最新の研究成果

園芸療法が脳活動と自律神経活動に及ぼす影響を解明~生花アレンジメントが高齢者のストレス緩和に役立つ可能性~

2026年5月18日

  • リハビリテーション学研究科
  • プレスリリース

発表者

大阪公立大学大学院リハビリテーション学研究科 田崎 史江大学院生(兵庫県立大学大学院緑環境景観マネジメント研究科 准教授)、白岩 圭悟客員研究員(和泉大学大学院 リハビリテーション研究科 講師)、大類 淳也客員研究員(大阪保健医療大学 保健医療学部 講師)、阪口 満陽大学院生(りんくう総合医療センターリハビリテーションセンター)、内藤 泰男教授、石井 良平教授

概要

本研究グループは、高齢女性29名を対象に、生花と高品質な造花を使用したフラワーアレンジメント課題を実施し、実施中の脳波(EEG※1により測定)と心拍変動※2を測定・解析しました。その結果、生花を使用した場合は、副交感神経活動(CVI)が有意に上昇することが明らかになりました。この結果は、生花を使用したフラワーアレンジメントが高齢者のリラクゼーションやストレス緩和に寄与する可能性を示しています。

本研究成果は、2026年4月28日に国際学術誌「HortScience」にオンライン掲載されました。

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図:フラワーアレンジメント時の脳波と心電図を測定中の場面

ポイント

  1. 生花アレンジメント中は、高齢女性の左前頭葉において24 Hzのデルタ帯域3の脳活動が有意に増加した。
  2. 生花アレンジメント中は、造花条件よりも副交感神経指標(CVI)が有意に上昇し、交感神経(CSI)には変化がなかった。
  3. 多感覚な本物の植物を用いた活動が、高齢者のリラクゼーションやストレス緩和に役立つ可能性が示された

<研究者コメント>

本研究では、見た目の近い生花と造花を用い、「本物の植物素材」が心身に与える影響を検証した点が特徴です。園芸療法で使う植物の効果はこれまで経験的に知られてきましたが、本研究はその有用性を脳波や自律神経といった生理学的指標で裏付けた点に意義があります。

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田崎 史江大学院生

研究の背景

世界的に高齢化が進む中、薬に頼りすぎず高齢者の心身の健康を支える方法が求められています。その中で、植物や園芸活動を取り入れた「園芸療法」は、うつ症状の軽減や生活の質の向上などに効果があることが近年の研究から報告されています。日本でも、65歳以上の高齢者の余暇活動として「園芸・庭いじり・ガーデニング」が最も人気が高いことが全国調査で示されており、85歳以上でもその傾向は続いています。これは、多くの高齢者にとって、植物とかかわる活動が身近で続けやすいことを意味します。

しかし、生花を使った活動と、造花を使った活動とでは、実際に脳や自律神経にどのような違いが生じるのか、特に高齢者を対象とした研究はほとんどありませんでした。また、これまでの研究の多くは、主観的な気分評価や心拍のみを測定しており、「脳のどの部位がどのように反応しているのか」というメカニズムは十分に分かっていませんでした。

そこで本研究では、EEGによる脳活動の源推定(eLORETA※4)と心拍変動解析を組み合わせることで、生花と造花のフラワーアレンジメントがもたらす神経生理学的な違いを明らかにすることを目的としました。

研究の内容

本研究では、大阪在住の70歳以上の高齢女性29名を対象に、「生花」と「高品質な造花」の2種類のフラワーアレンジメント課題をランダムな順番で実施し、実施中の脳波(EEG)と心拍変動を連続的に記録しました。

脳波については、19チャンネルのEEGを記録し、eLORETAを用いて脳内の電流源密度(CSD)※5を推定しました。解析では特に24 Hzのデルタ帯域に注目し、統計的ノンパラメトリックマッピング(SnPM)※6を用いて、生花と造花条件の違いが脳全体の活動にどのように表れるかを統計的に検証しました。

その結果、生花条件では左前頭葉のデルタ帯域CSDが有意に高いことが明らかになりました。心拍変動については、心拍のゆらぎを可視化するLorenz plot 法を用いて、CVI(副交感神経指標)とCSI(交感神経指標)を算出しました。その結果、生花条件ではCVIが造花条件より有意に高いことが確認されました。一方でCSIには有意差がなく、交感神経を抑制するというよりも、副交感神経が選択的に高まっているパターンが示されました。

デルタ帯域の活動は、一般には「眠気」や「覚醒低下」と関連づけられることもありますが、高齢者では加齢に伴う変化や、内的処理への注意、動機づけ・報酬関連のプロセスなど、複数の解釈が提示されています。本研究の結果だけでは、「前向きな動機づけ」が高まっているのか、「心地よい眠気に近い安静状態」なのかを断定することはできません。しかし、生花アレンジメント中は副交感神経が優位になっていた結果と合わせると、「緊張がほぐれ、落ち着いた状態で活動に向き合っている」可能性が示唆されます。

期待される効果・今後の展開

本研究は、生花アレンジメントが、高齢者の脳活動と自律神経活動に対して、造花とは異なる特徴的な影響を与えることを神経生理学的に示した点で重要です。生花という「多感覚な本物の植物」を用いた活動が、副交感神経を高め、前頭部のゆっくりとした脳活動を引き出すことで、高齢者のリラクゼーションやストレス緩和に役立つ可能性が示されました。

今後は、主観的な気分評価や覚醒度の自己評価、注意機能の課題成績などを組み合わせることで、「どのような心理状態が生まれているのか」をより具体的に明らかにしていく予定です。また、男性や若年者、認知症のハイリスク群など、対象を広げることで、園芸療法の適応や個別化に役立つ知見が得られると期待されます。

さらに、医療・介護施設や地域のサロンなど、現場での具体的なプログラム設計において、生花アレンジメントをどのように取り入れると最も効果的かを検討するための基礎データとして、本研究の成果が活用されることを目指しています。

用語解説

※1 EEG:脳の電気活動を頭皮上の電極で記録する検査・技術。

※2 心拍変動:心拍と心拍の間隔(R-R間隔)のゆらぎを解析し、自律神経(交感神経と副交感神経)の働きを間接的に評価する指標。CVIは副交感神経活動、CSIは交感神経活動を反映する指標として用いられている。

※3 デルタ帯域:脳波(EEG)の中で最も周波数が低い「0.5〜4 Hz」のゆっくりした脳活動のこと。

※4 eLORETA:頭皮上で測定した脳波から、脳内のどの部位で電気活動が強くなっているかを推定するための解析手法。本研究では、デルタ帯域(24 Hz)の電流源密度を推定し、生花と造花条件間で比較した。

※5 電流源密度(CSD):脳波(EEG)から推定される「脳のどの場所で、どれくらい電気活動が生じているか」を示す指標。

6 統計的ノンパラメトリックマッピング(SnPM):脳画像研究で用いられる高度な統計手法で、データの分布を仮定せずに厳密な検定が可能。

掲載誌情報

【発表雑誌】 HortScience
【論 文 名】 Neurophysiological Responses to Fresh vs. Artificial Flower Arrangement in Community-dwelling Elderly Women: A Combined EEG and Heart Rate Variability Investigation
【著  者】 Fumie Tazaki, Keigo Shiraiwa, Junya Orui, Michiharu Sakaguchi, Yasuo Naito, Ryouhei Ishii

【掲載URL】https://doi.org/10.21273/HORTSCI19349-26

研究内容に関する問い合わせ先

大阪公立大学大学院リハビリテーション学研究科
教授 石井 良平(いしい りょうへい)
TEL:06-6167-1284
E-mail:rishii[at]omu.ac.jp

※[at]を@に変更してください。

報道に関する問い合わせ先

大阪公立大学 広報課
担当:久保
TEL:06-6967-1834
E-mail:koho-list[at]ml.omu.ac.jp

※[at]を@に変更してください。

該当するSDGs

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