最新の研究成果

超音波による化学反応速度低下を数値モデルで予測 ~さまざまな大きさの現象を再現可能に~

2026年6月24日

  • 工学研究科
  • プレスリリース

発表者

大阪公立大学大学院工学研究科 林 龍哉氏(博士前期課程1年)、山本 卓也准教

概要

超音波※1を液体に照射することで生じる気泡振動や化学反応は、工業や医療など幅広い分野に応用されています。しかし、一定以上の高出力の超音波を照射すると、化学反応速度が急減するというクエンチング現象が生じるため、その現象を予測することが望まれています。

本研究グループは、ミクロおよびマクロスケールそれぞれで発生する現象を同時に解く数値モデルを開発しました。これにより、クエンチング現象の実験結果を、数値シミュレーションで表すことに成功しました。

本研究成果は、2026年6月7日に国際学術誌「Ultrasonics Sonochemistry」にオンライン掲載されました。

pr202606_yamamoto01図 新しく開発した数値モデルで予測した、気泡振動が発する音によって変化する音圧分布と気泡内最大温度分布の様子。気泡振動音〇;気泡振動による音の吸収と放射により超音波の波形が大きく歪み、気泡崩壊時の最高温度が大幅に低下すると予測された。これが反応速度低下の要因であると判明。

ポイント

  1. 数万個の気泡を計算空間に埋め込んだ数値モデルを開発し、階層的な空間スケールにまたがる現象を予測することに成功した。
  2. 気泡が振動することで生じる音が化学反応速度低下に重要な影響を及ぼすことが判明した。
  3. ミクロスケールの気泡振動や気泡内温度、マクロスケールの超音波伝播を同時に予測することが可能になった。

<研究者のコメント>

超音波を液体中に照射すると、超音波が伝播するだけでなく、気泡核生成や気泡振動、ホットスポットや化学反応などが発生します。本研究によって大小さまざまに発生する現象を同時に予測する方法ができたため、装置設計や最適な制御条件の探索が容易になることが期待されます。

pr202606_yamamoto02s山本 卓也准教授

研究の背景

超音波を液体に照射すると、局所的に圧力が低減することで音響キャビテーション2が生じ、微細な気泡が発生します。この気泡は超音波によって振動し、気泡内部が瞬間的に5,000度以上になり、熱分解3が生じることで化学反応が起きます。この化学反応は材料、化学、医療などさまざまな分野で応用されています。しかし、高出力の超音波を照射すると、超音波槽全体でこの化学反応速度が急減するクエンチングという現象が起きるため、応用において敬遠されており、その発生原因の解明と発生条件の予測が望まれています。

研究の内容

本研究グループはクエンチング現象の解明と予測に向け、数万個の気泡を計算空間に埋め込む数値モデルを開発しました。これにより、ミクロスケールで発生する気泡振動、気泡内温度変化や気泡から発する音波と、マクロスケールで発生する超音波伝播を同時に予測することが可能になりました。そして、クエンチング現象の実験結果を、数値シミュレーションで表現することに成功しました。

また、数値計算の結果、超音波の波形は気泡からの音の放射と吸収によって大きく歪められ、高調波や広帯域ノイズが発生することが示されました。さらに、歪みが大きい条件下では、気泡崩壊時の最高温度が大幅に低下し、これがクエンチング現象の一因となっていることが判明しました。

先行研究の実験において、超音波の反応パターンは3種類に分かれることが知られていましたが、本研究で開発した数値モデルを用い、その3種類の反応パターンを予測することも可能になりました。

期待される効果・今後の展開

音響キャビテーションの効果は、材料、化学、半導体、環境、医療など幅広い分野に応用することができます。本研究は、分解されにくい有害有機化合物の無害化や半導体のウェハ洗浄、ナノ粒子の合成などを行う、超音波水槽を設計するための新しい数値モデルとして利用することが期待されます。

資金情報

本研究は、国立研究開発法人 科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業さきがけ(複雑な流動・輸送現象の解明・予測・制御に向けた新しい流体科学、JPMJPR220A)の一部として実施しました。

用語解説

※1 超音波:周波数が20 kHz以上の音のこと。

※2 音響キャビテーション:超音波を液体中に照射すると、液体中で局所的に音圧が急速に上下に振動する。特に、音圧が大きく下がると気泡核が生成、気泡が急速に膨張する一方で、音圧が大きく上昇すると急速に気泡が収縮し、圧壊する。この気泡生成現象のこと。

※3 熱分解:水分子等が超高温な状態で分子結合が切れ、より小さな物質へと変換される反応のこと。

掲載誌情報

【発表雑誌】 Ultrasonics Sonochemistry
【論文名】 Multiscale numerical simulation based on Caflisch model to interpret power-induced quenching for sonochemical reactions
【著者】 Ryuya Hayashi, Takuya Yamamoto

【掲載URL】 https://doi.org/10.1016/j.ultsonch.2026.107918

研究内容に関する問い合わせ先

大阪公立大学大学院工学研究科
准教授 山本 卓也(やまもと たくや)
TEL:072-247-6064
E-mail:takuya.yamamoto[at]omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。

報道に関する問い合わせ先

大阪公立大学 広報課
担当:谷
TEL:06-6967-1834
E-mail:koho-list[at]ml.omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。

該当するSDGs

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