最新の研究成果
量子ドットでナノ空間を走る光の波を「撮る」ことに成功~埋もれた金属界面を伝わる表面プラズモンの伝搬を直接観測~
2026年6月25日
- 工学研究科
- プレスリリース
発表者
大阪公立大学大学院工学研究科 渋田 昌弘准教授、金 大貴教授、鎌田 一輝氏(博士後期課程2年)
概要
本研究グループは、光をナノメートル(10億分の1メートル)スケールに閉じ込めて伝搬する「表面プラズモンポラリトン(SPP)※1」を可視化する新しい手法を開発しました。SPPは、次世代の光情報通信(光通信)や光デバイスの高集積化を実現する技術として注目されています。
本手法は、高い発光特性を持つ半導体量子ドット (以下、量子ドット)※2の超薄膜を利用することで、SPPの伝搬の様子を通常の光学顕微鏡で直接観察することを可能にしました。
さらに、従来法では観測が困難であった100nm以上の誘電体膜の下に埋もれた内部界面を伝搬するSPPの観測や、SPPの分散関係・伝搬速度の評価、さらにはフェムト秒(1000兆分の1秒)スケールの超高速伝搬ダイナミクスの実時間観測に成功しました。
本研究成果は、2026年6月4日に国際学術誌「Nano Letters」にオンライン掲載されました。

図:量子ドット薄膜を用いた表面SPPの直接可視化
ポイント
- 半導体量子ドット薄膜を利用し、金属と誘電体界面を伝搬するSPPの伝搬を通常の光学顕微鏡で高精度に可視化する新手法を開発。
- 従来法では観測が困難であった、100nm以上の厚い誘電体膜に埋もれた金属-誘電体界面のSPP観測を実現。
- SPPの分散関係や伝搬速度を定量評価するとともに、フェムト秒時間分解イメージングによる超高速ダイナミクス観測に成功。
<研究者コメント>
SPPは、将来の光通信やナノ光デバイスの重要な基盤技術として期待されていますが、従来は特殊な顕微鏡を用いた金属表面での観測が主流であり、金属と誘電体の膜との界面での動きを直接観察することは容易ではありませんでした。
本研究では、高精度に制御された量子ドット薄膜の発光を利用することで、特殊な超高真空装置を用いることなく、通常の光学顕微鏡でSPPを可視化できることを示しました。試料作製条件の最適化や測定システムの構築には多くの試行錯誤がありましたが、新しいイメージング手法として確立できたことを大変嬉しく思います。

鎌田 一輝氏
研究の背景
近年、AIやデータ通信の発展に伴い、より高速で低消費電力な情報処理技術が求められています。その有力な候補として注目されているのが、光と物質の相互作用を利用した情報通信技術です。SPPは、金属表面に存在する自由電子の集団振動と光が結合した量子状態です。SPPは光のエネルギー(情報)をナノメートルスケールという非常に小さな領域に閉じ込めながら伝搬できるため、従来の光デバイスよりも高密度な光回路や超小型光デバイスの実現につながると期待されています。
しかし、SPPは金属表面や金属と誘電体の界面近傍に局在し、光を発することなく伝搬するため、その様子を直接観察することは容易ではありません。特に実際のデバイスで用いられる誘電体保護膜や機能性材料に埋もれた内部界面を観察することは困難でした。
そこで本研究では、量子ドット薄膜を利用することで、通常の光学顕微鏡による簡便かつ高精度なSPP可視化手法の開発に取り組みました。
研究の内容
本研究では、金薄膜に微細な溝を加工した試料の表面に誘電体薄膜を形成し、その上に量子ドットを1層ずつ積み重ねるLayer-by-layer法※3を用いて、均一な量子ドット薄膜を作製しました。この手法によって均一で構造がよく制御された量子ドット薄膜を形成できるため、SPPを高感度に可視化するとともに、その波動特性を定量的に評価することが可能になります。近赤外フェムト秒パルスレーザー※4を照射すると、溝構造から励起されたSPPによって量子ドットから2光子蛍光※5が発生します。その蛍光を顕微鏡で観測することで、SPPの伝搬に対応した縞模様を画像として取得することに成功しました。
さらに、誘電体膜の厚さを変えながら観測を行った結果、100nmを超える誘電体膜に埋もれた内部界面を伝搬するSPPも可視化できることを実証しました。得られた縞模様を解析することで、SPPの波長、分散関係、位相速度および群速度を高精度に評価できることを明らかにしました。また、ポンプ・プローブ法を組み合わせた時間分解イメージングにより、誘電体膜に埋もれた界面において、フェムト秒スケールで伝搬するSPP波束の動きをリアルタイムで観測することにも成功しました。
期待される効果・今後の展開
本研究で開発した手法は、光学顕微鏡を利用して金属と誘電体薄膜に埋もれた界面を伝搬するSPPを直接観測できるため、従来よりも簡便にプラズモニクスデバイスの評価を行うことができます。今後は、光通信デバイス、光センサー、太陽電池、ナノ光回路などの研究開発への応用が期待されます。
また、量子ドットなどの機能性ナノ材料とSPPの相互作用を直接観察できるため、新しい光機能材料の開発への貢献も期待できます。
さらに、超高速時間分解観測を活用することで、光と物質が相互作用する瞬間の現象を詳細に解明できるようになり、次世代の超高速光デバイス設計指針の確立につながることが期待されます。
資金情報
本研究は、公益財団法人コニカミノルタ科学技術振興財団、公益財団法人三菱財団、公益財団法人村田学術振興・教育財団、公益財団法人旭硝子財団、文部科学省 卓越研究員事業(JPMXS0320220123)、日本学術振興会 科学研究費助成事業(22K18268、24K01277、23H01939、20H02549、24KK0257、26K08190、26A203)の支援を受けて実施しました。
用語解説
※1 表面プラズモンポラリトン(Surface plasmon polariton; SPP)
金属表面の自由電子振動と光が強く結合して生じる波動モードである。光をナノメートルスケールに閉じ込めながら伝搬できるため、次世代光デバイスへの応用が期待されている。
※2 半導体量子ドット(Quantum dot)
直径数ナノメートル程度の半導体ナノ粒子である。粒子サイズによって光学特性が変化し、高い発光効率を示すことから、ディスプレイや光デバイスへの応用が進められている。
※3 Layer-by-layer法
マイナスに帯電した量子ドットとプラスに帯電したポリマーを交互に積層することで、量子ドットを1粒子層ずつ均一に積層させる方法である。
※4 フェムト秒パルスレーザー
フェムト秒(1000兆分の1秒)オーダーの極めて短い時間幅を持つレーザーパルスである。超高速現象の観測に広く用いられる。
※5 2光子蛍光
通常の蛍光は、物質が1個の光子を吸収して発光する現象である一方で、2光子蛍光は、2個の光子をほぼ同時に吸収することで発光する現象であり、通常よりも長波長・低エネルギーの光を用いて発光を誘起できる。本研究では、近赤外フェムト秒パルスレーザーによって量子ドットから発生する2光子蛍光を利用し、表面プラズモンポラリトン(SPP)の伝搬を可視化した。
掲載誌情報
【発表雑誌】 Nano Letters 2026, 26, 7808–7815
【論文名】 Visualization of Internal Plasmonic Wave Photosensitized by Quantum Dots
【著者】 Kazuki Kamada, DaeGwi Kim, and Masahiro Shibuta
【掲載URL】 https://doi.org/10.1021/acs.nanolett.6c02051
研究内容に関する問い合わせ先
大阪公立大学大学院工学研究科
准教授 渋田 昌弘 (しぶた まさひろ)
TEL:072-247-6162
E-mail:shibuta[at]omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。
報道に関する問い合わせ先
大阪公立大学 広報課
担当:橋本
TEL:06-6967-1834
E-mail:koho-list[at]ml.omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。
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