最新の研究成果
高エネルギー原子核反応の理解に新たな進展 ~グラウバー理論による高精度予測を実現~
2026年6月3日
- 理学研究科
- プレスリリース
発表者
大阪公立大学大学院理学研究科 堀内 渉准教授
概要
グラウバー理論※は、高エネルギー原子核同士の散乱を記述するために長年用いられています。本研究では、炭素原子核を含む高エネルギー原子核反応について、これまでで最も高精度なグラウバー理論計算を実現しました。また、理論手法および計算技術を駆使し、衝突する原子核同士の相互作用をミクロなレベルで明らかにしました。
本研究成果は国際学術誌「Physical Review Letters」に2026年5月18日、「Physical Review C」に2026年6月1日にオンライン掲載されました。
図1 高速で原子核同士が衝突し、反応が起きるイメージ。
ポイント
- 生命や物質の基本構成要素である炭素原子核を含む高エネルギー原子核反応について、これまでで最も高精度なグラウバー理論計算の一つを提示した。
- 信頼のおける理論手法および計算技術を駆使し、衝突する原子核同士の相互作用をミクロなレベルで明らかにした。
- 原子核をより正確かつ予測的に記述するための重要な一歩であり、核物質の本質的な理解に近づくことが期待される。
<研究者のコメント>
高速で原子核同士がぶつかると、どんな反応が起きるのかを考えるため、「グラウバー理論」という考え方が昔から使われてきましたが、これまでは計算を簡単にするため、近似として扱われることが多かったのです。本研究では、グラウバー理論を正確に計算することに成功しました。この理論を使えば、すでにある実験結果をうまく説明できるだけでなく、これからどのような結果が出るかを予測することもできます。
堀内 渉准教授
研究の背景
高エネルギーで衝突する原子核同士の反応を記述する理論として、「グラウバー理論」は長年広く用いられてきました。しかし、その多くは計算の簡略化のために近似的に扱われてきました。
研究の内容
本研究では、生命や物質を構成する重要な元素である炭素原子核を含む反応について、最も高精度なグラウバー理論計算を実現しました。信頼のおける理論手法および計算技術を駆使することで、衝突する原子核同士の相互作用をミクロなレベルから取り扱うことに成功しました。この理論により、高エネルギー陽子―炭素弾性散乱断面積の角度分布が得られました(図2)。横軸は陽子の運動量移行(散乱角度)、縦軸は散乱のしやすさを表します。300、500、800、1000メガ電子ボルト(MeV)は入射エネルギーを示しており、広いエネルギーで実験データ(黒丸)をよく再現しています。
図2 高エネルギー陽子―炭素弾性散乱断面積の角度分布
期待される効果・今後の展開
本成果により、原子核の内部構造に対する理解が深まるとともに、今後の高エネルギー加速器実験の指針となる信頼性の高い理論的基準が得られました。グラウバー理論を厳密に適用することで、実験結果を正確に再現するだけでなく、将来の測定を予測・先導できる可能性も示されています。本研究は、原子核のより正確かつ予測的な記述に向けた重要な一歩であり、核物質の本質的理解に近づく成果です。今後はより広範な質量領域の原子核構造の高精度予測に向けての発展が期待されます。
資金情報
本研究はJSPS科研費JP23K22485、JP25K07285JP25K01005、JSPS二国間交流事業JPJSBP120247715の支援を受けたものです。
用語解説
※ グラウバー理論:1960年代に物理学者Roy Jay Glauber(ロイ・ジェイ・グラウバー)が発展させ、2005年のノーベル物理学賞受賞にもつながった理論。もともとは量子光学のために作られたが、原子核反応の分野でも応用されている。特に「アイコナル近似」と「断熱近似」を組み合わせることで、高エネルギーで起こる複雑な原子核反応を大幅に簡略化して扱うことができる。ただし、簡略化された後も粒子の数に応じた多重積分が必要になるため、実際の計算は依然として容易ではない。
掲載誌情報
本研究成果はPhysical Review LettersおよびPhysical Review Cに同時投稿しました。Physical Review Lettersには主要な成果が簡潔にまとめられ、Physical Review Cにはその詳細、更なる結果、分析を含めたフルペーパーが掲載されています。
【発表雑誌】 Physical Review Letters
【論文名】 Glauber-theory calculations of high-energy nuclear scattering observables using variational Monte Carlo wave functions
【著者】 Wataru Horiuchi, Yasuyuki Suzuki, Robert B. Wiringa
【掲載URL】 https://doi.org/10.1103/ppqx-yn59
【発表雑誌】 Physical Review C
【論文名】 Glauber-theory analysis of nuclear reactions on a 12C target with variational Monte Carlo wave functions
【著者】 Wataru Horiuchi, Yasuyuki Suzuki, Robert B. Wiringa
【掲載URL】 https://doi.org/10.1103/gcbk-s7tc
研究内容に関する問い合わせ先
大阪公立大学大学院理学研究科
准教授 堀内 渉(ほりうち わたる)
TEL:06-6605-2639
E-mail:whoriuchi[at]omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。
報道に関する問い合わせ先
大阪公立大学 広報課
担当:谷
TEL:06-6967-1834
E-mail:koho-list[at]ml.omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。
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