胞や細胞外マトリックスからなる微小環境であり、細胞の生存、分化、機能を制御する役割を担う。ニッチとは、特定の細胞の運命や機能が周囲環境によって調節される局所的な場を指す。

※6 近接ライゲーションアッセイ(PLA):タンパク質間相互作用やタンパク質修飾を、細胞や組織中で高い特異性と感度で検出できる手法。

※7 神経堤様:細胞が発生初期の「神経堤細胞(neural crest cell)」に似た性質を示す状態。

※8 空間トランスクリプトーム解析:「組織切片の中で、どの細胞がどの遺伝子をどこで発現しているか」を地図のように可視化する解析手法。

掲載誌情報

【発表雑誌】 Nature Communications
【論文名】 Aberrant laminin signaling drives melanocyte dedifferentiation and unveils a tractable therapeutic target in vitiligo
【著者】 Fei Yang, Lingli Yang, Sylvia Lai, Masafumi Yokota, Yasutaka Kuroda, Takuo Yuki, Yoshito Takahashi, Tetsuya Sayo, Takeshi Namiki, Hiroyuki Goto, Sho Hiroyasu, Shigetoshi Sano, Shintaro Inoue, Yoichi Mizukami, Daisuke Tsuruta, Ichiro Katayama

【掲載URL https://doi.org/10.1038/s41467-026-72064-w

研究内容に関する問い合わせ先

大阪公立大学大学院医学研究科
特任准教授 楊 伶俐(よう れいり)
TEL:06-6556-7618
E-mail:yang.lingli[at]omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。

報道に関する問い合わせ先

大阪公立大学 広報課
担当:久保
TEL:06-6967-1834
E-mail:koho-list[at]ml.omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。

該当するSDGs

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