最新の研究成果
摩擦を使った機能性界面の形成 〜炭素系非晶質材料によく滑る表面ができるメカニズムの一端を解明〜
2026年5月25日
- 工学研究科
- プレスリリース
発表者
大阪公立大学大学院工学研究科 桑原 卓哉講師
概要
アモルファスカーボン※1は、低摩擦・低摩耗を示す優れた材料として実用化が進められています。本研究グループは、アモルファスカーボンでは、せん断※2によってグラフェン※3の層が形成され、超潤滑※4が生じることを明らかにしました。また、材料に含まれる不純物を起点として炭素の輪(芳香環)が作られ、せん断によるグラフェン様界面の核形成・成長が進むことで、摩擦係数が急激に低下することを見いだしました。
本研究成果は、2026年5月25日に国際学術誌「Advanced Science」にオンライン掲載されました。
図1 せん断誘起表面芳香族化による超潤滑界面の形成
空孔胚※7の発生からグラフェン様界面形成までのメカニズム
ポイント
- 量子化学/分子動力学シミュレーション※5を活用したハイスループット計算※6により、アモルファスカーボン(a-C)の超潤滑が、せん断下でグラフェン様界面の形成により発現することを解明した(図1)。
- これまで考慮されていなかった不純物を起点として芳香環が生成され、せん断によるグラフェン様界面の核形成・成長が進むことで、摩擦係数が急激に低下することを見いだした。
- 不純物元素を系統的に調べることにより、グラフェン様界面の形成を抑制する元素と促進する元素が存在することを明らかにした。
<研究者のコメント>
摩擦は私たちの身近にある現象ですが、その起源は原子レベルにあるため、いまだに十分に理解されていません。本成果は、そうした摩擦の起源をシミュレーションによって明らかにしたものであり、摩擦を活用した新しいモノづくりの可能性を切り拓くものと考えております。

桑原 卓哉講師
研究の背景
機械システムには、多くの部品同士が相対的に運動をするしゅう動部があります。しゅう動により生じる摩擦は、材料損失やエネルギー損失の直接的な原因となり、機械の寿命や信頼性に大きな影響を及ぼします。そのため、摩擦を大幅に低減する潤滑技術の開発は、自動車や鉄道などの輸送機器、産業機械におけるエネルギー利用の高効率化に直結し、環境負荷の低減にも繋がると期待されています。
アモルファスカーボンは、低摩擦・低摩耗を示す優れた材料として、これまで機械システムへの応用が進められてきました。しかし、なぜ低摩擦を示すのか、そのメカニズムは十分に明らかになっていません。これは、摩擦が埋もれた接触界面で生じるため、直接観察したり、計測したりすることが極めて難しく、さらに絶えず変化する界面構造を捉えることが困難であるためです。加えて、摩擦の起源は原子レベルの化学構造にありますが、実験だけではその詳細を明らかにすることは容易ではありません。一方、近年のコンピュータシミュレーションにより、アモルファスカーボンの低摩擦化には、表面の水素終端やグラファイト※8化が重要であることが分かってきました。しかし、依然としてどちらが重要なのかの議論は終結しておらず、現象を説明するメカニズムの理解が求められています。
研究の内容
本研究では、量子化学/分子動力学シミュレーションを活用したハイスループット計算により、アモルファスカーボンの超潤滑が、せん断下でグラフェンに近い化学構造を形成することによって発現することを解明しました。さらに、これまで見過ごされてきた不純物に着目することで、不純物を起点とした芳香環の生成と、せん断によるグラフェン様構造の核形成・成長が進み、その結果として摩擦係数が急激に低下することを見いだしました。また、不純物元素の系統的な探索により、不純物の中にはグラフェン様界面の形成を抑制する元素と促進する元素が存在することを明らかにしました(図2)。例えば、不純物を全く含まないアモルファスカーボンや4価のケイ素(Si)を含む系では、グラフェン様界面は形成されませんでした。一方、3価以下の低価数元素(図2では窒素(N)、酸素(O)、フッ素(F)、リン(P)、硫黄(S)、塩素(Cl))を含む場合には、その形成が促進されました。さらに、不純物の量が多すぎる場合にはグラフェン様界面は形成されず、代わりに化学終端構造が形成されることで超潤滑が発現されました。すなわち、低価数元素を適量含む場合に限って、グラフェン様界面が形成されることが分かりました。特に、低価数かつファンデルワールス(vdW)半径※9が大きいフッ素(F)は、グラフェン様界面の形成に有効であることが示されました(図3)。
図2 ハイスループット計算より得られた添加元素ごとの摩擦係数マップおよび グラフェン様超潤滑界面の一例(酸素添加a-Cおよび窒素添加a-C)。
このように、せん断という機械的作用と低価数元素による化学的作用が協働して進行するグラフェン様界面形成を「せん断誘起表面芳香族化」と名付けました。摩擦界面では、アモルファスカーボンは常に潤滑油や環境分子(酸素や水分子)と化学反応を起こし、不純物を取り込みます。本研究で得られた知見は、そのような意図せず取り込まれた元素が、超潤滑発現において重要な役割を果たすことを示すものであり、従来のモデルではほとんど考慮されてこなかった要素が現象の本質であるという非常に興味深い成果です。
図3 添加元素ごとのグラフェン様界面の形成確率
期待される効果・今後の展開
本成果は、摩擦低減に必要な化学構造を自発的に生み出すアモルファスカーボンの超潤滑発現メカニズムを明らかにしたものであり、理論に基づく摩擦界面設計の新たな道を拓くものです。今後、実験による検証や実証を進めることで、自己修復が可能な新しい摩擦材料や潤滑システムへの応用が期待されます。また、摩擦という機械的作用を活用した2次元機能性材料の新しい創成技術として、将来的には様々な材料系へ展開していきます。
資金情報
本研究は、JST戦略的創造研究推進事業さきがけ(JPMJPR22A6)、CREST(JPMJCR2191)、JSPS科研費(JP25K01146)の支援を受けて実施しました。
用語解説
※1 アモルファスカーボン:原子の結合状態や他元素の添加により、構造および物性を大きく変化させる炭素系非晶質材料。
※2 せん断:物体に対して、面に沿ってずれが生じるように作用する力。
※3 グラフェン:蜂の巣のような六角形格子構造をもち、原子1個分の厚さからなる炭素系2次元材料。
※4 超潤滑:摩擦係数0.01以下の摩擦状態。
※5 量子化学/分子動力学シミュレーション:電子系の基底状態を解くことで原子に働く力を計算し、原子核の運動をニュートンの運動方程式に従って解くことで原子の動きを再現する手法。
※6 ハイスループット計算:複数の計算機を使用して効率的に大量のシミュレーションデータを生成すること。
※7 空孔胚:材料内部に存在する原子が存在しない微小な欠陥のことで、その後成長することが予想されるもの。
※8 グラファイト:グラフェンが3次元的に積層したもの。
※9 ファンデルワールス(vdW)半径:互いに結合していない原子同士が接近できる距離。
掲載誌情報
【発表雑誌】 Advanced Science
【論文名】 Shear-Induced Emergence of Aromatic Superlow-Friction Interfaces in Amorphous Carbon: Triggering Chemical Impurities and Atomic-Scale Mechanisms
【著者】 Takuya Kuwahara*, Koki Horiguchi, Leonhard Mayrhofer, Gianpietro Moras, Michael Moseler* (*責任著者)
【掲載URL】 https://doi.org/10.1002/advs.75566
研究内容に関する問い合わせ先
大阪公立大学大学院工学研究科
講師 桑原 卓哉(くわはら たくや)
TEL:072-247-6180
E-mail:kuwa[at]omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。
報道に関する問い合わせ先
大阪公立大学 広報課
担当:谷
TEL:06-6967-1834
E-mail:koho-list[at]ml.omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。
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