最新の研究成果

人口減少都市住民の生活満足度を支える要因を解明-スマートデクラインに向けた新知見-

2026年6月19日

  • 生活科学研究科
  • プレスリリース

発表者

大阪公立大学大学院生活科学研究科都市科学研究室 加登 遼准教授

概要

近年、日本の多くの都市で人口が減少していることから、人口減少を前提としながら、住民のウェルビーイング(well-being)や都市の持続可能性を維持・向上させる考え方である「スマートデクライン」の重要性が指摘されています。

本研究では、全国の中小自治体※1に居住する約5,500人を対象に、人口減少と生活満足度ならびに13種類の生活領域※2ごとの満足度との関係を分析しました。その結果、人口減少が進むほど、現役世代では「ワークライフバランス」、高齢者世代では「介護支援」に対する満足度が、生活満足度を支える要因として重要性が増すことを明らかにしました。
本研究成果は、2026年5月20日に国際学術誌「Cities」にオンライン掲載されました。

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ポイント

  1. 内閣府「満足度・生活の質に関する調査(2024年)」から、全国の中小自治体に居住する5,645人のデータを抽出し、人口減少が与える影響をマルチレベルモデル※3により分析した
  2. 現役世代では「ワークライフバランス」に対する満足度の中でも、特に「フルリモートワーク」が、人口減少が進む自治体ほど生活満足度と強く結びつく傾向が確認された。
  3. 高齢者世代では「介護支援」に対する満足度の中でも、「介護費用」や「配偶者の就労状況」が、人口減少が進む自治体ほど生活満足度と強く結びつく傾向が確認された。

<研究者コメント>

従来の多くの研究が、人口減少率が高い中小自治体の住民ほど、ウェルビーイングが低いことを報告してきました。しかし、人口減少都市が75%以上を占める日本では、スマートデクラインを目指す必然性があります。そこで都市科学研究室は、人口減少率が高くても住民のウェルビ―イングを向上するトリガーとなる因子、及びそのデザインの探究に取り組んでいます。これは、世界に先駆けて人口減少都市が多数を占める日本こそ可能な研究です。

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加登 遼准教授

研究の背景

日本は2007年から人口減少局面に入り、2022年時点で全国の「人口減少都市」の割合は75%を超えています。また、その大半は政令指定都市などの大都市を除く中小自治体です。中でも中小自治体では人口減少都市の割合が約90%に達しており、人口回復の見込みが限りなく低い状況です。こうした状況を踏まえ、人口減少を前提に住民のウェルビーイング(well-being)の維持・向上を目指す「スマートデクライン」の重要性が指摘されています。
しかし、スマートデクラインは理念にとどまり、「どのような政策が、どの地域で有効なのか」という実践的な知見は乏しいままです。特に、人口減少という地域全体の状況(マクロ環境)が、住民一人ひとりの生活満足度(ミクロ環境)をどのように左右するのかは、十分に解明されていないのが現状です。

研究の内容

本研究では、内閣府が2024年に実施した「満足度・生活の質に関する調査」から、中小自治体に居住する5,645人(現役世代4,756人、高齢者世代889人)のデータを抽出しました。そして、各自治体の人口変化率をマクロ要因、住まい・仕事・健康・子育て・介護など13種類の生活領域の満足度をミクロ要因として、生活満足度との関係性をマルチレベルモデルにより分析しました。
分析の結果、人口減少が生活満足度の低下と相関することが確認され、欧州や米国など他国の先行研究と同様の結果が得られました。その上で本研究では新たに、人口減少が深刻な中小自治体の住民ほど、現役世代では「ワークライフバランス」の満足度が、高齢者世代では「介護支援」の満足度が、生活満足度を支える要因であることを解明しました。
さらに詳細な分析の結果、現役世代においては、ワークライフバランスに関連する「フルリモートワーク」が、人口減少が進む自治体ほど生活満足度と強く結びつく傾向が確認されました。この結果から、リモートワークは縮小する地域の労働市場に依存することなく、収入や働き方を維持できる「経済的な緩衝材」として機能している可能性が考えられます。さらに、高齢者世代においては、介護支援に関する「介護費用」や「配偶者の就労状況」に対する満足度が、人口減少が進む自治体ほど生活満足度をより強く支える傾向が示されました。これらの介護支援の要因は、財政悪化による福祉サービスへの不安に対し、生活の安定感をもたらす「心理的な拠り所」として機能している可能性が示唆されます。

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図:人口減少都市における生活満足度決定要因と世代別スマートデクライン戦略

期待される効果・今後の展開

本研究は、人口減少が進む中小自治体において、画一的な政策ではなく、地域の特性や状況に応じたスマートデクライン政策が必要であることを示しました。具体的には、現役世代に対しては高速通信網などデジタル基盤の整備、高齢者世代に対しては介護費用の安定と介護者への支援が、限られた行政資源を投じるべき優先分野として示唆されます。
ただし、リモートワークが主要な緩衝材になると、地域に住みながら都市部の収入を得られる層と、デジタル技術を十分に活用できず地域経済にとどまる層との間で格差が広がる恐れもあります。今後は、公的な介護基盤の充実や直接的な経済支援を組み合わせた「公正なスマートデクライン」の制度設計を、実証的に検討していく必要があります。

資金情報

本研究は、JSPS科研費(JP24K17421, JP23K26284)の支援を受けて実施しました。

用語解説

1 中小自治体:本研究は、政令指定都市・中核市・施行時特例市の大都市を除く、その他都市、町、村(人口約20万人未満の自治体)が対象。日本に1700以上ある自治体のうち、9割以上は中小自治体が占めている。

2 生活領域:人が日常生活を営む中で関わる分野や活動の領域。本研究で分析した13種類の生活領域は、家計・資産/雇用環境・賃金/住宅/ワークライフバランス/健康状態/教育環境・教育水準/社会とのつながり/行政への信頼性/自然環境/身の回りの安全/子育て支援/介護支援/生活の楽しさ。

3 マルチレベルモデル:個人(ミクロ)のデータが自治体(マクロ)ごとにまとまった「入れ子構造」のデータに適した統計手法。個人レベルと自治体レベルの要因を同時に分析することが可能。

掲載誌情報

【発表雑誌】 Cities
【論文名】 Well-being amidst population decline: Contextual effects of population change on life satisfaction in shrinking small and medium-sized cities in Japan
【著者】 Haruka Kato

【掲載URL】https://doi.org/10.1016/j.cities.2026.107231

研究内容に関する問い合わせ先

大阪公立大学大学院生活科学研究科
准教授 加登 遼(かとう はるか)
E-mail:haruka-kato[at]omu.ac.jp

※[at]を@に変更してください。

報道に関する問い合わせ先

大阪公立大学 広報課
担当:久保
TEL:06-6967-1834
E-mail:koho-list[at]ml.omu.ac.jp

※[at]を@に変更してください。

該当するSDGs

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