最新の研究成果
ウコン由来化合物が脂肪細胞形成を抑制~脂肪形成の「最初のスイッチ」を制御する新機構を解明~
2026年5月15日
- 生活科学研究科
- プレスリリース
発表者
大阪公立大学大学院生活科学研究科 荒木 涼菜大学院生、金 東浩准教授
概要
本研究グループは、ウコン由来成分のクルクミンを改良した新しい化合物が、脂肪細胞の形成を初期段階から抑制することを明らかにしました。本研究では、構造を最適化したクルクミン誘導体である「クルクミノイドIII」が、脂肪細胞が「できるかどうか」を決める初期スイッチを直接制御することで、脂肪の蓄積を有意に抑制することを発見しました。本成果は、脂肪ができる前の段階を標的とした新しい肥満予防の可能性を示すものであり、食品成分を活用した代謝制御の新たな戦略として期待されます。
本研究成果は、2026年4月18日国際学術誌「Nutrients」にオンライン掲載されました。
ポイント
- 構造を最適化したクルクミン誘導体が、脂肪細胞の形成を有意に抑制することを発見。
- 脂肪形成の「最初のスイッチ(分化初期段階)」を制御する新たな作用機構を解明。
- 「脂肪ができる前に止める」という、肥満や生活習慣病の予防につながる基礎的知見を提供。

図1. ウコン由来成分が脂肪づくりの最初のスイッチを制御して、脂肪形成を抑える
<研究者コメント>
先輩方の研究を引き継ぎながら、自分なりに解析を進める中で、脂肪がつくられるかどうかが非常に早い段階で決まることに驚きました。身近な食品に含まれる成分が、細胞の運命を左右する仕組みを持っているという点は大変興味深く、今後はこの知見が健康維持や疾患予防につながる研究へ発展していくことを期待しています。
荒木 涼菜大学院生
研究の背景
肥満は、糖尿病や心血管疾患などと深く関わる重要な健康課題であり、その原因の一つとして脂肪細胞の増加が挙げられます。脂肪は、既存の脂肪細胞が大きくなるだけでなく、新たに脂肪細胞がつくられる「脂肪細胞分化(アディポジェネシス)※1」によっても増加します。脂肪細胞分化は、複数の転写因子が段階的に働くことで進行し、特にPPARγ※2やC/EBPα※3といった因子が中心的な役割を担うと考えられてきました。一方で、これらの因子が働く前の「ごく初期段階」において、どのような仕組みが分化の開始を決めているのかについては十分に明らかになっていませんでした。
また、ウコン由来成分であるクルクミンは脂肪細胞分化を抑える作用がこれまでに報告されていますが、その詳細な作用機序や構造との関係については未解明な点が多く残されています。
これらの背景を踏まえ、本研究は「脂肪細胞分化はどの段階で決まるのか」「食品由来成分がどのようにその過程を制御するのか」という点を明らかにすることを目的としました。
研究の内容
本研究では、クルクミンの構造を改変した複数の誘導体を用い、脂肪細胞分化モデル(3T3-L1細胞)において、その作用を時間ごとに詳細に解析しました。その結果、脂肪細胞分化のごく初期段階(約0.5時間)において、特定の構造を持つクルクミノイドIIIが、脂肪細胞分化を抑制する働きを持つ転写因子KLF2の発現を上昇させることが明らかになりました。この変化により、その後に続くPPARγやC/EBPαなどの分化促進因子の発現が抑制されることも示されました。さらに、分化の中期(Day 3)では脂肪分化の中心的因子群が広く抑制され、後期(Day 7)では脂肪細胞の成熟指標であるaP2※4の発現が低下し、最終的に脂肪細胞の形成自体が抑制されることが確認されました。
これらの結果は、脂肪細胞分化が単なる連続的な過程ではなく、「初期段階の制御によって全体の進行が決まる」という仕組みであることを示しています。

図2. クルクミノイドIIIによる脂肪形成の濃度依存的な抑制
期待される効果・今後の展開
本研究は細胞を用いた基礎的研究ではありますが、食品に含まれる成分が体内でどのように細胞の運命を調節するのかを理解する上で、重要な手がかりを提供するものです。特に、脂肪細胞分化の「初期段階」に着目した今回の知見は、従来のように分化が進んだ後ではなく、「始まる前」の段階を制御するという新しい考え方につながる可能性があります。すなわち、本研究は、脂肪細胞分化を「進行した後に抑える」のではなく、「開始前に決定を変える」という新しい制御概念を提示するものです。
今後は、動物モデルやヒトにおける検証を進めることで、肥満や生活習慣病の予防に向けた新たなアプローチとしての応用が期待されます。一方で、本研究はin vitro系での解析であるため、生体内で同様の作用が起こるかどうかを明らかにすることが今後の課題です。今後は、クルクミノイドIIIの体内での安定性、代謝、吸収性を評価し、生体内で脂肪細胞分化制御に関与するかを検証する必要があります。
資金情報
本研究は、日本学術振興会(JSPS)科研費により実施されました。
用語解説
※1 脂肪細胞分化(アディポジェネシス):前駆細胞が、脂肪を蓄積する成熟脂肪細胞へと変化する過程のこと。
※2 PPARγ:脂肪細胞分化を促進する中心的な転写因子。
※3 C/EBP:脂肪細胞分化に関わる転写因子群で、PPARγと協調して働く。
※4 aP2:脂肪細胞の成熟を示す指標となるタンパク質。
掲載誌情報
【発表雑誌】 Nutrients
【論文名】 Structure–Activity Relationship and Stage-Dependent Inhibition of Adipogenesis by Curcuminoid Derivatives in 3T3-L1 Cells
【著者】 Suzuna Araki, Yumi Ueda, Hinako Ayabe, Rio Otsuka, Kengo Kohama, Kouta Maenishi, Changsun Choi, Sung-Kwon Moon, Toshiya Masuda, Miwako Deguchi, Shigeru Saeki and DongHo Kim
【掲載URL】 https://doi.org/10.3390/nu18081285
研究内容に関する問い合わせ先
大阪公立大学大学院生活科学研究科
准教授 金 東浩(キム ドンホ)
TEL:06-6167-1302
E-mail:apoer2[at]omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。
報道に関する問い合わせ先
大阪公立大学 広報課
担当:久保
TEL:06-6967-1834
E-mail:koho-list[at]ml.omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。
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