最新の研究成果
高度な操船を自律的に学習するAIを開発~複雑な海域でも安全で効率的な航路を生成~
2026年5月20日
- 工学研究科
- プレスリリース
発表者
大阪公立大学大学院工学研究科 檜垣 岳史助教、橋本 博公教授、情報学研究科 吉岡 舜特任助教、神戸大学大学院海事科学研究科 若林 伸和教授
概要
本研究グループは、実際の運航データから高度な操船を自律的に学習する操船AIを開発しました。コンピュータシミュレーションによる検証の結果、複雑に入り組んだ海域でも、安全性を確保しつつ、効率的な航路プランニングが可能であることを示しました。本AIは、従来の自動操船のように衝突回避や航行効率などの目的を個別に設計するのではなく、人間の操船データから判断を直接学習する点に特長があります。
本研究成果は、2026年4月21日に国際学術誌「Ocean Engineering」にオンライン掲載されました。
ポイント
- 神戸大学の練習船「深江丸」の実運航データを用い、熟練者の高度な操船を自律的に学習するAIを開発。
- 衝突回避や交通ルール順守など複数の要件を、事前の重み付けや調整なしで同時に満たす航路生成が可能。
- 実データから人間の高度な判断を直接学習する新しいアプローチにより、定式化が難しい操船の再現を実現。

図:本研究で提案した手法による航路の例。
瀬戸内海の実際の交通流をシミュレーションで再現し、人間の航跡と良く一致することを確認。
日本の貿易量の99%以上が船によって支えられています。石油や木材、衣類、家電など、私たちの暮らしに必要なものの多くは海を渡って運ばれてきます。一方で、船員の高齢化や人手不足は深刻化しており、将来にわたって安定した物流を維持するためには、船舶運航の自動化が重要です。船長さんの巧みな操船を自動化するのは大変な困難ですが、大きなやりがいを感じています。

檜垣 岳史助教
研究の背景
船の自動運航を実現するには、他船との衝突を回避しつつ目的地に到達するための航路プランニングが重要です。ただし、実際の操船では、衝突を回避するだけでなく、複雑に入り組んだ海域を交通ルールに従いながら効率的に航行することが求められます。従来の研究では、こうした要素を数式で表し、それぞれに重みを与えて最適な航路を求める方法が一般的でした。しかし、海上交通ルールには人間の判断を前提とした曖昧さも多く、すべてを明示的に定式化するのは困難でした。そこで、本研究では個別の目的を細かく設計する代わりに、熟練者の操船を「正解」とみなしてAIに学習させるというアプローチをとりました。
研究の内容
本研究では、「拡散方策※」と呼ばれる手法に基づく自律操船AIを提案しました。神戸大学の練習船「深江丸」の実際の運航データ(181日分)を用いてAIを学習させ、コンピュータシミュレーションによって操船AIの性能を検証しました。その結果、複雑に入り組んだ海域においても十分な安全を確保しつつ、効率的で交通ルールに従った航路を生成できることが確認されました。
本研究の最大の特長は、衝突回避、地形制約、航行効率、交通ルール順守といった複数の目的間の調整を一切行っていない点にあります。すなわち、研究者が正解を細かく作り込むのではなく、実データから高度な操船を自律的に学習する仕組みを実現しています。
期待される効果・今後の展開
今回の成果は、実際の人の操船データを活用することで、これまで数式だけでは扱いにくかった複雑な判断をAIが学べる可能性を示したものです。特に、海上交通ルールのように、すべてを明確な形で機械に教えるのが難しい内容であっても、実データから身につけられる可能性が見出されました。
今後、実海域での運航データがさらに集まり、その活用が進めば、船の自動運航はより現実に近づくと期待されます。これは海運業界の人手不足の解消や、安全性の向上につながるだけでなく、日本の物流を将来にわたって支える基盤技術になると考えられます。
用語解説
※ 拡散方策:手本となるデータに倣い、最適な行動を学習・生成するAI手法。正しい行動に加えたノイズを段階的に取り除くよう学習することで、1つに定まらない複数の妥当な行動候補も表現しやすい点が特長である。
掲載誌情報
【発表雑誌】 Ocean Engineering
【論 文 名】 Diffusion route planner: Data-driven modeling of human ship navigation that implicitly balances safety, efficiency, and rule compliance under complex geographical constraints
【著 者】 Takefumi Higaki, Hitoshi Yoshioka, Nobukazu Wakabayashi, Hirotada Hashimoto
【掲載URL】 https://doi.org/10.1016/j.oceaneng.2026.125656
研究内容に関する問い合わせ先
大阪公立大学大学院工学研究科
助教 檜垣 岳史(ひがき たけふみ)
TEL:072-252-6185
E-mail:higaki.marine[at]omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。
報道に関する問い合わせ先
大阪公立大学 広報課
担当:久保
TEL:06-6967-1834
E-mail:koho-list[at]ml.omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。
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