最新の研究成果

街並みの「囲まれ感」が睡眠を守る ~AI画像認識で自宅周辺環境と睡眠の関係を調査~

2026年6月23日

  • 生活科学研究科
  • プレスリリース

発表者

大阪公立大学大学院生活科学研究科 松下 大輔教授

概要

本研究グループは、東京都心に通勤する勤労者を対象に、自宅周辺の景観とその印象が睡眠にどのように影響するかについて、AI画像認識技術を用いて調査しました。その結果建物や樹木により視覚的に「囲まれ感」のある街並みほど不眠が少なく睡眠時間が長いこと、また、印象評価データから推定された「安全感」のある街並みほど睡眠時間が長いことが明らかになりました。

本研究成果は、2026年5月7日に国際学術誌「Building and Environment」にオンライン掲載されました。

ポイント

  1. 東京都心に通勤する40~59歳の勤労者1,089人を対象に、自宅周辺の近隣景観と睡眠健康との関係を調査。
  2. AI画像認識技術を用い、街並みにおける囲まれ感、樹木などの緑の量、歩きやすさを客観的に評価した。また、世界規模の街並みの印象評価データを機械学習で応用し、街並みから受ける安全感、活気、美しさなどの主観的印象を定量化した。
  3. 視覚的に建物や樹木で「囲まれ感」のある街並みほど不眠が少なく睡眠時間が長いこと、また、印象評価データから推定された「安全感」のある街並みほど睡眠時間が長いことが明らかになった。

pr20260623_matsu01図 AI画像認識技術の一例

研究の背景

人間は人生の約3分の1を睡眠に費やしており、質の良い睡眠は心身の健康に欠かせません。近年の研究により、睡眠の質は生活習慣だけでなく、自宅周辺の環境からも影響を受けることが分かってきました。たとえば、樹木などの緑が多い、騒音が少ない、大気がきれい、といった環境は、睡眠に良い影響を与えることが知られています。

しかし、これまでの研究の多くは、緑の量など単一の要素に注目したものが中心で、街を歩く人の目線から見える建物の密度や歩道、空の広がり、街路樹の様子など、総合的な見え方を扱ったものはほとんどありませんでした。また、安全そう、にぎやかそう、美しいなどの街から受ける印象が、睡眠にどう影響するかについても、あまり明らかになっていませんでした。

 研究の内容

本研究では、東京都心に通勤する40~59歳の勤労者1,089人を対象に、人が見る景色(アイレベル景観※1)とその印象が睡眠にどのように影響するかについて、AI画像認識技術を活用して調べました。まず、参加者の自宅周辺のGoogleストリートビュー画像、約21万枚をAIに読み込ませ、セマンティックセグメンテーション※2という技術を用い、画像の1ピクセルごとに建物、空、街路樹のような分類を自動的に行いました。そして、この解析結果から、「囲まれ感:建物や樹木など垂直方向の要素が視界に占める割合。数値が多いほど、囲まれた街並みを示す」「緑視率:街路樹など緑が視界に占める割合」「視覚的な歩きやすさ:歩道や防護柵など、歩行者向けの設備の充実度」という3つの客観的な街並みの特徴を数値化しました。

さらに、世界56都市で9万人以上が判断した約155万件の街並みの印象評価データ(Place Pulse 2.0※3)を機械学習モデルに学習させ、日本の街並み画像からも「安全感」「活気」「美しさ」という主観的印象を自動的に推定できるようにしました。

そして睡眠の状態は、国際的に標準化された尺度であるアテネ不眠尺度・エプワース眠気尺度※4と、自己申告の睡眠時間で評価しました。そのうえで、街並みの特徴と睡眠との関係を、重回帰分析と構造方程式モデリング※5という統計手法で分析しました。

その結果、街並みに「囲まれ感」がある地域に住む人ほど、不眠症状が少なく睡眠時間が長いこと、「安全感」のある街並みに住む人ほど睡眠時間が長いことが示されました。また、街路樹などの緑は「安全感」を高めることで睡眠時間を延ばす可能性がある一方で、歩道や標識が多い歩きやすい街並みは、印象評価データによる推定では「安全感」が下がり、睡眠時間を短くする可能性が示唆されました。

 期待される効果・今後の展開

本研究は、健康的な都市づくりと住まい選びに重要な示唆を与えます。都市計画の観点からは、適度な囲まれ感を生み出す建物配置や街路樹の植栽、安全感を高める景観デザインが、住民の睡眠健康に寄与する可能性があります。特に、緑を増やすだけでなく、安全に感じられるように緑を配置することが大切です。また、視覚的な歩きやすさを追求する際には、地域の安全感を損なわないよう、防犯照明や見通しの確保などの総合的なデザインが求められます。

住まい選びにおいては、緑の量や駅までの距離だけでなく、街並み全体の見え方や、受ける印象も、睡眠の質という観点から考慮する必要があることが示されました。

本研究では、AI画像認識と世界規模のクラウドソーシングデータを組み合わせることで、広範な地域の街並みを低コストで評価できる可能性を示しました。今後は、縦断的な調査により因果関係を検証することや、日本独自の印象評価データを用いてモデルを精緻化することなどが課題です。

資金情報

本研究はJSPS科研費JP24K01053およびJST SPRING(JPMJSP2139)の助成を受けたものです。

 用語解説

※1 アイレベル景観:人が歩いている時の目線の高さから見える街の風景のこと。建物、街路樹、歩道、看板など、直接目に入る要素を指す。上空から見た衛星画像とは異なり、実際に住民が体験する景観に近い評価が可能。

※2 セマンティックセグメンテーション:コンピューターが画像を1ピクセル単位で解析し、「これは建物」「これは空」「これは樹木」のように自動的に分類するAI画像認識技術。本研究では、ストリートビュー画像に含まれる街の要素を高速かつ正確に抽出するために使用した。

※3 Place Pulse 2.0:マサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボが主導したクラウドソーシング型の街並み印象評価プロジェクト。世界56都市のストリートビュー画像約11万枚について、世界中の9万人以上が約155万件の印象評価(安全そう、美しい、にぎやか、退屈など)を行ったデータセット。

※4 アテネ不眠尺度・エプワース眠気尺度:不眠症状や日中の眠気の程度を評価するための国際的に標準化された質問紙。本研究では日本語版を使用した。

※5 構造方程式モデリング:複数の変数間の関係を同時に分析する統計手法。本研究では、客観的な街並みの特徴が主観的印象を経由して睡眠に影響する、という間接的な経路を検証するために用いた。

掲載誌情報

【発表雑誌】 Building and Environment
【論文名】 Urban eye-level landscapes and sleep health: Cross-sectional evidence from a megacity using machine learning for objective and perceptual assessment
【著者】 Xiaorui Wang, Jihui Yuan, Weixin Huang, Daisuke Matsushita

【掲載URL】 https://doi.org/10.1016/j.buildenv.2026.114711

研究内容に関する問い合わせ先

大阪公立大学大学院生活科学研究科
教授 松下 大輔(まつした だいすけ)
TEL:06-6605-2871
E-mail:matsushita[at]omu.ac.jp

※[at]を@に変更してください。

報道に関する問い合わせ先

大阪公立大学 広報課
担当:谷
TEL:06-6967-1834
E-mail:koho-list[at]ml.omu.ac.jp

※[at]を@に変更してください。

該当するSDGs

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